レポート

英国大学事情—2013年9月号「イングランド地方における大学院への進学動向」

2013.09.02

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

【1. はじめに 】

  • 2013年7月、「イングランド高等教育助成会議」(HEFCE)は、英国イングランド地方の大学院課程に関連した二つの報告書を発表した。一つは66ページの「Postgraduate education in England and Northern Ireland : Overview report 2013」と、もう一方は52ページの「Trend in transition from first degree to postgraduate study : Qualifiers between 2002/03 and 2010/11」である。
  • 今月号ではこの内、「Trend in transition from first degree to postgraduate study : Qualifiers between 2002/03 and 2010/11」の要点のみを抜粋して紹介する。当HEFCE報告書は、イングランド地方の大学院のみを対象としているが、英国全土の大学院の一般的傾向がある程度つかめるであろう。

【2. サマリー 】

  • 当報告書は、特に断りのない限り、イングランド地方の大学のフルタイム学士課程修了後、翌年度に大学院に進学したフルタイムの英国人大学院生に焦点を当てている。(スコットランドやウェールズなどの大学院の統計は含まれない。)
  • 2010・11年度に学士課程を修了した学生が、翌2011・12年度に大学院に進学した率は11.9%である。その内訳は「研究を主体とする修士または博士課程(PG research)」が1.4%、「講義を主体とする修士課程(taught masters)」が7.1%、「その他の専門職資格等のための大学院課程」では3.4%であった。
  • 学士課程修了後、翌年度に大学院に進学した率は専攻によって大きく異なり、医学・歯学分野の大学院進学率は0.9%に対し、化学を含む物理科学*1では25.4%に達した。
  • 学士課程の専攻科目と同じ分野の大学院コースに進学した学生は合計で60%であったが、研究主体の修士・博士課程では76%、専門資格課程では38%と、コースによって大きな差がある。
  • イングランド地方の大学の学士課程は通常3年間であるが、(筆者注:スコットランドでは通常4年間。)、科学、技術、工学や数学(STEM)学科などでは4年コースが多く、これらの分野では研究主体の修士・博士課程への進学率は14.2%と、通常の3年間コースの0.8%に比べて高い水準である。
  • 社会的または経済的に恵まれない家庭からの学生の大学院進学率は他の学生に比べて低く、修士・博士課程以外の専門職資格を取得するための大学院コースに進学する傾向にある。

【学士課程修了後、翌年度に大学院に進学した場合】

  • 大学院に進学した学生の16%は、学士課程入学時に21歳以上の成人学生であった。
  • 男子学生は女子学生に比べて、講義主体の修士課程や研究主体の修士・博士課程に進む比率が多く、専門職関連コースに進学する割合は少ない。
  • 男子学生は女子学生に比べ、学士課程で在籍していた大学の大学院に進み、学士課程の専攻分野と同じ分野を選択する傾向にある。

【学士課程修了後、翌年度に大学院に進学した場合】

  • 学士課程修了後、翌年度に大学院に進学した場合
  • 男子学生は女子学生に比べて、講義主体の修士課程や研究主体の修士・博士課程に進む比率が多く、専門職関連コースに進学する割合は少ない。
  • 男子学生は女子学生に比べ、学士課程で在籍していた大学の大学院に進み、学士課程の専攻分野と同じ分野を選択する傾向にある。

【学士課程修了後、一定期間をおいてから大学院に進学した場合】

  • 当報告書は、学士課程修了後の翌年度に直ぐに大学院に進学した学生の動向調査を主目的としているが、2002・03年度に学士課程を修了した学生を対象とした別の調査では、学士課程修了から大学院進学までの傾向が多少異なっている。
  • 学士課程修了後の翌年度に、講義主体の修士課程または専門職資格課程に進学した学生は約5%であったのに対して、学士課程修了後、9年以内にそれらの大学院課程に進学した学生の比率は約13%と2倍以上であった。
  • 研究主体の修士・博士課程への進学には、講義主体の修士課程を修了することが条件となっている場合がある。2002・03年度に学士課程を修了し、翌年度に研究主体の修士・博士課程に進学した学生は1.7%であった。一方、学士課程修了後9年以内に、直接、研究主体の修士・博士課程に進学した学生は2.7%であったのに対し、大学院の他の課程を修了した後に研究主体の修士・博士課程に進学した学生を含めた場合の進学率は4.2%であった。

【3. 統計資料 】

【2011・12年度の大学院コース別入学者:英国人学生及びEUや他地域からの留学生を含む】

  • 当報告書は、学士課程修了後の翌年度に直ぐに大学院に進学した学生の動向調査を主目的としているが、2002・03年度に学士課程を修了した学生を対象とした別の調査では、学士課程修了から大学院進学までの傾向が多少異なっている。
  • 学士課程修了後の翌年度に、講義主体の修士課程または専門職資格課程に進学した学生は約5%であったのに対して、学士課程修了後、9年以内にそれらの大学院課程に進学した学生の比率は約13%と2倍以上であった。
  • 研究主体の修士・博士課程への進学には、講義主体の修士課程を修了することが条件となっている場合がある。2002・03年度に学士課程を修了し、翌年度に研究主体の修士・博士課程に進学した学生は1.7%であった。一方、学士課程修了後9年以内に、直接、研究主体の修士・博士課程に進学した学生は2.7%であったのに対し、大学院の他の課程を修了した後に研究主体の修士・博士課程に進学した学生を含めた場合の進学率は4.2%であった。
  • 2002・03年度から2011・12年度にかけて、講義主体の修士課程に進学した全学生数(EUや他地域からの留学生も含む)は、10万名強から約16万名と54%増加した。それに比べて、研究主体の修士・博士課程への進学者は約2万名、その他のコースへの進学者は約8万名と、それぞれ横ばいの伸びであった。
  • 筆者注:上記の表は英国人学生、EUやその他地域からの留学生を含むが、これから紹介するデータはすべて、イングランド地方の大学の英国人学生のみを対象としている。

【4. 筆者コメント 】

  • 参考までに、英国の学士課程修了後、大学院等にて取得できる学位や資格を、British Councilの資料 PDF を基に紹介する。
  • 上記の他にMaster of Laws (LLM)や2年コースのMaster of Dental Surgery(MDS)もある。
  • また、今では多くの英国の大学が工学(MEng)、科学(MSci)、数学(MMath)などの専門修士号が取得できる「Integrated Masters」という、学士・修士課程を統合した科学専攻コースを提供している。このコースは、通常3年間の学士課程を4年に延長して、最後4年時には修士課程のプロジェクト参加を義務付けている。
  • 英国には多様な形態の修士号や博士号があり、少し複雑すぎるようにも見えるが、「Integrated Master」という学士課程と修士課程を統合したコースを新設したり、「New Route PhD」や「DEng」などの新たな博士号を創り出したり、産業界や時代のニーズに柔軟に対応している姿勢が感じられる。

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