レポート - 英国大学事情 -

2011年7月号「ロンドン地区大学・共同購入コンソーシアム」

掲載日:2011年7月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2010年に発表された、英国の持続可能な高等教育制度見直し報告書である「ブラウン・レビュー報告書」の各種提案や政府の緊縮財政による高等教育予算算削減を受けて、英国の大学は2012年度からの授業料の値上げを計画するとともに、各種方策による経費節減に努めている。その経費削減策の一環が大学の共同購入コンソーシアムの利用である。

英国の大学は長年にわたり、地域ごとに共同購入コンソーシアムを組織して、メンバーシップ・フィーによって調達の専門家を外部から雇用し、多岐にわたる物品やサービスの共同調達を実施している。各地域のコンソーシアムは、他のコンソーシアムとも連携を取りながら、ベスト・プライスの情報交換やベスト・プラクティスの共有にも力を入れている。近年では、このような大学の共同購入コンソーシアムに各地域内の美術館、博物館、公的機関なども参加して、その動きは活発化してきている。

今月号では、大学共同購入コンソーシアムの一例として、ロンドン地区大学・共同購入コンソーシアム(London Universities Purchasing Consortium:LUPC)の活動を紹介する。

 

【1. 組織】

1-1) 沿革

  • ロンドン地区大学共同購入コンソーシアム(LUPC)は1968年に設立され、メンバー校が共同で所有する非営利法人組織である。現在では、ロンドン近辺の大学やコレッジのほか、生涯教育コレッジ、芸術および科学関連の非営利機関など、合計61機関が参加している。またLUPC は、イングランド南部地域大学共同コンソーシアムをはじめとしたイングランド地方の4つのコンソーシアムで構成される、イングランド地方大学共同購入コンソーシアム(English National Purchasing Consortium)の一部でもある。

 

1-2) スタッフ

  • 現在、7人の専従スタッフがロンドン大学内に設置されているコンソーシアム本部にて調達業務、スタッフ訓練、イベント、コンファレンス、マーケティングなどの活動に従事している。
  • スタッフのほぼ全員が、企業や公的機関にて調達業務に長年従事した専門家である。

 

1-3) 組織構成

【理事会】
  理事会は最高意思決定機関であり、参加機関の事務局長や財務・建物管理役員などの7人の理事で構成される。
【執行委員会】
  理事会の監督下にある執行委員会は、参加機関の10人の調達担当の課長または部長クラスの委員で構成される。
【コモディティー・グループ】
  執行委員会の下には、調達品目別の「コモディティー・グループ」が置かれ、各グループには本部の専門スタッフが配置されるとともに、担当する調達品目に詳しい知識を持つ参加機関のスタッフも参加する。同グループ・メンバーは、公募調達書類の作成や応募案件の評価を行う。調達品目によっては、他の共同調達コンソーシアムと連携した調達活動をすることもある。調達品目別の活動については、第3章でより詳しく説明する。

 

1-4) 活動サマリー

  2009-10年度 2008-09年度
コンソーシアムの調達額 1億3,200万ポンド(178億円) 1億4,700万ポンド(198億円)
節減額 2,540万ポンド(34億円) 2,630万ポンド(36億円)
供給業者との割引協定数 61 49
平均的コンソーシアム参加費用効率 57:1 57:1
LUPCを他機関に紹介したいか? - 92%

(2009-10年度の調達額と説減額が前年度比減少しているが、これはメンバーシップの入れ替えがあったためとのこと)

 

【2. コンソーシアム参加のメリット】

【経費節減】

LUPCが供給業者と締結している各種の割引料金制度によって、品目によっては30%もの経費節減ができるとともに、調達公募にかかる経費の節減も可能である。

 

【法的規制の遵守】

各種のEU指令および英国の判例法を通じて、公的調達は複雑さを増してきており、訴訟に発展する可能性もある。LUPCによるすべての調達契約は、専門家によって法的規制に則って行われるため、訴訟に発展するリスクを最小限にとどめることができる。

 

【広範囲な調達協定へのアクセス】

LUPCは現在、広範囲な物品やサービスに関して、供給業者と62件の割引協定を結んでいる。

 

【供給業者に関する無料の信用調査】

インターネットを通じて、供給業者の信用調査を無料で行うことができる。

 

【エネルギー・コンソーシアムへの無料メンバーシップ】

全国の大学を対象とした、エネルギー関連の共同調達コンソーシアムであるThe Energy Consortiumの無料メンバーシップが付与される。

 

【その他】

EUの調達ガイダンスへの無料アクセス、毎月のニュースやトピックスの配信、年次経費節減報告書およびベスト・プラクティスの共有のためのネットワーキングの提供。

 

【3. 品目別・年間推定節減】

LUPC2009・10年度の年次報告書から一部を抜粋・編集して、調達品目別の年間推定節減額を紹介する。

(金額単位:1,000ポンド)
エネルギー 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
電力・100kw以上の事業所用 918(1億2,400万円*1) 4社 TEC
電力・小規模事業所用 175(2,400万円) 4社 TEC
ガス 277(3,700万円) 5社 TEC
TEC:The Energy Consortium


設備・管理 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
音響機器 103(1,400万円) 23社 HEPCW
音響機器消耗品 15(200万円) 1社 NWUPC
清掃 137(1,800万円) 2社 LUPC
電子部品 146(2,000万円) 4社 NWUPC
消火器 新規追加品目 5社 Firebuy
事務所用家具 558(7,500万円) 11社 SUPC
宿舎用家具 1 7社 NEUPC
ハンド・ドライヤー 新規追加品目 5社 -
ICT用家具 新規追加品目 1社 -
電球 41(600万円) 5社 NWUPC
電気器具安全テスト 4 3社 LUPC
安全保護器具 34(500万円) 4社 SUPC
警備 224(3,000万円) 1社 LUPC
看板・標識 新規追加品目 5社 NEUPC
HEPCW:Higher Education Purchasing Consortium, Wales
NWUPC:North Western Universities Purchasing Consortium
SUPC:Southern Universities Purchasing Consortium
NEUPC:North Eastern Universities Purchasing Consortium


保険 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
各種保険 4,149(5億6,000万円) 1社 LUPC


ICT 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
デスクトップPC 1,560(2億1,000万円) 5社 LUPC
ノートブックPC 394(5,300万円) 4社 LUPC
サーバー及びストレッジ 1,617(2億1,800万円) 9社 SUPC
A社製PC 1,986(2億6,800万円) 1社 HEPCW
ハードウェア・メンテナンス 65(900万円) 3社 SUPC
ITアクセサリー・部品 32(400万円) 5社 SUPC
ネットワーク・ハードウェア 55(700万円) 7社 NEUPC
プリンター 28(400万円) 3社 NEUPC
携帯電話 398(5,400万円) 5社 Buying Solutions/td>
Buying Solutions:英国財務省所管のエージェンシーの一つで、公的機関向けの共同調達を提供している。


研究所用 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
研究用消耗品 2,940(3億9,700万円 4社 LUPC
研究用備品 835(1億1,300万円) 3社 LUPC
研究用ガス 1,400(1億8,900万円) 6社 LUPC
顕微鏡及びイメージング機器 新規追加品目 25社 APUC
マス・スペクトロメーター 新規追加品目 1社 APUC
クロマトグラフィー 新規追加品目 1社 APUC
精密化学品 新規追加品目 3社 NWPLS
放射性化学品 新規追加品目 2社 NWPLS
APUC:Advanced Procurement for Universities and Colleges
NWPLS:Higher Education National Working Party Laboratory Supplies


図書館用 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
書籍 501(6,800万円) 8社 LUPC
警備 163(2,200万円) 3社 LUPC
定期刊行物 187(2,500万円) 3社 LUPC
美術品スペシャリスト・サービス 21(300万円) 2社 LUPC
一般備品 30(400万円) 4社 LUPC


オフィス用 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
備品+コンピューター用消耗品 4,330(5億9,800万円) 3社 LUPC
コピー機器 236(3,200万円) 9社 SUPC
郵便・配送 770(1億400万円) 5社 NPDSWP
用紙 50(700万円) 5社 Buying Solutions
NPDSWP:National Postal Distribution & Supplies Working Party
* 公的分野向け割引制度によるベスト・プライスに比べ、LUPC経由ではコンピューター関連消耗品では平均37%、文房具では平均8.6%の節減となった。

トラベル 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
出張関連手配 264(3,600万円) 4社 LUPC
リース車両 4 7社 SUPC


専門サービス 年間推定節減額 契約企業 主コンソーシアム
債務回収 41(600万円) 1社 LUPC
弁護士 新規追加サービス 13社 SUPC
リクルートメント広告 163(2,200万円) 9社 SUPC
テンポラリー・スタッフ派遣 509(6,900万円) 9社 LUPC

* テンポラリー・スタッフ派遣費用は、派遣業者のマージンの削減および派遣人員を一括して契約することにより、平均15.2%の節減となった。

 

【4. 筆者コメント】

  • 昨春に誕生した、保守党と自由民主党による英国の連立政権は、公共部門の調達方法のさらなる改善を政府の財政赤字削減の重要な手段の一つと位置づけている。それに伴い、長年にわたり地域ごとにコンソーシアムを組んで共同購入を実施している大学を初め、中央省庁でも所管部署の間の共同購入や事務管理部門の共有サービス(shared service)活動が活発化してきている。
  • 日本のJSTやJSPSに相当する英国の公的研究助成機関である7つのリサーチ・カウンシルでは、数年前に調達、IT、経理、人事関連の「共有サービス・センター」を設置して、リサーチ・カウンシル所属の多くの研究所の管理事務を集中処理して経費削減を実施している(筆者は数年前に、立ち上がったばかりの同センターを訪問して、同センター長にインタビューしたことがある)。このような英国の公的機関の共同活動や共有サービス・センターを利用する傾向は、今後とも高まっていくと思われる。
  • 英国の高等教育機関は、人件費を除き、合計で年間約80億ポンド(1兆800億円)を支出しており、高等教育分野による調達は環境面を初め、いろいろな面で大きな影響力を持つようになってきた。そのためHEFCEは2009年に、調達を通じた環境対策の一環として、高等教育機関を対象とした「Sustainability Centre of Procurement Excellence」という4年間のプロジェクトを発足させた。LUPCも独自に「Sustainability Policy and Strategy for the Consortium」という政策を立てている外、HEFCEプロジェクトとの連携活動をしているため、共同購入コンソーシアムに参加することにより、環境に配慮した「持続可能な調達」にも貢献できることになる。
  • 英国の大学の各地域共同購入コンソーシアムは30‐40年の歴史があり、地域ごとのコンソーシアムのほかに、物品やサービス品目別に全国規模のコンソーシアムの連合体があり、購入価格等の情報の交換やベスト・プラクティスの共有に力を入れている。また、他の地域コンソーシアムの購入条件が良い場合は、他地域のコンソーシアムが供給業者と取り交わした割引協定に相乗りするなど、非常に柔軟性に富んだ運用をしている。参考までに、全国レベルの高等教育機関向け割引協定の事例を挙げる。
    • National Desktop and Notebook Agreement
    • National Computing Hardware
    • National Gases Committee
    • National Postal Distribution + Supplies Working Party
    • National Telecommunications Group
    • National Universities Working Party on Electronic Components
    • National Working Party - Laboratory Supplies
    • National Working Party for Computer and Stationery Supplies
  • 共同購入コンソーシアムの参加メンバー校の負担費用を軽減するために、LUPCでは供給業者からもコンソーシアム運営経費の一部の負担を要求し始めており、長年にわたる英国の大学共同購入コンソーシアムの購買力の大きさとその強さが伺われる。
  • コンソーシアム結成当初、英国の大学の中でもコンソーシアムのメリットに疑念を抱く大学も多数あり、最初は数校でコンソーシアムを組んで共同購入を開始し、その実績が上がっているのを見て多くの大学がコンソーシアムに参入してきたという経緯がある。また、参加校が増えるほど購買力と発言力が増えるため、コンソーシアム自身が参加する大学や公的機関のメンバーを増やすためのマーケティング専門職員を雇用しているのは注目される。
  • 他の共同購入コンソーシアムと同様に、LUPCでも物品に限らず、リクルートメントや警備などの専門サービスも共同購入リストに載せている。最近では教育、学生、医療事故などの専門分野別に合計13の弁護士事務所と割引協定を結んでおり、参加校は弁護士費用を平均20%削減できたとしている。
  • LUPCは共同購入をすることによるロンドン地区の地域経済、特に地域の中小企業へのインパクトも考慮しており、例えば、テンポラリー・スタッフ派遣業者の選定の際には、7社のうち4社は地元の中小企業を選んでいる。
  • このほか、HEFCE を中心とした公的助成で運営され、高等教育機関におけるデジタル・テクノロジーの活用を促進するために設置されたJISC(Joint Information Systems Committee)では、1998年に高等教育機関やリサーチ・カウンシル向けのウェブベースでの調達への支援策として、「Procureweb」というウェブサイトを立ち上げた。最近、このウェブサイトは各大学やリサーチ・カウンシルの研究所などで不要になったり、余っている備品を、参加メンバーがウェブ上で相互に売買できるシステム「Procureweb Xchange」を構築した。このように、英国の大学では共同購入コンソーシアムを初め、いろいろな形態の効率化および経費節減のための取り組みが行われている。

注釈)

  • *1 1ポンドを135円で換算
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