レポート - 英国大学事情 -

2013年1月号「英国の大学による募金活動<2012年HEFCE「The Review of Philanthropy in Higher Education」より>」

掲載日:2013年1月4日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2012年9月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、「The Review of Philanthropy in Higher EducationPDFと題する報告書を公表した。当報告書は、今後10年間に大学への寄付を増加させるために、HEFCEが募金活動コンサルタント企業のMore Partnershipに調査を委託したものであり、現状分析と今後の提言が含まれている。この報告書は65ページに及ぶため、提言と大学の募金活動の事例の一部を抜粋して紹介する。

 

Payroll Giving

【1. 提言 】

   すべての大学は、各大学の持つ特色や目標を十分に理解した上で、募金活動および卒業生とのコミュニケーション活動を含む、大学の発展計画を策定する必要がある。英国には、すでに参考になる広範囲なベスト・プラクティスの事例がある。これらの事例を参考にすると共に、長期的な観点に立ち、募金活動や卒業生への対応活動に継続的な投資をしていくべきである。
   大学は、外部の支援者を積極的に大学に関与させる責任がある。特に、大学は大口寄付者と相互に敬意をもちながらも、目的に沿ったビジネス・ライクな関係を構築すべきである。
   HEFCEが実施したマッチング・ファンディング方式は、募金活動へのインセンティブを高めるために有効であった。大学は、想像力に富んだ、地域ごとの「challenge funding」を寄付者と共同して発足させるべきである。
   寄付金額を増やしていくには、安定した、予測可能な財政フレームワークが必要である。このために、政府による以下のような施策が必要であろう。
  • 所得税控除に関しては、現行の「Gift Aid」や、給料からの自動天引きによる寄付「Payroll Giving」制度を継続すべきである。
  • 寄付者による寄付の事務処理をより簡潔かつ透明にするためのイニシアティブを促進すべきである。
  • 資産の寄付への税控除については、非上場の企業株式や動産も含むようにすべきである。また、「Lifetime Legacies」等の資産寄付に対しても税控除を拡大すべきである。
   HEFCEは英国大学協会等と共に、慈善活動や社会的利益還元の強力な受け皿としての大学の価値を広めるために、公的な情報キャンペーンを実施すべきである。
   それと同時に、政府は慈善活動の重要性を高く評価し続けることが重要である。
   すべての大学は、寄付を受け入れるための明確なプロセスとガバナンス・メカニズムを導入すべきである。
   英国大学協会とリーダーシップ・ファンデーションは、その参加メンバー校の中から、グッド・プラクティスの普及に熱心で、当分野でリーダーとなる意思を持った、募金活動に優れた大学を見出すべきである。
   大学の理事会は、大学の募金活動に対する権限を強化して理解を深め、最低でも、大学の年次報告書には募金活動の成果を記載すべきである。また、次期学長の選考の際には、募金活動や卒業生とのコミュニケーションに熱心に取り組む意思と能力も選考基準に含めることが望ましい。
   大学は、募金活動を大学のインフラストラクチャ―の中にどのように組み込むのが最善なのかを熟慮すべきである。これには、募金活動に熱心な教職員への支援や表彰等も含まれるであろう。
   大学内に募金活動のベスト・プラクティスを組み込むため、HEFCEは大学が募金活動やカルチャー・チェンジのための特別な学内教育を行うことができる、呼び水的な助成ファンドを創設すべきである。
   大学分野と各大学は、それぞれの大学の募金活動のパフォーマンスを改善するために、データとベンチマーキングの分析をよりうまく利用すると共に、データ収集の改 善を継続すべきである。
   大学はどのような環境のあっても、地元コミュニティーにいて慈善活動のカルチャーを育成するため、活発なイニシアティブをとるべきである。
   募金活動の専門家の必要性と当報告書で指摘された諸問題の複雑性に鑑み、HEFCEは、当報告書の特定の提言を実行に移すため、募金活動の専門家の養成に関する詳細なレビューを実施すべきである。

 

【2. 過去10年間の進捗 】

   2006・07年度には、131の高等教育機関が132,000名の寄付者から5億1,300万ポンド(718億円(*1))の寄付を受けたが、2011・12年度では、152の高等教育機関が204,000名の寄付者から6億9,300万ポンド(970億円)の寄付を受けている。これは過去5年間において、寄付を受けた高等教育機関数の16%増、寄付金額の35%増、寄付者数の54%の増加を示している。*1:1ポンドを140円にて換算

【シェフィールド大学】

   シェフィールド大学は、1905年に多くの地域住民から少額の寄付金を集め、当時の金額で総額5万ポンドを持って設立された大学である。しかしながらその後、慈善活動の精神は衰退し、2002年には大学への新たな寄付者数が6名、その寄付金総額は100ポンド(1万4,000円)という状況に陥った。
   このような状況を打開するために、大学基金・卒業生担当オフィス(Development and Alumni Relations Office)が設置された。当オフィスは、単に卒業生との関係の構築や寄付金集めのためだけではなく、同大学が慈善活動によって設立されたという歴史を広めることも目的とされた。そのために、大学内に戦前・戦後の寄付者の名前を彫った額や慈善活動を讃えた掲示板などが多く設置された。
   その後10年が経った2011・12年度には、同大学に12,000名が総額3,000万ポンド(42億円)を超える寄付を行うまでになった。今では学生、卒業生および教職員も過去から継続している慈善活動の伝統の一部を担うという意識が芽生えているように思われる。

【バーミンガム大学】

   バーミンガム大学は過去7年間、募金活動・卒業生対応オフィスに継続的な投資を行ってきた結果、2003・04年度から2010・11年度にかけて、同大学への寄付金額は年間180万ポンド(2億5,000万円)から570万ポンド(8億円)と3倍以上に増加した。継続的な努力の結果、同大学は今では年間寄付金額の水準を予測できるようになっている。
   最近の募金活動の成果
  • 同大学の音楽学科に450席のホールを持つ建物を新設した。多くの人に寄付をアピールするために、ホールの250席に寄付者の名前を付ける募金キャンペーンを実施した。
  • 一人あたりの寄付金額は50ペンス(70円)から560万ポンド(7億8,000万円)と幅広いが、150カ国に在住する卒業生や一般人からの寄付が集まった。
  • 350名の学生にスカラーシップを提供した。
  • 募金活動への卒業生の支援が増加しており、2011・12年度には500名以上の卒業生が、延べ2,000時間を募金活動の支援に提供した。
   2014・15年度までに、現在の約2倍の年間1,000万ポンド(14億円)以上の寄付金を集めることを目標に、募金活動への投資を継続すると共に、卒業生による募金活動への関与をより促進する計画である。
   2012・13年度末までに、第一線で募金活動に携わる人員を現在の2倍の16名に増員すると共に、卒業生対応チームが募金活動チーム、キャリア・オフィス・チーム及びマーケティング・チームなどと、より緊密な連携を取れるようにする。

 

【3. 高等教育機関への寄付の動機 】

   一般的に、高等教育機関が慈善活動機関として見られていることは、高等教育機関の募金活動にとっては重要な好機ととらえるべきであろう。
   高等教育機関への寄付者は、高等教育機関の価値を高め、高等教育機関を良くしたいと思っている一方、一般的に高等教育機関の建物や施設等への基本的な助成は政府の役目と考える傾向にある。
   寄付者のモチベーションに焦点を置くことにより、大型の寄付につながる可能性がある。多くの大型の寄付者にとって、学生やその他の受益者と直接に会うことは、寄付者にとって一番報われることである。<
   毎年、50%を超える英国民が慈善活動への寄付をしている一方、英国の大学卒業生の1.2%しか母校への寄付をしていない。(米国の大学卒業生の10%は、母校への寄付をしている。)この数字は、英国の大学が募金活動を改善できる大きな可能性を示している。
【オックスフォード大学】
   2012年度より、経済的に恵まれない家庭からの学士課程の学生に授業料と生活費を補助する、スカラーシップ制度「The Moritz Challenge」が始まる。
   このスカラーシップ制度は、オックスフォード大学卒業生であるMichael Moritz夫妻からの7,500万ポンド(109億円)の寄付金と同大学基金による同額のマッチング・ファンドの拠出に加え、大学が新たに1億5,000万ポンド(210億円)の募金活動をすることにより、総額3億ポンド(420億円)という、一大学による学部学生への経済支援としては欧州最大規模となる。筆者注:年間5,500ポンド(77万円)の奨学金と年間9,000ポンド(126万円)の授業料の内、5,500ポンド(77万円)分の授業料の免除と合わせ、総額年間11,000ポンド(154万円)の経済的補助となる。政府からの年間3,250ポンド(46万円)の生活補助金(grant)を合わせると、大学授業料は卒業後払いのため、在学中は授業料及び生活費ともほぼ無料となる。

 

【4. 高等教育への慈善活動のインパクト 】

【ラフバラ大学】
   2011年、地元実業家のMichael Bishop氏が設立した財団からの100万ポンド(1億4,000万円)の寄付を基に、ラフバラ大学内に「Glendonbrook Centre for Enterprise」が設立され、学生や教職員への各種の起業教育を行っている。
【ノッティンガム・トレント大学】
   2003年、ノッティンガム・トレント大学に「BioCity Nottingham」という、欧州最大規模のバイオサイエンス・インキュベーション・センターが設立された。当センターは、ドイツの大手多国籍化学メーカーBASF社が同大学にオフィス・ビルと実験設備等を寄付することによって生まれた。
   超える企業と600名のスタッフのホスト施設となっている。また、当センターは、ノッティンガム・トレント大学の他にノッティンガム大学や地域開発エージェンシーとも連携活動をしている。
【アバディーン大学】
   アバディーン大学は、募金活動を通じて約3,000名の卒業生、財団、企業から1,700万ポンド(24億円)を集め、図書館を新設した。すべての寄付者の名前は、学生によってデザインされた、正面玄関に面したインタラクティブな大型ビデオスクリーン上に映し出される仕組みが取り入れられている。
   この図書館の新設によって、学習エリアの面積が2倍、設置PC数も4倍になり、利用者数も2倍に増えた。
   教育活動が当プロジェクトの中心であり、この中には学校や地域コミュニティーの子供のためのワークショップやプログラムが組み込まれている。
【エクセター大学】
   エクセター大学は、同大学が実施している「Creating a world-class university together」キャンペーンの一環として、卒業生に金銭による寄付に限らず、在学生を支援するために、卒業生が時間と専門知識を提供するように呼びかけたところ、キャンペーン期間中に1,000名を超える卒業生が計8,500時間のボランティア活動を行った。
   この結果、今まで大学に関わりを持たなかったが、ボランティア活動に携わった卒業生が大学への金銭的寄付もするという副産物もうまれた。

 

【5. 大学への教訓 】

【ノッティンガム大学】
   2012年8月、ノッティンガム大学の学長は大学スタッフ、友人と共に、「Nottingham Potential」募金活動のために、英国本島で最北西にあたるスコットランドのCape Wrathからイングランド南部のDoverまでの約1,100マイル(1,760Km)をサイクリングにて踏破した。当キャンペーンは、高等教育を受ける気がない若者に対して大学進学を後押しする活動である。
   先回行われた同様のサイクリングによる募金活動によって、同大学は15万ポンド(2,100万円)の目標額に対して23万ポンド(3,200万円)の募金に成功している。
【カーディフ・メトロポリタン大学】
   募金活動を成功させるのには、大学内部の連携が非常に重要である。カーディフ・メトロポリタン大学では、学長、大学戦略担当ディレクターおよび募金活動ディレクターが緊密な連携を取る仕組みをつくっている。
   大学戦略担当ディレクターが、各種の募金活動プロジェクト間の実用的な境界の設定に協力することにより、大学は主要な寄付予定者に募金活動の優先順位が全体的な戦略計画に沿っていることを明確に説明することができる。これにより、寄付者は自分の寄付が大学の重要な目標を支援しているとの自信を持つことができる。
【マンチェスター大学】
   142年前、マンチェスター在住のE.R. Langworthy氏はマンチェスター大学の前身であるOwen Collegeに、物理学の教授職を創設するために当時の金額で1万ポンドの寄付を行った。この寄付を基に、同氏の名前を冠した「Langworthy chair of physics」という教授職ができた。
   2010年、現在の「Langworthy professor」であるAndre Geim教授がノーベル物理学賞を受賞した。Geim教授は過去にノーベル物理学賞を受賞したRutherford, Bragg, Blakett教授に次ぐ、4番目の「Langworthy professor」である。Langworthy氏の寛大な意思のインパクトが世代を超えて伝わっていることになる。

 

【6. 筆者コメント 】

   バーミンガム大学は音楽ホール新設の募金活動の際、450席あるホールの内250席に寄付者の名前を付けるキャンペーンを実施したが、英国では、例えば公園の椅子やベンチに、寄付者の名前のプレートや寄付者が好きな詩や言葉が刻まれたプレートを良く見かける。ロンドンにはいくつかの王立公園があるが、公園内の木や動物にもそれぞれスポンサーを募っている。
   エクセター大学のキャンペーンで、在学生を支援するために卒業生に時間と専門知識を提供するように呼びかけたところ、1,000名を超える卒業生がボランティア活動に参加し、今まで大学に関わりを持たなかったが、ボランティア活動に携わった卒業生が大学への金銭的寄付もするという副産物もうまれた、という事例は注目できよう。
   前述の「大学への寄付の動機」の中にも、「多くの大型の寄付者にとって、学生やその他の受益者と直接に会うことは、寄付者にとって一番報われることである。」とある。初めから金銭的な寄付の依頼をするのではなく、在学生のためのボランティア活動を通じて、直接、学生や教職員に会う機会を増やすことによって、大学や後輩への親しみも生まれ、将来の金銭的な寄付にもつながることもあり得よう。
   現役で働いている人に限らず、退職後、ボランティア活動に興味を持つ高齢者も多いと思われるので、できるだけ多くの人に、例えば今までしてきた仕事の話、留学や海外生活の経験談等を在校生に話してもらうのも一案かもしれない。英国では、このような活動を中学・高校でも行っている。
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