レポート - 英国大学事情 -

2014年4月号「英国と中国の関係:大学」-英国大学協会報告書: 「The UK’s Relationship with China:Universities」

掲載日:2014年4月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2013年11月、英国大学協会(Universities UK)は国会議員向けのブリーフィング資料として、「The UK’s Relationship with China:Universities」と題する報告書を公表した。今月号では、その概要を紹介する。

 

【1. 英国の大学と中国との強い連携による英国の利益 】


dot   英国の高等教育分野は中国と非常に強い関係を持っており、両国の大学や学生、英国の産業界および経済に大きな貢献をしている。
  • 2011・12年度には、中国からの留学生78,715名が英国の高等教育機関にて学んでおり、英国の大学における海外留学生の最大の比率を占める。
  • 英国と中国との間の共同助成研究額は4,800万ポンド(82億円)に上る。
    * 1ポンドを170円にて換算
  • 英国は中国との共同研究による論文の発表数において、米国に次いで世界第2位である。
  • 中国教育省によると、英国の大学は中国と外国の大学とのジョイント・ディグリー・プログラムの約25%を占めており、中国における最大のジョイント・ディグリーの提供者である。
dot   2011・12年度だけでも、海外からの留学生は英国経済に総額102億ポンド(1兆7,340億円)の貢献をしており、2025年までにはその額が年間170億ポンド(2兆8,900億円)まで増えると予測されている。

 

【2. 中国における高等教育の急速な伸び 】


dot   UNESCOによると、中国における高等教育機関への入学者数は1999年の6,365,625名から、2011年には入学者が31,308,378名と急増している。しかしながら、中国における高等教育の提供の急速な拡大にもかかわらず、大学に入学するには競争率が高く、定員も限られている。これに加え、中産階級の増加と伝統的な海外留学志向が外国における高等教育を目指す中国人学生の数を増やし続けている。
dot   しかしながら、中国における18歳から24歳の人口は、2011年から2024年にかけて4,000万人減少することになっている。又、米国やオーストラリアからの留学生獲得競争も激しくなってきており、英国における中国人留学生の急増が今後も続くとは考えられない。

 

【3. 英国の大学における留学生の最大グループは中国からの留学生 】


dot   2011・12年度において、英国の大学に学んでいるEU以外からの留学生の26%が中国からの留学生であった。
dot   2007・08年度から2011・12年度までに、英国高等教育機関に入学したEU以外からの留学生は229,640名から302,680名と32%増加した。このうち、中国からの留学生は74%の伸びを示した。2008年には、EU以外からの留学生の5人に一人が中国人留学生であったのに比べ、2012年には4人に一人となっている。

【英国の大学におけるEU以外からの留学生数】
年度 中国からの留学生 中国以外からの留学生 EU以外からの留学生合計
2007・08 45,355名 184,285名 229,640名
2008・09 47,035名 204,275名 251,310名
2009・10 56,990名 223,770名 280,760名
2010・11 67,325名 230,785名 298,110名
2011・12 78,715名 223,965名 302,680名

 
dot   中国における国際高等教育市場の拡大は英国にとって大きなチャンスでもあるが、中国からの留学生への依存を高めるのは、先に述べたように中国の今後の大学入学適齢期の人口変化もあることからリスクも存在する。また最近、留学生ビザの発給要件を厳格にしたことにより、インド等からの留学生の数が減少しているということもあり、留学生市場は流動的である。
dot   例えば、最近のインドからの英国への留学生数の急減は、留学生の入学学科のパターンに大きな影響を与えている。2011・12年度において、工学、技術およびコンピューター・サイエンス関連学科に入学した留学生数は減少しており、その理由の一つはインドからの留学生数が減ったことによる。(通常、インドからの留学生はこれらの学科を選択する傾向が強い。)一方、中国からの留学生の数が伸びたことにより、ビジネスや経営関連の学科への入学者が増えている。この傾向が継続した場合、留学生の数が多い工学や技術関連の学科の中には、学科の持続可能性へのリスクも高まる可能性がある。
dot   2011・12年度における英国への中国人留学生数は前年度比19%増加しているが、インドからの留学生数は32%の減少、パキスタンからは22%減であった。このような要因もあり、EU以外からの留学生のうち、ビジネス関連学科への留学生数は前年比2,250名増、社会科学900名増、法律540名増、クリエーティブ・アーツ及びデザイン435名増であった。その一方、コンピューター・サイエンスでは2,535名の減少、工学・技術1,400名減、医学関連学科1,295名減となった。

 

【4. 中国の大学と英国の大学の連携 】


dot   既に、複数の英国の大学が中国において高等教育の提供を行っている。ノッティンガム大学寧波校は中国で最初の外国の大学として中国教育省の認可を受け、2004年に開校した。同校は中国の教育分野において主要な企業であるZhejiang Wanli Education Groupとパートナーシップを組んだ上で、ノッティンガム大学が運営を行い、ノッティンガム大学の学位を授与している。また2006年には、リバプール大学が西安交通大学との共同事業として中国分校を開校した。
dot   最近、米国の大学も中国分校を開校しており、中国における最初の外国の大学を開校したという英国に地位は脅かされつつある。2013年にはニューヨーク大学が上海に、デューク大学が蘇州近くの昆山に、相次いで中国分校をオープンしている。
dot   複数の英国の大学は中国の大学とパートナーシップを組み、ジョイント・ディグリー・プログラムを提供している。例えば、ロンドン大学のクィーン・メアリー校は2004年から北京郵電大学と共同で、通信、システム及びネットワークに関するジョイント・ディグリー・プログラムを提供している。両大学間のパートナーシップは完全に平等であり、学生は両大学の学位が受けられ、授業は両大学が各50%担当している。
dot   なお、ロンドン大学クィーン・メアリー校は、英国と中国の共同研究イノベーションや研究成果の商業化を促進するために発足した、中国の20大学とのパートナーシップ・プログラムである「Innovation China UK」の英国側の5大学の一員でもある。

 

【5. 中国との強い連携による英国の「ソフト・パワー」への貢献 】


dot   英国留学後、ほとんどの元留学生は英国を離れた後も英国との専門的または個人的リンクやネットワークを維持し続けている。最近のビジネス・イノベーション・スキルズ省(BIS)のインタビュー調査によると、英国への留学経験者の84%が英国との個人的または専門的リンクを維持していると答えた。
dot   このBISによる調査への回答者の90%が、英国留学後に英国に対する見方がポジティブになったとも回答している。英国留学経験者は、英国の文化や英国人に対する認識と信頼を高めたとしており、英国の「ソフト・パワー」に重要な貢献をしている。
dot   2011年3月に公表された英下院の報告書によると、当時の世界の首脳の内、27名が英国にて教育(主に大学にて)を受けた経験があり、2013年9月に発行されたTimes Higher Education誌は、12名の世界の首脳が英国の大学で教育を受けたことがあると報じた。
dot   英国の大学への留学経験者が英国でのネットワークを築くことができるのと同じように、英国人学生も国際的なネットワークを構築して活用することができると同時に、海外からの学生と共に勉強したり、生活したりすることによって国際感覚も磨くことができるであろう。

 

【6. 結論 】

dot   英国の高等教育分野と中国との関係は、英国にとっての大きな財産である。英国への留学生のリクルート、国境を越えた高等教育、ジョイント・ベンチャーや研究パートナーシップに関して大きな成長の可能性がある。英国政府は英国の高等教育分野による国際活動への支援を強化しており、大臣は英国の高等教育分野が重要な輸出分野としてますます重要になっているとの認識に立った政策を継続すべきである。
dot   しかしながら、英国の大学における中国人留学生の比率は、チャンスであると共にリスクもはらんでいる。中国人留学生の増加は、インドなどの重要なパートナー国からの留学生の減少傾向を覆い隠してしまう可能性がある。英国政府は、特に中国にて予測される今後の人口変化等を鑑み、世界の留学生市場において英国が直面する競争に無関心であってはならない。ビザに関する政策は、留学生やスタッフの価値を反映したものであるべきである。
dot   英国大学協会は、ビザ政策は英国の高等教育の輸出を支援すべきものであり、留学生の数を英国への移民数を管理するために設けた目標値に算入する現行制度は、この目的にそぐわないと信じる。

 

【7. 筆者コメント 】


dot   英国政府はEU諸国からの移民の増加もあり、移民対策に頭を悩ませている。英国では数年前に、留学生ビザを悪用して英国に入国した後、勉学をせずに就労していた若者が多く見つかり、英国政府は留学生ビザの発給条件や受け入れ校の留学生管理を厳格化している。これらもあり、近年、特にインドやパキスタン等のアジアからの留学生が大きく減少している。
dot   この英国大学協会の資料は、英国への留学生の経済的、社会的貢献度を伝えると共に、留学生へのビザ発給条件の緩和を要望するために、国会議員へのブリーフィング用に作成されたものでるが、中国人留学生はビジネス関連、インド人留学生は工学や技術等の理科系を志向にする傾向等が示されていて興味深く感じたために取り上げてみた。
dot   BISによる調査で、英国への留学経験者の84%が英国との個人的または専門的リンクを維持していると答えているのも注目できよう。留学後もネットワーク等を通じてコンタクトを維持し、世界に「英国ファン」の輪を広げているのも興味深い。

(参考資料:Universities UK「The UK’s Relationship with China:Universities」)
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