レポート - 英国大学事情 -

2013年7月号「大規模オープン・オンライン・コース(MOOCs)の台頭」

掲載日:2013年7月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

最近、米国を中心に大規模なオープン・オンラインによる授業コース「Massive Open Online Courses(MOOCs)」の提供が活発化し始めており、英国でも提供の動きが出てきている。この流れを受けて、英国大学協会(Universities UK)は2013年5月、ロンドンのローハンプトン大学学長をチェアとしたUUK Longer Term Strategy Networkによる調査報告書「Massive open online courses: Higher education digital moment?PDFを公表した。今月号では、この36ページの報告書の中から、一部を抜粋して紹介する。

 

 

【1. 要旨 】

   MOOCsは通常、無料でオープン・アクセスができる大規模な高等教育コースを指し、ビデオやメッセージ・ボードなどのさまざまなオンライン・リソースを利用し、かつ他の学習ネットワークの参加も促すことによって、より多くの学生にコースを提供することを目標としている。
   MOOCsはアカデミックスによって独自に開発される場合もあるし、大学と第三者のオンライン・プラットフォームとの間の契約によって開発される場合がある。
   MOOCsは小規模なスペシャリスト・コースから発達し、近年では数百というコースを提供する大規模なオンライン・プラットフォームに何百万人という学習者が登録するまでに発展している。
   MOOCsは従来アカデミック・サポートをそれほど必要としない上級学習者を対象としてきたが、近年では異なるレベルの学生のためのコースが急速に開発されつつある。
   学生はコースの修了証明書を受けることができると共に、手数料を払うことによって試験の認証を受けることもできる。このほか、MOOCsプラットフォームによってはキャリア・サービスや授業支援サービスなどの有料サービスの提供も行っている。
   MOOCsでの履修単位を認めるために、コースを受ける前段階の学習の認定など、さまざまな方法が考えられている。このほか、第三者の教育機関のカリキュラムや単位にMOOCsを組みこむための相互ライセンス協定も開発されつつある。
   MOOCsはグローバル、低コストかつフレキシブルなコースを非常に多くの学生に提供できるため、大学にさまざまな好機を提供しているとも言える。MOOCsは大学の教員に新たな学生グループとの出会いを可能にすると共に、留学生のリクルートメントや国境を越えた教育というような海外活動の支援を含む、大学の海外進出を促進することにも貢献できよう。
   MOOCsは、その低コストおよびフレキシブルな授業形態によって、生涯教育への需要を満たすための支援ともなろう。
   MOOCsは、低コストの授業を求める学習者に魅力的なコースを提供することによって、大学の教育コストを下げることにも役立つかも知れない。また無料授業の提供は、提供大学間の相互ライセンシング契約を通じた共有教育サービス(shared educational services)の展開など、大学に戦略の変更を迫るかもしれない。
   第三者のオンライン・プラットフォームを利用し、多くの学習者が無料でアクセスでき、かつフレキシブルな授業コースの提供というモデルは、アカデミックス、学生、教育機関および教育技術企業の間に新たな関係を築くことになろう。
   多分野における経験から、オンラインによる無料提供と伝統的な有料の対面授業を組み合わせる効果的な方法を開発することも考えられる。すべての大学は、これらの展開を鑑み、それぞれの戦略を評価する必要があろう。すでに多くの大学では、急速に変化しつつある状況への対応を検討し始めている。

 

【2. 英国大学協会が推奨する、大学が考慮すべき点 】

2-1) MOOCsを採用する目的は何か?

【ミッション】
オープン・オンライン・コースは、知識と専門性の伝達および大学や学科の世界におけるプロフィールを上げるために、どのような役割を果たすのか?
UCLの現在のメイン・キャンパスであるロンドン中心部のブルームズベリー・キャンパスはこれ以上の拡張が難しい状況にあり、近年、UCLは新キャンパス候補地を探していた。
【学生のリクルートメント】
オープン・オンライン・コースは、特に大学進学者が少ない家庭の学生、専門職を持つ成人および海外の学習者をリクルートするために、どのような役割を果たすのか?
【イノベーション】
オープン・オンライン・コースは、学生、雇用者および社会に対するオンラインまたは伝統的なコースの品質と価値を改善するために、どのような役割を果たすのか?

2-2) 新たなオンライン教育モデルは組織にどのような変化をもたらすのか?

【持続性】 オープン・オンライン・コースの開発や運営には、どれくらいのコストがかかるのか? また、無料コースへの方向転換は既存のビジネスや教育モデルの持続性にどのような広範囲な影響を与えるのか?
【教授法】 無料で低コストという授業モデルを超えて、学生にさまざまなスキルを身につかせ、多様な社会的、専門的ネットワークへのアクセスを提供するために、いかにしたら大学は学生の教育経験に付加価値を付けることができるのか?
【取得資格】 一部のMOOCsを有料コースへの入学資格として認定し、最終的に高等教育修了資格を授与するためには、大学および高等教育分野はどのような取り決めをすべきか?
【キャパシティー】 新たなオンライン・コース・モデルを導入するための迅速で柔軟なイノベーションと専門的かつ高等教育機関としてのキャパシティーの広範囲な発展との間の適切なバランスは何なのか?

 

【3. MOOCsの種類 】

MOOCsは、カナダのアカデミックスによって開発された特定のオープン・オンライン・コースを指すために、2008年に生まれた造語である。その後、特に2011年以降、MOOCsはアカデミックス、教育機関および企業によってさまざまな形態が開発され、MOOCsの数も急速に拡大した。その結果、現在ではMOOCsのコンセプトは、大規模な無料オンライン・コースのほぼすべてを指すまでに拡大している。
   MOOCsは従来型のオンライン・ディスタンス・ラーニングとは異なり、学生に対する学習支援やガイダンスが全く又はほとんどない形態のオンライン・コースであり、以下のような2種類に分類できる。

【cMOOC】
これらのコースはオリジナルのMOOCsに基づいており、オープン・ソースのウェブ・プラットフォームを利用して、アカデミックスによって開発されるのが普通である。

【xMOOC】
これらのコースは、通常、従来型のレクチャー形態を基に構成される。また、教育機関やアカデミックス個人との契約によって、所有権のある学習管理プラットフォームを通じて配信されるのが一般的になってきている。後述する米国のCoursera、edXなどがこの範疇に含まれる。

 

【4. 主要なMOOCsプラットフォーム 】

4-1) Coursera

【概要】
Courseraはスタンフォード大学コンピューター・サイエンス学科の2名の教員によって2012年に創設され、2013年3月時点では約300万名が登録している。
   当プラットフォームは、スタンフォード、プリンストン、ペンシルバニア、カリフォルニア工科、ワシントン、エディンバラ、ローザンヌ連邦エコール・ポリテクニックの各大学をはじめとした69大学とパートナーシップを締結している。
   コンピューター・サイエンス(69コース)、生物・生命科学(25コース)、人文科学(36コース)、経済・金融学(23コース)、経営学(15コース)、食品・栄養学(9コース)および社会科学(5コース)など、合計300を超えるコースを提供している。

【戦略】
   包括的で柔軟な合意に基づき、迅速で柔軟な展開を提供する。ランキング上位で研究重視の大学をパートナーに取り組むことに重点を置く。
   本部ではコースの品質のレビューを厳格にはしていないが、品質が不十分である場合、本部はそのコンテンツを削除する権利を有する。海外の大学によるコースやパートナー数も急速に増えており、フランス語やスペイン語によるコースもある。

【ビジネス・モデル】
   主にベンチャー・キャピタルからの約2,200万ドル(22億円)の投資によって設立された、営利のテクノロジー・スタートアップ企業。その他、いくつかのパートナー大学からの投資も受けている。
   パートナー大学は前払いによる参加費用を負担する必要はないが、プラットフォームにコース・コンテンツを載せる費用をCourseraに支払う。コースの提供期間にもよるが、Courseraによって生まれた収入の6%から15%を、Courseraと大学が分け合うと共に、大学が提供する全コースからの総利益の20%も分け合う。なお、パートナー大学にはコース・マネージメント・システムを各大学内部向けのコースに無料で利用できる特典がある。

【終了証書】
   Courseraのコース修了証書が発行される。教育企業とのパートナーシップにより、監督官のいる試験も可能である。認証されたオンライン評価システムも開発中。

4-2) edX

【概要】
edXは2012年にMITとハーバード大学によって創設されたプラットフォーム。MIT、ハーバード、カリフォルニア・バークリー、テキサス、ウェレスリー・カレッジ、ジョージタウン、オーストラリア国立、ローザンヌ連邦エコール・ポリテクニック、トロント、ライス、デルフト工科、マックギルの12大学から成るedXコンソーシアムによるコースが提供される。
   現在、社会科学、人文科学、物理・自然科学、コンピューター・サイエンス、法律、およびヘルスに関連する33コースを提供中。

【戦略】
   少数の大学とパートナーシップを組み、比較的ゆっくりコース開発を進める傾向にある。パートナー大学の選択には、ランキング上位で研究重視大学のみを考慮する。コンソーシアムの運営はMITとハーバード大学が主体。
   パートナー大学は、末尾に‘x’付けたコース名で、サブ・プラットフォームを運営できる。パートナー大学がコアのedXブランド外でコースを開発できるように、本部によるコースの品質管理は柔軟である。また、学習形態へのイノベーションやキャンパス・ベースの学習との統合にも意欲的である。

【ビジネス・モデル】
   MITとハーバード大学が6,000万ドル(60億円)の資金を拠出して設立した非営利企業による事業。テクノロジー・プラットフォームの構築には、カリフォルニア大学バークリー校が助力した。ビル・メリンダ・ゲーツ財団からの寄付も受けた。また、パートナー大学はedX社の株式への投資も可能である。
   各大学がedXプラットフォームにコースを載せるためには、2種類の形態がある。一時金として25万ドル(2,500万円)をedXに支払う大学は、コース収入の70%以上を得ることができる。セルフ・サービス・モデルとして、5万ドル(500万円)を支払う場合は、受取額は最大でコース収入の50%となる。

【終了証書】
   各大学からのコース終了証書。教育企業とのパートナーシップにより、監督官のいる試験の提供が可能である。

4-3) Futurelearn

【概要】
Futurelearnは、英国のオープン・ユニバーシティー(Open University )によって創設されたばかりのMOOCsであり、パートナーとしてキングス・カレッジ・ロンドン、ブリストル、サザンプトン、バース、エクセター、カーディフ、グラスゴー、クィーンズ・ユニバーシティー・ベルファースト、シェフィールド、ラフバラ、ストラスクライドの各大学を含む21機関が参加している。(筆者注:オープン・ユニバーシティーは日本の放送大学の形態に近い遠隔教育を中心として発展してきた大学。1969年に創設され、現在では学生数は24万名以上と英国最大規模を誇る。その内の約45,000名は海外在住者である。今までに180万名が同大学のコースを取っている。)
   その他の主要パートナーには大英図書館、ブリティシュ・カウンシル、大英博物館が含まれており、各機関が所有するユニークなデジタル・コンテンツへのアクセスを提供することになっている。

【戦略】
   世界中の学生が、英国の有力大学による高品質の教育にアクセスできるように、オープン・ユニバーシティーが培ってきたスキルと専門知識を活用する。モービル・デバイス向けの配信に力を入れる模様。)
   2013年後半に最初のコースの配信を予定している。今後、英国や欧州の大学のパートナー校を増やしていく計画である。

【ビジネス・モデル】
   オープン・ユニバーシティーの資金によって新たに設立された第三者の営利企業が、当プラットフォームを所有する。パートナー大学には参加費用はかからないが、コース開発費用への貢献が求められる。

【終了証書】
   Futurelearnからのコース修了証書が発行される。監督官のいる試験も計画されているが、詳細は未発表。

4-4) Udacity

【概要】
スタンフォード大学のコンピューター・サイエンスの教員によって創設され、全てコンピューター・サイエンス関連の22コースを提供する。

【戦略】
   個別のアカデミックスおよびグーグルやマイクロソフトなどの技術企業とも共同してコース開発を図る。ビデオや実習を組み合わせた革新的なインターフェースの活用を目指す。少数のコース開発に集中し、今の所、コース数を拡大する計画はない。

【ビジネス・モデル】
   ベンチャー・キャピタルからの投資によって設立された営利企業が運営する。約2,100万ドル(21億円)の外部資金の提供を受けていると推測される。

【終了証書】
   Udacityからの終了証書の発行。教育企業とのパートナーシップにより、監督官のいる試験も可能である。認証されたオンライン評価システムも開発中。

 

【5. ビジネス・モデル 】

   xMOOCsプラットフォームの提供者は、今後、より明確で持続可能なビジネス・モデルを設計していく必要があろう。現在、彼らの初期投資は、迅速なパートナーシップの拡大とコース開発に集中している。
   CourseraやedXとパートナー大学との契約は、収入の共有を規定している。契約によっても異なるが、通常、大学はオンライン・コースの開発を支援するために、MOOCs提供者に手数料を支払うか、またはセルフ・サービス・モデルを選択することもできる。収入の分かち合いの比率は、コースごとまたはコースの提供期間によっても異なる。
   xMOOCsプラットフォームはいくつかの収入源を模索しているが、未だ財政的に持続可能な状態とは言えない。他分野の経験から、無料でコースを提供するシステムは、収益化が困難な面もあろう。
   しかしながら、少数の受講生のみが修了証書や特別な学習支援などの有料サービスを利用するにしても、大規模な受講者数を考慮すると、多額の手数料収入の可能性がある。その上、コースのライセンシングのような教育サービスも多額の収入をもたらし、コース開発のコストを賄えるかもしれない。しかし、無料コースの提供が、コースのデザインや開発のための初期投資コストをカバーするに十分な収入を上げることができるかは不透明である。

【可能性のある収入源】】
   監督官のいる試験、コース修了証明書、キャリア・ガイダンス、個人指導などの学生へのフロント・エンド・サービス
   分析、デザイン・コンサルタンシー、リクルートメント・サービル、広告などの第三者へのバック・エンド・サービス
   他の高等教育機関や継続的専門教育の提供機関などへのコースのライセンシングを含む教育サービス

 

【6. MOOCsの受講生 】

【Courseraコース受講前の教育レベル】

2013年1月
博士 5.4%
高等学校卒 11.8%
アソシエート 8.2%
学士 42.8%
修士 36.7%

 

【Coursera受講者の在住地域】

2013年1月
南アメリカ 8.8%
アフリカ 3.6%
オセアニア 2.8%
北アメリカ 35.2%
欧州 28.2%
アジア 21.4%

 

【学習者のバックグランド】
キャリア・アップのための学習者 キャリアを磨くため、柔軟かつ低コストの学習モデルを通じて、仕事上必要な最新専門知識の維持や他分野の知識の吸収を目指すプロフェッショナル
教育者、研究者 関係する学問分野又はその他の学問分野のMOOCsをオープン教育リソースとして、学生への授業に再利用する教育分野のプロフェッショナル
高等教育機関の学生 ビデオ講義やその他のオープン教育リソースを既存の授業コースの一部として、MOOCsにアクセスする学生
趣味による学習者 興味のある分野を趣味で学習している成人で、現在ではウィキペディアのようなオープン・ウェブ・イニシアティブも利用することができる
大学進学希望者 自分に最適なコースを探っている大学進学希望者、または将来的にMOOCsではなく正式な大学教育を受けたいと思っている学習者

 

【7. 筆者コメント 】

   約70大学が参加する最大手のCourseraプラットフォームには、東京大学をはじめ香港大学、シンガポール国立大学などのアジアの大学もパートナー校となっている。また、京都大学は2013年5月にedXプラットフォームへの参加計画を発表した。
   これらの英国の主導的大学は、世界の有力大学との競争を強く意識しており、研究設備の拡充や学生・教職員の宿舎等の施設の充実を図ることによって、世界中から優秀な研究者や学生を引き寄せることに力を入れている。
   MOOCsが今後、どのようなインパクトを高等教育界に与えるのかは未知数である。キャンパス・ベースの高等教育を通じて、将来のためのさまざまな経験を積むことも重要であろう。その一方、世界には大学に通う経済的、時間的余裕がない学習者がいるのも確かであり、その人たちからのMOOCsへの需要もあろう。高等教育も、学習者のさまざまな需要に迅速に応える時代に急速に入ってきている感じがする。
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