レポート - 英国大学事情 -

2012年4月号「2012年2月15日の文部科学省科学技術政策研究所での講演資料より」

掲載日:2012年4月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

今月号は特別版として、2012年2月15日に文部科学省・科学技術政策研究所で行った講演資料の中から、英国の大学の最新事情と共に、大学とも関連の深い英国政府の「科学予算」の概要を紹介したい。

 

【1. 英国大学の概要 】
英国大学協会の2011年度版「Higher education in facts and figures」より。

1-1) 学生

A)高等教育機関への応募者数

2007年度 2010年度
応募者数 入学許可数 入学許可率 応募者数 入学許可数 入学許可率
合計 534,000 413,000 77% 697,000 487,000 70%
男性 241,000 190,000 79% 307,000 220,000 72%
女性 295,000 224,000 76% 390,000 267,000 68%
女性の比率 55% 54% 56% 55%
英国籍学生 454,000 365,000 80% 587,000 425,000 72%
留学生(含EU) 80,000 49,000 61% 111,000 63,000 57%
留学生の比率 15% 12% 16% 13%

 

B)高等教育進学率

1999年

2002年

2006年

2008年

2010年度

イングランド地方(17-30歳) 39% 41% 42% 43% 47%
スコットランド(21歳以下) 49% 49% 46% 42% 44%
北アイルランド 45% 46% 46% 50% 51%

 

C)学科別学生数

(2009-10年度、合計数は前年比4.1%増の97,370人の増加)
医学・歯学 65,800人 社会科学 213,750人
医学関連学科 305,220人 法律 94,380人
生物科学 183,035人 経営学 353,910人
獣医学 5,360人 マスコミ 53,130人
農業関連学科 18,920人 マスコミ 138,090人
物理学 91,030人 歴史・哲学 96,290人
数学 39,125人 クリエーティブ・アーツ 173,825人
コンピューター科学 100,785人 教育学 226,385人
工学・技術 156,985人 複合学科 111,410人
建築 65,990人 合計 2,493,420人

 

D)フルタイム、パートタイム別学生数

(2009-10年度)
フルタイム パートタイム 全学生
学士号課程合計 1,208,625人 212,865 1,421,490人
英国籍 1,048,345人 203,665人 1,252,010人
その他のEU 62,840人 3,100人 65,940人
EU以外 97,440人 6,100人 103,540人
その他の資格(*1)合計 125,275 367,950人 493,225人
英国籍 112,520人 348,775人 461,295人
その他のEU 3,245人 8,285人 11,530人
EU以外 9,510人 10,890人 20,400人
大学院課程合計 298,265人 280,445人 578,710人
英国籍 131,595人 242,715人 374,310人
その他のEU 34,195人 13,385人 47,580人
EU以外 132,475人 24,345人 156,820人
合計 1,632,165人 861,260人 2,493,425人
英国籍 1,292,460人 795,1555人 2,087,615人(84%)
その他のEU 100,280人 24,770人 125,050人(5%)
EU以外 239,425人 41,335人 280,760人(11%)

 

E)高等教育機関在籍学生数の推移

1994・95度 2009・10年度 増加率
学部学生 1,231,988人 1,914,715人 55%
フルタイム 946,919人 1,333,900人 41%
パートタイム 285,069人 580,815人 104%
大学院生 335,325人 578,705人 73%
フルタイム 129,711人 298,255人 130%
パートタイム 205,614人 280,450人 36%
全学生 1,567,313人 2,493,420人 59%

 

F)留学生の国籍

(2009・10年度 留学生合計 405,810人の内訳)
アジア 42% その他の欧州 3%
英国以外のEU 31% オーストラリア 1%
アフリカ 9% 南米 1%
北米 6% そのほかのEEA国 1%
中東 6%

 

1-2) 教員

A)全教員

(2009・2010年度)

フルタイム

パートタイム

全教員

女性教員の比率 38% 54% 44%
高等教育機関が全給料を負担する教員比率 72% 89% 78%
NHSや保健省が全給料を支払う教員比率 3% 2% 3%
研究のみに従事する教員比率 29% 11% 22%
障害を持つ教員比率 3% 3% 3%
英国籍以外の教員比率 27% 18% 24%

 

B)年俸水準別・教員数

(2009・10年度)
年俸水準(ポンド)

フルタイム

パートタイム

総計

17,111未満(205万円(*2)未満) 165人 1,475人 1,640人
17,111以上-22,879未満(205万円-275万円) 960人 1,370人 2,330人
22,879以上-30,747未満(275万円-369万円) 10,855人 10,925人 21,780人
30,747以上-41,323未満(369万円-496万円) 33,440人 27,205人 60,650人
41,323以上-55,535未満(496万円-666万円) 48,500人 10,985人 59,485人
55,535以上(666万円以上) 23,805人 3,780人 27,585人

 

C)年齢別・教員比率

(2009・10年度)

フルタイム

パートタイム

全教員

35歳以下 28% 26% 28%
55歳以上 15% 24% 18%

 

1-3) 財務

A)地方別・高等教育機関数

(2008・09年度)
地方

高等教育機関の総数

大学

大学コレッジ

イングランド 131校 89校 34校
スコットランド 19校 14校 0校
ウェールズ 11校 10校 1校
北アイルランド 4校 2校 2校
英国全土 165校 115校 27校

 

B)高等教育機関の規模

(2009・10年度、カッコ内は前年度)
年間収入(単位100万ポンド)

機関数

学生数

機関数

10未満(12億円) 5(5) 1,000人以下 15(18)
10-20(12-24億円) 19(21) 1,000-5,000人 27(26)
20-50(24-60億円) 22(20) 5,000-10,000人 25(23)
50-80(60-96億円) 13(17) 10,000-15,000人 23(24)
80-120(96-144億円) 24(24) 15,000-20,000人 23(24)
120-150(144-180億円) 11(12) 20,000人以上 52(50)
150以上(180億円) 71(66)

 

C)高等教育機関の全収入に対する公的収入の割合の推移

2005・06年度 2007・08年度 2009・10年度
平均 65.2% 63.0% 58.1%
最大 90.6% 89.5% 91.1%
最少 5.5% 4.2% 3.8%

 

D)EU以外からの留学生数と授業料収入

年度 EU域外からの留学生数 留学生授業料収入(£100万ポンド)
1994・98年 97,997名 455(546億円)
1999・00 122,150 672(806億円)
2004・05 214,690 1,396(1,675億円)
2009・10 280,760
(全学生数の11.3%)
2,580(3,096億円)

 

E)高等教育機関の総収入の内訳

(2009・10年度)
総収入268億ポンド(3兆2,600億円)の内訳
運営費交付金(HEFCE等) 34% EU以外の留学生からの授業料 10%
その他の収入(宿泊設備、会議室貸出等) 18% 英国・EUパートタイム学生からの授業料 2%
英国・EUフルタイム学生からの授業料 17% その他の収入や助成金 2%
研究助成金(RC)・外部契約 16% 大学基金及び投資収入 1%

(前年度の総収入は253億ポンド。したがって2009・10年度の総収入は前年度比+5.9%増)

F)高等教育機関の総支出の内訳

(2008・10年度)
総支出259億ポンド(3兆1,080億円)の内訳
人件費 57% 償却費 5%
その他の運営経費 36% 金利支払い 2%

(前年度の総支出は249億ポンド。したがって2009・10年度の総支出は前年比4.0%増)

G)国別の高等教育への公的支出のGDP比率

(2007年度)
デンマーク 1.65% 米国 0.98%
フィンランド 1.57% ロシア 0.96%
カナダ 1.52% スペイン 0.93%
スウェーデン 1.41% ポーランド 0.92%
スイス 1.28% ドイツ 0.91%
オーストリア 1.26% ハンガリー 0.87%
フランス 1.21% メキシコ 0.87%
ノルウェー 1.21% ブラジル 0.80%
ベルギー 1.21% 英国 0.69%
ポルトガル 1.10% オーストラリア 0.69%
アイスランド 1.08% インド 0.67%
オランダ 1.08% スロバキア 0.67%
エストニア 1.06% イタリア 0.62%
チェコ 1.04% 韓国 0.56%
イスラエル 1.02% 日本 0.48%
アイルランド 1.01% インドネシア 0.30%
ニュージーランド 1.01% チリ 0.29%
スロベニア 0.98% OECD加盟国平均 1.00%

(出典:OECD 2010「Education at a glance: OECD indicators 2010,table B2.4)

 

【2. 大学授業料の大幅値上げの背景 】

2-1) ブラウン・レビュー(高等教育助成制度改革案)
   2009年11月、英国労働党政府は元BP社社長の経験を持ち、王立工学アカデミー会長経験のある上院議員Lord John Browneに、今後のイングランド地方の高教育の持続的な公的助成制度の見直しを委託した。1年後、ブラウン卿は7人の中立的パネリストによる調査と討議の結果を、「Securing a Sustainable Future : An Independent Review of Higher Education Funding and Student Finance」、通称「ブラウン・レビュー報告書」として現保守党・自由民主党連立政府に提出した。
   過去約12年続いた労働党政権による高等教育進学率を50%に引き上げるという方針に基づき、約10年前は39%であった高等教育進学率が現在では45%近くまで上昇した。しかしながら、高等教育への政府の助成はこの進学率の上昇率には追いつかず、大学生一人当たりの公的助成額は以前に比べ減少しており、大学財政を圧迫する一要因となっている。このような背景から、大学への公的助成の見直しが急務となった。
【要旨】
   現在では年間3,290ポンド(約39万円)に設定されているイングランド地方の大学授業料の上限枠を撤廃し、授業料設定は大学の裁量に任せるべきである。ただし、年間6,000ポンド(72万円)以上に設定した場合は、一定の割合の課徴金を政府に納付すべきである。
   学生は従来どおり、在学中に授業料を納付する必要は無く、政府が授業料をローンの形で肩代わりし、学生が卒業後に就職して年収が21,000ポンド(252万円)を超えてから授業料ローンの返済を開始する(現在のローン返済開始年収は15,000ポンド)。パートタイムの学生も授業料ローンを受けることができるようにする。
   各高等教育機関は、その入学許可者数を政府の許可なしに自由に設定できるようにすべきである。
   現行のイングランド高等教育助成会議(HEFCE)や品質保証エージェンシー(QAA)等の4つの高等教育機関への監督組織を廃止し、単一の監督機関として「高等教育カウンシル:HIGHER EDUCATIOn COUnCIL」を新設すべきである。
【イングランド地方の大学授業料と大学進学率の変遷】
   50年前の英国における高等教育進学率は6%であった。当時の高等教育進学者は一般的に高収入の家庭の子弟で、卒業後には高収入の仕事についていたが、長年にわたり高等教育は無料であった。
   1963年、上院議員のロビン卿は主にエリート層に開かれていた高等教育を、より幅広い階層へ拡大し、20年間でフルタイムの大学生数を倍増させることを提案した。1990年代初期には高等専門学校のポリテクニックが大学に昇格し、大学数が急増したことに伴い、1990年半ばには高等教育進学率は30%強にまで拡大した。しかしながら、公的助成は1989年から1997年の間に大学生一人当たり36%もの減少を経験した。
   この財政難を解消するため、1997年、上院議員のディアリング卿は高等教育への授業料の有料化を勧告し、これを契機にイングランド地方の高等教育は有料となった。
ただし、継続的な高等教育進学率向上のため、学生は授業料を大学在籍中に支払わず、卒業して就職した後に授業料を返済する制度の導入を勧告した。
   この「ディアリング報告書」を受け、1997年、政権を取ったばかりの労働党政権は年間1,000ポンド(12万円)の授業料(年度毎にインフレ率に連動)を導入したが、ディアリング報告書にある卒業後の授業料返済案を採用せず、在学中の年度毎の授業料前納制度を導入した。
   2004年の高等教育法の成立を受け、2006年には年間授業料の上限枠が各大学の自由裁量で3,000ポンド(36万円)まで引き上げる(年度毎にインフレ率に連動)ことができるようになると共に、授業料の卒業後返済制度が導入された。

 

2-2) 英国政府予算の「包括的歳出見直し」
   2010年秋、英国政府は2014-2015年までの政府予算の「包括的歳出見直し:Comprehensive Spending Review」を発表した。英国の政府予算は、通常3年ごとに予算計画の見直しが行われるが、今回は春の政権交代のために1年遅れの見直しとなり、見直し期間も例外的に4年間となった。
   リーマン・ショック後の金融危機への救済支援を含む政府の大型財政出動の影響を受け、英国政府の債務残高は9,030億ポンド(108兆3,600億円)とGDPの約62%となり、かつ2010年度の赤字幅も約7,000億ポンド(84兆円)の政府予算に対して1,550億ポンド(18兆6,000億円)と、かってない水準に膨らんでいる。また、これらの債務に対する利払いは年間430億ポンド(5兆1,600億円)に達した。
   このような状況を踏まえて、2014-15年度までに構造的財政赤字である810億ポンド(10兆9,350億円)を解消するため、2010年10月、財務大臣が今後4年間の緊縮型の「包括的歳出見直し」を発表した。これにより、2014-15年度までに段階的に、保健省と海外援助予算を除く各省庁の予算を平均19%削減することになり、各種の緊縮政策が実施されることになった。
   これを受けて、高等教育を所管するビジネス・イノベーション・技能省(BIS)の予算は4年間で25%の削減となり、大学への運営費交付金も2011年度から4年間をかけて段階的に40%削減されることになった。
   政府は「ブラウン・レビュー報告書」の提言を受け入れ、前労働党政権以来、国家戦略的重点科目とされてきたSTEM学科(Science, Technology, Engineering, Mathematics)への運営費交付金は現状維持の方針を打ち出したため、結果的に人文・社会科学等への運営費交付金は無くなることになる。今後、人文・社会科学の学科を中心とした大学の中には、公的助成なしにほぼ授業料で賄われるところも出てくると思われ、実質的に私立に近い形態となる大学も出てくることが予想される。

 

2-3) イングランド地方の大学授業料の大幅値上げの認可
   上記のような大学への運営費交付金の大幅削減への対処と共に、大学への持続可能な助成のために、英府は「ブラウン・レビュー報告書」でも提言された授業料の大幅値上げを認可する方針を打ち出した。
   2010年12月、英国下院にてイングランド地方の大学授業料の年間上限枠の大幅拡大に関する議員採決が行われ、賛成323票、反対302票の僅少差で、今後の運営費交付金の大幅削減を補完する形での授業料の大幅値上げが可決した。現在、保守党・自由民主等の連立政権は下院において84議席の過半数を占めているものの、21票差の結果となり、多くの与党議員が反対に回るなど、苦渋の決断であったことがうかがえる。下院の可決を受け、上院にても採決が行われ、賛成283票、反対215票にて可決し、授業料の大幅値上げが決定した。
   この国会採決を受け、2012年秋タームより年間授業料の上限枠は現行の3,290ポンド(約39万円)から6,000ポンド(72万円)、条件付で9,000ポンド(108万円)まで引き上げられ、この範囲内の授業料の設定は大学の自由裁量となった。ただし、年間6,000ポンド以上、9,000ポンドまでに授業料を設定した大学に対しては、貧困家庭からの学生への無償奨学金の援助等の条件が付くことになる。
   従来と同様、公的機関である学生ローン・カンパニーが学生に代わって授業料を大学に納め、学生は授業料ローンを卒業後に分割払いで返済することになる。その返済義務が生じる年収額は従来の15,000ポンド(180万円)以上から21,000ポンド(252万円)以上に引き上げられた。学生は卒業後、この21,000ポンドを上回る年収分の9%を30年にわたり返済することになる。なお、現行の1.5%の優遇返済金利は年収額によって引き上げられることになった。例えば、年収21,000ポンドまでは無金利、41,000ポンド以上の年収がある場合、インフレ率プラス3%の金利が加算される。また、返済開始後30年を経過しても完済できない場合は、ローン残高は帳消しとなる。
   授業料の大幅な値上げの容認を受け、有力大学を中心として、イングランド地方の多くの大学が2012年秋タームより、上限の年間9,000ポンドの授業料を決定している。


【イングランド地方以外の大学授業料】
   ウェールズおよび北アイルランドの大学
現在の年間授業料の上限枠はイングランド地方と同様に3,290ポンド(約39万円)であるが、2012年秋からはウェールズのカーディフ大学をはじめとした有力大学では年間9,000ポンドの授業料を設定している。

   スコットランドの大学
現在、スコットランド住民とEU諸国からの学生は授業料が全額免除されているが、スコットランド以外の住民である英国の学生に対する年間授業料は1,820ポンド(約22万円)、医学部は年間2,895ポンド(約35万円)となっている。2012年度からは、イングランド地方の授業料値上げを受けて、エディンバラ大学やセント・アンドリュース大学のような有力大学では、スコットランド以外に在住している英国人学生には年間9,000ポンド、4年間の学士課程合計で36,000ポンドの授業料を決定している。多くのスコットランドの大学は、イングランド地方の大学では通常の3年間の学士課程を考慮して、4年間で27,000ポンドの授業料(年間6,750ポンド)を設定するところが多いとみられる。(このように授業料を値上げしなければ、イングランド地方から、大量の学生がスコットランドの大学に押し寄せることになりかねないためである)
* 英国の大学では、EU諸国からの留学生には地元の英国学生と同様の授業料が適用さ  れるが、EU以外からの留学生の授業料に関しては政府の規制は全くなく、各大学の自由裁量に任されている。

 

2-4) 2011・12年度以降の大学への運営費交付金額の決定
   2010年12月末、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は所管省のビジネス・イノベーション・技能省(BIS)から、大学への2011・12年度以降の運営費交付金額の通達を受けた。これによると、2011・12年度の運営費交付金は名目で前年比約6%減、インフレ率を考慮すると約8%の削減となった。同年度は2012・13年度に始まる授業料大幅値上げ直前の狭間期にあたり、各大学の財政を直撃する形となった。
【HEFCEの運営費交付金とBISからの授業料ローン立替払い】

(単位:100万ポンド)
2010・11年度 2011・12年度 2012・13年度
HEFCE・教育向け運営費交付金 4,949(5,939億円) 4,645(5,574億円)
2010年度比 -6%
3,815(4,578億円)
2010年度比 -23%
HEFCE・研究向け運営費交付金 1,618(1,942億円) 1,549(1,859億円)
2010年度比 -4%
1,589(1,907億円)
2010年度比 -2%
BIS・授業料ローン立替払い 2,500(3,000億円) 2,600(3,120億円) 3,600(4,320億円)
Higher Education
Innovation Fund
113(136億円) 113(136億円) 113(136億円)
設備投資助成金 532(638億円) 223(268億円) 245(294億円)
その他 107(128億円) 103(124億円) 52以上(62億円)
9,819
(1兆1,783億円)
9,233
(1兆1,081億円)
9,412
(1兆1,294億円)

* 英国大学協会会長のコメント:
「特に教育への交付金額には非常に失望した。授業料値上げの前年であり、この削減は高等教育分野に大きなダメージを与え、大学によっては学科の閉鎖などにつながる可能性がある。公的研究評価に基づく研究への交付金額も削減されることになり、特に人文科学分野への影響が大きいことを憂慮する」

 

【3. 2011年:高等教育白書】
   2011年6月、英国の高等教育を所管するビジネス・イノベーション・技能省(BIS)大臣と大学・科学担当閣外大臣は連名で、「Higher Education : Students at the Heart of the System」と題する高等教育白書を発表した。約13年間続いた労働党政権から、2010年春の保守党・自由民主党による連立政権交代後の初めての高等教育白書となる。当白書は、前述の「ブラウン・レビュー報告書」の提言も考慮して、<学生を中心に置いたシステムの構築>という副題をつけている。
   約13年間続いた前労働党政権との大きな違いは、特に学生を中心においた視線である。すなわち、学生を「顧客:customer」と捉え、学生の多様なニーズに合う高等教育システムを構築していくという点にある。これは、現在の授業料が2倍から3倍に引き上げられることから、それに見合うだけのメリットを学生に与える必要もあるからであろう。
   また、ある意味で市場原理に基づく大学間の競争も促進するという点も新たな展開である。2009・10年度の入学許可者総数約48万人に対して、政府は2012・13年度には約85,000人を特別枠とし、高校卒業資格の全国統一試験であるAレベル試験の3科目においてAAB以上の優秀なスコアを得た約65,000人の学生を、各大学がコアの入学者数枠の制限を越えて自由に獲得できる制度の導入を計画している。
【序文要旨】
   当白書は、学生を主体とした制度の構築を目指している。また、投資の増大、多様性の拡大および政府の管理を弱めることも考えている。しかしながら、その見返りとして、大学は納税者に対するのと同様に、学生に対してもより大きなアカンタビリティーを持つことになる。
   政府による授業料の値上げの認可や返済方法の改革は、高等教育機関の質を維持しながら、学生数を削減することなく、巨額の財政赤字の解消への支援となる。また、これらは在籍中の学生および将来の卒業生の利益と大学の資金需要との均衡を保つためでもある。
   低所得家庭の学生には、より多くの支援を受けられるようにする。多くの卒業生は、政府から前借した授業料をより長期にわたり返済することになるが、毎月の返済額は以前より少なくなる。学部学生は、従来通り、在学中は授業料を納付する必要はなく、全て卒業後の返済となる。また、政府はパートタイムの学部学生に対しても学生ローン受給資格を広げるとともに、生活費支援の増強および新たな奨学金制度「National Scholarship Programme」を設置する。
   我々の改革は単に財政の問題に止まらず、「教育」が「研究」と同様な威信(prestige)を持てるように、質の高い授業にあらためて焦点を置いていきたい。それ故、大学進学希望者が多様な授業コースに関する、より良い情報を得られるようにする。
   近年、高等教育分野に課せられてきた細かな管理(micro-management)のために、大学は学生のニーズへの対応が遅れてきた。今後は、このような管理制度の改善に取り組んでいく。
   各大学の入学者数が、政府によって決定される現行制度を見直す計画である。しかしながら、大学はより高い質の提供とより低い費用という競争原理にさらされなければならない。
   学生のニーズに対応するということは、教育の提供方法の多様化をも意味する。これに伴い、政府は継続教育コレッジでのさらなる高等教育の提供、学習モードの多様性および画期的な高等教育を提供する新たな形態の大学の出現を期待している。
   当連立政権は高等教育への財政支援を改革し、学生が大学でより良い経験を積めるように努力するとともに、社会的移動性(social mobility)を育成していく。我々の包括的な目的は、学生のニーズに対して、新たな方法で自由に対応できる高等教育分野の実現にある。
【その他の重要点】
   高等教育機関が、授業コースに関する十分な情報を提供することを期待する。また、入学希望の学生がこれらの情報を入手しやすくするとともに、他の高等教育機関とも比較しやすくするように指導していく。
   大学と入学希望者の間に立って入学応募書類を一括して処理しているUCAS と高等教育機関に対して、過去に入学を許可された学生の実際の受験資格の種類と履修科目を示す新たなデータを授業コースごとに公開するよう要求している。これによって、大学進学希望者が高等学校においてどの科目を履修し、どのような受験資格を取ればよいのかを選択する手助けをする。
   政府系の学生ローン会社(Student Loan Company)と大学と入学希望者の間に立って入学応募書類を一括して処理しているUCASに対して、高等教育機関への入学応募と授業料の学生ローン申請の両方を行える単一のポータル・サイトの開発を依頼した。
   学生の権利を定めた学生憲章(Student Charter)の公表がベスト・プラクティスと考えており、学生憲章が現在どの程度に適用されているのかを見直し、将来的に学生憲章の公表を義務付けるべきかを検討する。
   高校卒業全国統一試験であるAレベル試験の3科目でAAB以上の優秀なスコアを得た約65,000人の学生に対しては、各大学が入学者数の制限なしに入学許可を与えることができるようにするとともに、平均で年間7,500ポンド(90万円)以下の授業料を設定する高等教育機関には、合計で最大20,000人までの入学枠を増やすようにする。
   年間6,000ポンド(72万円)以上の授業料を設定する全ての高等教育機関は、経済的、社会的に恵まれない家庭の学生の大学進学率を高める方策について、Office for Fair Accessの合意を得なければならない。
   HEFCEに、生活補助金や授業料への学生ローンの受けるための条件をつける権限を与えるための法改正を考えている。また、HEFCEには現行通り、高等教育機関の財政的安定性を監視し、必要なら干渉する権限を持たせる。
   高等教育分野の監督機関としてのHEFCEの新たな権限の一環として、高等教育分野において必要な場合には、競争を促進することによって学生の利益を保護するという明確な権限をHEFCEに与える。

 

【4. 英国政府の「科学予算」】
(2010年12月BIS発表、単位:100万ポンド)
2011・12年 2012・13年 2013・14年 2014・15年
研究会議(リサーチ・カウンシル) 2,596(3,115億円) 2,574(3,089億円) 2,587(3,104億円) 2,600(3,120億円)
AHRC(芸術・人文) 100 98 98 98
BBSRC(バイオ・生物) 370 359 351 351
EPSRC(工学・物理科学) 760 748 748 748
ESRC(経済・社会) 156 153 153 153
MRC(医学) 536 546 560 575
NERC(自然・環境) 299 297 300 289
STFC(科学技術施設) 376 371 375 385
HEFCE 1,662(1,994億円) 1,700(2,040億円) 1,686(2,023億円) 1,686(2,023億円)
公的研究評価に基づく交付金 1,549 1,587 1,573 1,573
HEIF 113 113 113 113
学協会への助成 87(104億円) 87(104億円) 87(104億円) 87(104億円)
Royal Society 48 47 47 47
British Academy 27 27 27 27
Royal Academy of Engineering 13 12 12 12
その他プログラム 24(29億円) 24(29億円) 24(29億円) 24(29億円)
科学と社会 13 13 13 13
国際関連 5 5 5 5
フォーサイト 3 3 3 3
エビデンス・評価 4 4 4 4
UK Space Agency 206(247億円) 192(230億円) 193(232億円) 179(215億円)
合計 4,576(5,491億円) 4,576(5,491億円) 4,576(5,491億円) 4,576(5,491億円)

 

   上記の表は2010 年12月、ビジネス・イノベーション・技能省が発表した「科学予算」から要点のみを抜粋して編集したものである。2011年度から2014年度までの4年間の「科学予算」は年約46億ポンド(5,520億円)と、ほぼ現状維持となり、英国政府の科学技術重視の姿勢が見える予算となった。
   英国では、研究への公的助成には伝統的に「Dual Funding System」を採用しており、HEFCE経由の公的研究評価に基づく研究向け運営費交付金による助成のほかに、リサーチ・カウンシル経由のプロジェクト・ベースの競争的研究助成がある。現在、学問分野別に7つのリサーチ・カウンシルがあり、その中にはEconomic and Social Research Council やArts Humanities Research Councilなどの人文・社会科学系のリサーチ・カウンシルもある。
   英国には政府の公的研究助成のほかに、医学やバイオ関係を中心に、ウェルカム財団やキャンサー・リサーチUKなどの大型チャリティー機関が大規模な研究助成をしている。例えば、ウェルカム財団は約1兆9,000億円基本財産を所有し、年間700億円を超える研究助成をしており、キャンサー・リサーチUKも年間約400億円に上る研究助成をしている。ウェルカム財団とキャンサー・リサーチUKによる研究助成を合わせると年間約1,100億円となり、BBSRC(バイオ)とMRC(医学)の年間予算を合わせた額に匹敵する。
   チャリティー機関による研究助成には、時の政権の方針に左右されずに、独自の方針に基づく研究助成ができる民間機関としての強みがある。また、英国の研究助成全般に対するカウンター・バランスとしての作用もしており、健全な科学研究の長期的育成に重要な役割を果たしていると言えよう。
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