レポート - 英国大学事情 -

2011年12月号「学生・卒業生向けインターンシップの現状 <HEFCE報告書「Increasing Opportunities for High Quality Higher Education Work Experience」by Oakleigh Consulting Ltd and CRAC>」

掲載日:2011年12月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

 

【1. はじめに】
2011年7月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)はイングランド地方の大学やコレッジにおける、HEFCEが助成するインターンシップ支援策への効果に関する報告書「Increasing Opportunities for High Quality Higher Education Work Experienceを公表した。

この報告書は、HEFCEがコンサルタント企業のOakleigh Consulting社とCRACという非営利のキャリア・ディベロップメント団体に委託した調査結果である。今月号では、この160ページ近い報告書の中から、データを中心に、ほんの一部のみを抜粋して紹介したい。なお、以下に紹介するデータの中には、紙面の関係から一部省略したり、編集し直したりした個所もある。

 

【2. HEFCEによる報告書の紹介文より】
  • 2010年、HEFCEは学士課程以上を最近終了した人たち向けのインターンシップを支援するため、イングランド地方の57の大学やコレッジに対して1,280万ポンド(16億6,000万円*1)の助成支援を行った。これにより、2011年3月までに7,600人がインターンシップを経験した。HEFCE以外の公的助成スキームを含めると、合計約16,000人の学士課程以上の修了者がインターンシップに参加したことになる。
  • * このHEFCEによるインターンシップ・イニシアティブは、卒業してから日が浅く、かつ職を持たない人たちを支援すると同時に、中小企業や優先的経済分野を支援するために立ち上げられた。
  • 2010年夏には、家庭的、経済的に恵まれていない学士課程在学中の学生に対して、専門分野でのインターンシップを支援するため、HEFCEはイングランド地方の30の大学およびコレッジに100万ポンド(1億3,000万円)の助成を実施した。これによって、約850人の学部在籍中の学生がインターンシップを経験している。
  • 当調査報告書によると、学士課程以上の修了者を対象としたインターンシップ参加者のうち、28%がインターンシップ終了後に継続的に同じ企業に就職している。また、18%がその他の企業の長期採用となっているため、約半数が長期的な仕事を見つけていることになる。その他の14%は短期雇用、15%は失業中、13%が勉学を継続中またはボランティア活動に従事している。
  • HEFCEインターンシップ制度に参加した企業のうち、81%が小企業(従業員50人以下)、11%が中小企業(従業員51人から250人)であり、大企業は9%以下であった。71%の参加企業は将来もインターンシップを提供したいと積極的であった一方、5%のみが否定的であった。
  • 学士課程在籍中の学生のインターンシップに関しては、55%の参加企業がインターンシップの成果を見て、特に中小企業や初めてインターンシップ制度を活用した企業を中心に、これからも学士課程在籍学生にインターンシップを提供したいとしている。
  • 学士課程在籍学生や学士課程以上の修了者の多くは、インターンシップを経験して就職に役立つスキルを学ぶことができ、自信がついたと報告している。また大部分の企業は、インターンはビジネスにとって新しいエネルギーと新鮮な見方をもたらし、インターンの価値は予想以上であった、とコメントしている。
  • 当調査報告書は、大学、学生及び雇用者に対してインターンシップの利点を、以前にも増して伝える努力をすべきと提言している。これは今後、政府やパートナー組織と一緒になって取り組むべき、HEFCEの優先課題の一つになっていくであろう。

 

 

【3. インターンシップの規模】
サンドウィッチ・コース在籍中の学士課程学生向け 30,000人 いいえ
専門実習等、その他授業コースに組み込まれた学士課程学生向け 30,000人 不明
授業コースには組み込まれていない、学士課程学生向け 140,000人 はい
学士課程以上の修了者向け 35,000人 非常に不足している

(上記の表は、HEFCE助成のインターンシップのほか、その他の政府支援の公的制度や私的なインターンシップ制度等を含む、全体的な推定規模を示す)

  • 上記の「学士課程以上の修了者」には学士課程修了者のほかに、学士課程修了後、2-3年しか経っていない修士課程や博士課程の在籍者や修了者も含む。
  • 「サンドウィッチ・コース」とは、通常はイングランド地方の3年間の学士課程を4年間として、第2年度以降に数カ月から1年間のインターンシップを経験するコース。 特に建築、コンピューター科学等の工学・技術関連が約3分の1、経営関連が3分の1と大きな比重を占める。また多くの場合、サンドウィッチ・コースのインターン期間中、インターンに対する賃金は支払われない。
  • 2008・09年度のHESAのデータによると、約115,000人の学生がインターンシップを経験できるサンドウィッチ・コースに在籍している。これはフルタイム、パートタイムを含めた全学生の約6%、フルタイム学生の約9%にあたる。そのうち、毎年30,000人近くが実際にインターンを経験していると推測される。

 

 

【4. インターンシップへの主な障壁と支援】

4-1) 雇用者にとっての主な障壁

【学士課程学生のインターンシップへの主な障壁】

回答項目 雇用者の回答(%)
タイミング(ホリデー期間のみしか、インターンが来ない) 45%
期間(大きなベネフィットとなるには、インターン期間が短すぎる) 43%
学生が要求する支援レベルが、余りにも負担が大きすぎる 43%
柔軟性の不足(特定の期間しか、フルタイムで働けない学生がいる) 31%
組織に大きな貢献をするには、学生の技術的スキルが不十分 31%
組織に大きな貢献をするには、学生の実務面でのスキルが不十分 26%
健康安全面の管理や保険の提供等の各種制約が多い 26%

 

【学士課程以上の修了者向けインターンシップへの主な障壁】

回答項目 雇用者の回答(%)
コスト(インターンシップの提供に関連する費用が大きい) 66%
受け入れ計画を設定するための能力と時間が不足している 37%
インターンを指導監督する能力が不足している(組織上の問題) 31%
要求される指導監督や支援の水準が余りにも高すぎる 27%
現在の経済状況のため、受け入れの余裕がない 25%
最近の大卒者は実務面でのスキルに欠けている 24%
最近の大卒者は技術的スキルに欠けている 21%

 

4-2) 雇用者への支援

【学士課程学生向けインターンシップへの、資金支援以外の最も効果的な支援】

回答項目 雇用者の回答(%)
インターンシップを希望している学生の情報の提供 72%
仕事現場における一般的なスキルと行動に対する事前の訓練 58%
学生と雇用者双方のためになるプロジェクトの選定への支援 58%
インターン学生採用への支援(求人広告、応募書類の初期的整理等) 57%
インターンシップ管理に関するベスト・プラクティス・ガイダンス 46%
大学の使用者責任保険のインターン学生への適用 39%
インターン学生を受け入れるための経費への優遇税制 28%
インターン学生を組織の経営に参加させる方法への支援 18%

 

【学士課程以上の修了者向けインターンシップへの、資金支援以外の最も効果的な支援】

回答項目 雇用者の回答(%)
広告や宣伝への支援(適切な卒業生に対する、広範囲な求人促進) 55%
インターンを受け入れるための経費に対する優遇税制 51%
採用や選考への支援(応募書類の選別やショートリストの作成等) 42%
仕事現場における一般的なスキルと行動に対する事前の訓練 37%
インターンシップ管理へのベスト・プラクティス・ガイダンス 24%
インターンシップに適切なプロジェクトを選定するための支援 18%
大学による学習支援や指導の提供 16%
インターンを組織の経営に参加させる方法についての支援 7%

 

4-3) 学士課程以上の修了者向けインターンシップを提供する雇用者の業種

【Graduate Talent Pool制度による学士課程以上の修了者インターン求人例】(トップ10)

求人募集企業の業種 2011年春の求人数
宣伝広告・マーケティング 376人
IT(経済・統計サービス分野を含む) 288人
営業、小売、購買 170人
出版、メディア 145人
金融、経営コンサルタント 128人
経営全般 113人
チャリティー、ボランティア 107人
アーツ、デザイン、クラフト 96人
人材派遣、人材紹介 81人
エンジニアリング 69人
  • Graduate Talent Pool」制度は、産業や高等教育を所管するビジネス・イノベーション・スキルズ省(BIS)と産業界とのパートナーシップ事業であり、最近卒業したばかりの大卒者に企業などでのインターンシップの紹介や助成をすることを目的とする。現在は、2008年から2011年に学士課程を終了した人たちが支援対象となっている。

 

 

【5. 学士課程在籍学生向けインターンシップ】

5-1) 学部学生の動機

【インターンシップに参加した学部学生の主な動機】

回答項目 学生の回答(%)
スキル・デベロップメントの機会が与えられた 66%
特定の分野にて働く良い機会であった 58%
履修している専門学問分野に関連している 51%
働く場所が地理的に便利であった 30%
特定の企業で働く良い機会であった 28%
賃金水準が良かった 18%
起業家精神を養うための良い機会であった 15%
パートタイムの勤務も認められる柔軟性が良かった 14%

 

5-2) 雇用者の動機

【インターンシップを提供した雇用者の主な動機】

回答項目 雇用者の回答(%)
インターンに支払う賃金への助成または経済的支援があった 58%
適切なインターン候補者を選考するための大学からの支援があった 56%
特定のプロジェクト等、実証済みの仕事や能力があった 46%
大学との関係をより深めるため 46%
試用期間の提供等、将来の採用活動を支援するため 35%
企業としての社会的責任を果たすため 23%
インターンの雇用に伴うアドミ面での大学からの支援 21%

 

5-3) 雇用者に対する経済的支援の重要性

【経済的支援がない場合のインターンシップの提供】

企業の回答 小企業 中企業 大企業
インターンシップは提供できない 32% 15% 19%
インターンの数を減らす 41% 35% 29%
現状どおりに継続する 23% 50% 52%

 

5-4) 学生への支援

【雇用者によるインターンシップ期間中の学生への支援】

回答項目 雇用者の回答
仕事に関連した訓練 81%
企業内部からの指導者(mentor)の提供等の非金銭的支援 63%
学習支援 53%
旅費や生活費をカバーするための直接的な金銭支援 14%
給与を補完するための直接的な金銭支援 8%

 

5-5) 学生への主なインパクト

【インターンシップ参加学生への主なインパクト】

回答項目 学生の回答
就職活動に対して、より自信がついた 70%
この分野でキャリアを積むことへの興味が増した 64%
他の組織だったインターンシップ・スキームにも参加してみたい 55%
学士課程もスムースに終了できるだろう、という自信がついた。 51%
この企業に、今後も長く勤めたいと思った 31%
企業が、更なる賃金付きのインターンシップを与えてくれた 19%
卒業した時点で正規採用となった 8%
将来、この分野のキャリアを歩むことがいやになった 5%

 

【インターンシップ参加によってスキルが増したと思われる点】

回答項目 平均点(1-4)
コミュニケーション 3.39
時間管理 3.36%
チーム・ワーキング 3.27
問題解決 3.23
優先付け 3.14
顧客の大切さ 2.81
実用的なICTスキル 2.74
商業的感覚 2.73
交渉力 2.59
リーダーシップ 2.54

 

 

【6. 学士課程以上の修了者へのインターンシップ】

【雇用者のインターンシップ提供の動機】

回答項目 雇用者の回答(%)
特定プロジェクト遂行のための人的能力の補充のため 59%
正規採用できそうな見込みのある大卒者を試す良い機会。 51%
従業員の多すぎる仕事量を緩和するため 40%
必要とする特定の技術的スキルを提供してもらうため 29%
大学とのより良い関係を築くため 21%
正規従業員に指導監督の役割を与え、キャリア開発に活用するため 9%

【学士課程以上の修了者のインターンシップ応募直前の状況】

回答項目 卒業者の回答(%)
卒業以来、テンポラリー・ワークに従事 35%
卒業以来、無職 30%
正規採用に応募したが、採用されなかった 22%
正規採用に応募したが、自分に合わない仕事のみ与えられた 7%
正規採用にて、長期のキャリアに関連した職に就いていた 6%
卒業以来、正規採用職にて働いてきたが、人員整理にあった 4%
長期間の仕事には応募したことがない 4%

【学士課程以上の修了者のインターンシップ参加の動機】

回答項目 卒業者の回答(%)
特定分野の職に就くため、関連した職の経験を履歴書に記載したい 65%
正規採用職に就けるように、何らかの実務経験を積みたかった 59%
特定分野の職を得るため、それに関連した特定スキルを得たかった 56%
インターンシップを提供する雇用者にての正規採用を望んだ 47%
いくらかの賃金を稼ぐため(単に、何らかの職が欲しかった) 21%
特定の分野のキャリアが、自分にとって興味深いか試したかった 14%
大学院に進む前に、何らかの職に就きたかった 2%

【インターン参加者の大学での成績】

回答項目 卒業者の回答(%)
学士号(ファースト又は2.1クラス) 52%
修士号 23%
学士号(2.2クラス以下) 15%
その他 4%
博士号 1%以下
  • 筆者注:英国の大学の学士課程卒業成績は成績の良い順から、First Class Honours, Upper Second Class Honours(2.1)、 Lower Second Class Honours(2.2)、 Third Class HonoursおよびPassに分けられる。

 

 

【7. 筆者コメント】

  • 2008年度のデータでは、全学生の約6%にあたる115,000人ほどがサンドウィッチ・コースに在籍しているが、2012年度から始まる授業料の大幅値上げに伴い、今後は授業料ローン返済負担を考慮して、在籍年数を減らすという傾向も一時的にはみられるかも知れない。
  • 学士課程在籍学生向けのインターンシップを提供している企業の23%が、インターンシップ提供の動機を「社会的責任を果たすため」と回答しているのには感心した。
  • 学士課程以上の修了者向けインターンシップを提供している企業のうち、9%と数は少ないが、「正規従業員に指導監督の役割を与え、正規従業員のキャリア開発に活用するため」と答えた企業があり、インターンの提供にこのようなメリットもあることを知った。また、21%が「大学とのより良い関係を築くため」としており、大学の持つ知見や人材を活用したいという企業の意気込みが感じられた。
  • 英国政府発表の2011年11月の失業者数は262万人、失業率8.3%と1994年以来の高水準となった。特に、16歳から24歳の若年層の失業者数は102万人になり、その失業率は21.9%と1992年以来の最高水準である。今後、景気対策と共に社会問題になってきている若者の失業問題は政府の重要課題の一つになっていくであろう。それに伴い、インターンシップ制度へのテコ入れもあるかも知れない。

 

注釈)

  • *1 1ポンドを130円で換算
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