レポート - 英国大学事情 -

2012年1月号「高等教育における効率性と有効性 <英国大学協会「効率と近代化タスク・グループ」報告書>」

掲載日:2012年1月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2011年9月、英国の大学の学長で構成される英国大学協会(Universities UK)の「効率性と近代化タスク・フォース・グループ(Efficiency and Modernisation Task Group)」は、「高等教育における効率性と有効性:Efficiency and effectiveness in higher education」と題する報告書を発表した。ちなみに、当報告書を作成した「効率性と近代化タスク・フォース・グループ」の責任者は、経済社会研究会議(Economic and Social Research Council)のトップを務めた経験のある、アバディーン大学の現職学長である。

英国の大学では、大学間の共同調達や事務部門の共有サービス(shared service)などによって効率性や有効性の改善に努力してきた結果、今までにも多くの成果を挙げてきた。しかしながら、英国政府による大幅な財政赤字削減策の一環として、大学への運営費交付金の削減が導入されたことに伴い、より一層の効率性と有効性の改善が求められている。このような状況を踏まえて、英国大学協会は大学の実情を調査した上で、当報告書でいくつもの改善案を提言している。70ページを超す当報告書には多くの事例が上げられているが、その中から要点や提言と共に、興味深く思われる事例の一部を紹介する

 

【1. 要点】

  • 高等教育分野の運営活動経費に関する情報が不十分である。このことが、高等教育機関が効率性を改善するためのイニシアチブの効果を予測し、または価格に見合う価値(value for money)を広範囲に追求していることを示すのを困難にしている。そのため、これらのデータを改善すると共に、より透明性を持たせる事が重要である。データの改善によって、効率性を追求するための手段としてのベンチマーキングの利用が促進されることになろう。
  • 自治組織として成り立っている高等教育機関においては、ベンチマーキングが効率性を高める重要な手段である。しかし、現状のベンチマーキングは断片的であるため、より戦略的な全国的フレームワークの構築が必要となる。
  • 共有サービス(shared services)は、しばしば効率性を高めるための既成の解決策と思われているが、高等教育分野において共有サービスの可能性を十分に引き出すためには、簡素化、合理化および機関内部の諸手続きの改善が先決であろう。
  • 業務のアウトソーシングや民間企業との戦略的パートナーシップの構築には、大きな可能性があると考えられる。
  • 高等教育分野の規模と調達力の持つ可能性が、さらなる経費節減のために十分には活用されていない。高等教育分野における調達には、より戦略的な共同活動と高い目標が必要である。
  • 高等教育分野には既に多くのグッド・プラクティスが存在しているが、それを他の高等教育機関にも普及させていく努力が必要である。
  • 規制改革を実行することによって、コンプライアンス関連費用の削減や効率性の向上を支援できる多くの領域があると思われる。

 

【2. 提言】

【透明性、ベンチマーキング、データ利用】

  • 業務運営費用に関する、より良いデータを開発すべきである。それにより、費用の透明性が強化され、ベンチマーキングを支援する有益な情報が提供できるようになる。
    • 人事、財務、ICT(情報通信技術)、調達、建物管理および学生向けサービスの専門家団体や高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency)が共同して、高等教育分野の既存システムにある業務機能の諸データを見出すことから始めるべきである。
  • 効果的なベンチマーキングは、効率的な運営を促進する中心的な役割を果たす。すでに多くの改善が見られるが断片的であるため、高等教育分野全体を通じたアプローチが必要である。
    • 統計局(HESA)と共同して、これらの活動を戦略的に見渡して、共通のフレームワークによって今後のベンチマーキング・イニシアチブを支援するようにすべきである。また、効率性ベンチマークへの共通フレームワークの開発は、コストとアウトプットに関するガイダンスの提供も考慮すべきである。

 

【プロセスの改善、簡素化、標準化】

  • 共有サービスの展開や最適な業務遂行のために必要な諸条件が、高等教育機関の内部プロセスを簡素化してきたという経緯がある。高等教育機関の長は今後も機関内部の業務プロセスの簡素化と標準化を優先的に進めるべきである。
  • 高等教育機関が効率化イニシアチブを実行する際には、長期的視野に立つと共に、その活動が機関の戦略の中に広く組み込まれるようにする必要がある。特に効率化イニシアチブは、常に英国の高等教育の有効性と質を維持するという観点に立つことが重要である。
  • 高等教育機関がどの分野に効率化イニシアチブを導入するかを決定する際には、その利益がはっきり見えるような、費用計算された強固な事業提案に基づくべきである。

 

【制度変更への支援】

  • 高等教育機関の業務効率化を支援する広範囲なサービスが既に存在しているが、これらのサービスを容易に見つけ出すための、ウェブ上の「効率化ハブ」が必要であろう。

 

【高等教育分野における共有サービスの推進】

  • HEFCEは今までにも共有サービスを支援してきているが、共有サービスをさらに促進するために、競争力のない業務分野を見出すためのガイダンスを開発すべきである。
  • 業務の遂行に関して、他機関との共同活動を考えている高等教育機関は、適切と思われる場合には高等教育機関以外の公的機関などとのパートナーシップも選択肢の一つとして考慮することも必要である。前述のウェブ上の「効率化ハブ」は、高等教育分野以外とのパートナーシップを見いだすのにも役立つであろう。

 

【ICTと効率化】

  • 新規のICT(情報通信技術)システムの開発・導入は、エネルギー費用や炭素排出量の削減に大きな貢献をする可能性があるため、その開発・導入へのインセンチブの方法を考えるべきである。

 

【制度改革を支援するためのアウトソーシング】

  • 効率性とサービスの質の向上のために、特にICTや学生の寄宿舎関連業務を外注する方法もあろう。当タスク・グループは、以下の2点を提言する。
    • 高等教育機関は、アウトソーシングをするためのパートナーシップの検討を通常の戦略的計画の一部と考えるべきである。
    • 高等教育機関はアウトソーシングの機会を最大限に活用して、経営システムの開発、調達の専門知識や業務を請け負った企業の管理技能などを吸収すべきである。中期的には、高等教育リーダーシップ・ファンデーション(LFHE)や設立が計画されている高等教育調達アカデミー(Academy for Procurement in Higher Education)が共同して、グッド・プラクティスのフレームワークや訓練プログラムを開発すべきと考える。

 

【戦略的資産としての調達】

  • 2011年初めに3年間の役割を終えた英国大学協会の「戦略的調達グループ:Strategic Procurement Group」は、調達のための高度なリーダーシップと戦略的コーディネーションを提供できるような、英国全土の高等教育機関をカバーする組織に改組されるべきである。
  • 2012年夏までに新組織を設置し、英国全土の高等教育機関の調達部門との連携の下、英国大学協会が運営の中心を担うようにする。この新組織には、学長クラスのシニア・メンバーをグループの責任者に就け、公的機関や民間企業からの調達の専門家をメンバーに加えるべきである。
  • 効果的な連携活動を通じて、給与以外の支出を最低30%削減することを5年後の目標とすべきである。新たな戦略的調達組織が目標達成度をモニターし、指示を与えるようにするのが良いであろう。
  • スコットランド地方における約60の大学やコレッジの調達センターであるAdvanced Procurement for Universities and Collegesのモデルに基づき、イングランド地方にも同様の組織を構築するために関係諸機関は協働すべきである。イングランド地方にすでにあるEnglish National Procurementを、その基盤として活用できるであろう。
  • 当タスク・グループは「高等教育調達アカデミー」の設立提案を支持する。この構想は、英国大学協会の「戦略的調達グループ」との連携の下、Association of University Procurement OfficersChartered Institute of Purchasing and Supplyによって、中期目標として推進されるべきと考える。

 

【効果的な規制】

  • Higher Education Better Regulation Groupが、高等教育分野に対する各種規制から生じる費用を推計することを提言する。その最初の推計資料を2012年春までに準備し、その後は継続的にモニターしていくべきである。

 

【モニタリングと次のステップ】

  • 当報告書に提案された各目的への進捗状況は、全国的規模で定期的にモニターされるべきである。英国大学協会は、その進捗を定期的に評価するために、高等教育分野以外の専門家を含む「効率化パネル」を設置すると共に、簡潔な年次報告書を作成し、目標に対する進捗状況を公表していくことも必要であろう。

 

 

【3. 効率化推進活動の事例】
英国大学協会「効率性と近代化タスク・グループ」による当報告書には、多くの大学の効率化推進活動事例が載っているが、その中から一部を紹介する。

【ノッティンガム・トレント大学の統合経営システム】

  • ノッティンガム・トレント大学では、全学のマネージャーが学生、人事管理、財務計画に関する膨大なデータをユーザー・フレンドリーな方法でアクセスできる「The Management Dashboard」と呼ぶシステムを採用した。
  • 日ごとに変化する経営状況を把握できる当システムによって、学長から学科のマネージャーまでが、スタッフや学生数、現金残高、財務実績、建物の稼働率などの最新データにアクセスできるようになった。このシステムの狙いは数字を示すことによって、真実は一つである(there is one version of truth)ということを共有することにある。
  • 同大学では何年も前から、外部から複数の民間企業出身者を副学長クラスに採用しており、今ではそれらの幹部スタッフはすっかり学内に溶け込んで活躍している。

 

【高等教育ベンチマーキング・プロジェクト】

  • 当プロジェクトは、大学やコレッジの業務プロセスと効率の改善を目的とする、HEFCEの助成事業である。業務プロセスをベンチマーキングすることによって、他大学と比較し、ベスト・プラクティスを見いだすことができる。このプロジェクトは、マーケティング、寄宿舎管理、在籍記録管理、予算、財務報告、人事管理などの業務の改善に貢献している。なお当プロジェクトは、Chartered Institute of Public Finance and Accountancyによって公的機関向けに開発された一連のパフォーマンス・インディケーターを基に発案されたものである。

 

【ロンドン大学の共有サービス】

  • ロンドン大学は19の独立したコレッジによって構成される連合体大学であり、各コレッジは広範囲の共有サービスにアクセスすることができる。
  • University of London Careers Group
    集中管理されてはいるものの、当キャリア・グループのスタッフは各コレッジに配属されている。 スタッフを共有して連携活動することにより、学生はより深い専門知識を得ることができると共に、各コレッジは必要な時に広範囲の知識を持つスタッフ・グループの中から、専門職員の知識を活用できるメリットがある。
  • Senate House Library
    共有の大学図書館であり、規模の利益と重複の削減というメリットがある。
  • 寄宿舎管理とハウジング・サービス
    ロンドン大学は約3,500室の学生向け寄宿舎を管理している。ハウジング・サービス部門は学生と民間賃貸斡旋業者との間のリンクを提供し、約25,000人の学生の賃貸住居の斡旋を支援している。これらの業務は、8人のスタッフによる共有サービスで実施されている。

 

【キングストン・シティー・グループ】

  • Kingston City Groupは、ロンドンのキングストン大学などの4大学がロンドンや英国南東地域の大学の内部監査と経営の信頼性を高めるために、2005年に設置したイン・ハウスの共有サービス・コンソーシアムである。
  • コンソーシアムに参加する高等教育機関数は、当初の4大学から現在では14大学に拡大しており、専従スタッフ数は15人となっている。

 

【Unitemps】

  • 短期間のスタッフが必要になった場合、大学は長年にわたりテンポラリー・スタッフ・エージェンシーを利用し、学生も同様に短期アルバイト先を探すためにテンポラリー・スタッフ・エージェンシーを利用してきた。
  • ウォリック大学では雇用のニーズとワークフォースが共に大学内に存在することを認識し、学内に自前のテンポラリー・スタッフ・エージェンシー機能を備えるために、1977年に大学所有の株式会社組織の「Unitemps」を設立した。この結果、外部エージェンシーを利用した時に比べ、約20%の経費削減を早期に実現することができた。
  • ウォリック大学のUnitempsはその後、業務を拡大して学内向けのサービスに限らず、近隣のバーミンガム・シティー大学のニーズに対してもサービスを開始した。近年では、他大学からノウハウを含めたフランチャイズ方式での同様組織の設置に関する問い合わせも来ている。ノッティンガム大学は、そのフランチャイズ方式で学内に同様のテンポラリー・スタッフ・エージェンシーを設置した最初の大学となった。
  • 今年に入ってからも、サリー大学がUnitempsのフランチャイズ組織を設立しており、Unitemps全体では10万人を超える学生をカバーすることになった。現在でも、いくつかの大学が当システムに興味を示しており、この数字は2年以内に倍増する可能性がある。なお現在では、Unitempsは学生に対して、学内のみならず学外の仕事の紹介も紹介している。

 

【クラウド・コンピューティングの利用】

  • ロンドンのウェストミンスター大学は、クラウド・コンピューティング・システムに移行したことによって、新規のハードウェアの購入やソフトウェアの更新にかかる経費を削減することができた。その節減額は、100万ポンド(1億2,000万円)と推定される。その他、システムやユーザー・サポートにかかる時間も短縮できている。また、学生やスタッフがバーチャル・プラットフォームを利用して学習や共同作業を行えるようになった他、Eメール保存容量を大幅に改善できたというメリットもあった。

 

【スコットランド地方の調達活動:APUC】

  • Advanced Procurement for Universities and Colleges(APUC)はスコットランド地方の高等教育機関による共同調達コンソーシアムであり、コンソーシアムに参加している47の高等教育機関がPECOS(Professional Electronic Commerce Online System)と呼ばれる電子調達システムを利用して、年間約1,000万ポンド(1億2,000万円*1)の経費節減を図っている。

 

【イングランド地方の調達活動:SUPC】

  • Southern Universities Purchasing Consortium(SUPC)には113のイングランド南部地域の高等教育機関が参加しており、その調達品目は実験器具や文房具から、保険やリクルート・サービスまで広範囲にわたる。2010年度には約2億ポンド(240億円)に上る共同調達を行い、3,000万ポンド(36億円)以上の経費削減を達成した。2005年度の経費節減額は1,600万ポンドであったため、5年間で年間節減額はほぼ倍増したことになり、コンソーシアム参加機関の負担する費用効果も53:1から73:1と大幅に改善している。

 

【調達の専門知識の価値】

  • ある高等教育機関では、外部から調達の専門家をコンサルタントとして雇用し、調達プロセスの全般的見直しを実施した。ソフト・サービスの調達に関しては、サプライ・チェーンの統合と調達仕様の見直しを行い、供給業者数を9社から3社に削減したことにより管理、プロセッシングや業務に関連する費用を削減し、規模の利益を得ることができた。14,000ポンド(約170万円)のコンサルタント費用に対して、91万ポンド(約1,100万円)の節減が期待される。セキュリティー対策に関するプロジェクトでは、同様の方法を用いて、供給業者数を3社から2社に削減し、7,000ポンド(約80万円)の投資に対して375,000ポンド(4,500万円)の経費削減が見込まれている。

 

 

【4. 筆者コメント】

  • この「効率と近代化タスク・グループ」報告書の中には、ある高等教育機関が外部から調達の専門家をコンサルタントとして雇い、調達プロセスの全般的見直しを実施した事例が載っている。筆者はそれを読んで、4-5年前に英国の公的究助成機関である英国リサーチ・カウンシルの本部に設置されている、約120人規模の「共有サービス・センター」を訪問した時のことを思い出した。その共有サービス・センターでは、各地に点在している研究所を含めた、医学、物理科学、社会科学など、7つのリサーチ・カウンシルの人事、経理、IT、調達業務を一手に集中的に行っている。
  • リサーチ・カウンシル本部では、3年間の任期付きで、外部から何人かのコンサルタントを採用して「共有サービス・センター」を新たに立ち上げた。コンサルタントたちはリサーチ・カウンシル内部の業務担当者と共同してセンターを立ち上げ、民間のノウハウを機関内部の関係者に移転した後、それらのコンサルタントたちは去っていった。
  • 英国の大学では何年も前から、地域ごとの共同購入コンソーシアムや業務の共有活動を通じた経費節減と業務の効率化を進めてきた。しかしながら、民間企業などと比べて、まだまだ改善の余地が大きいと見られており、さらなる努力が大学に求められている。

    当報告書を読んで、国全体としてのレベルを高めるために、ベスト・プラクティスを大学間で共有することが非常に重要であることを再認識した。

 

注釈)

  • 1ポンドを120円で換算
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