レポート - 英国大学事情 -

2010年9月号「英国の産学・社会連携活動調査2008-09年度 - HEFCE:Higher Education?Business and Community Interaction Survey -」

掲載日:2010年9月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

 

【1. はじめに】

2010年6月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、英国の全高等教育機関を対象とした第9回目となる「産学社会連携活動調査:Higher Education- Business and Community Interaction Survey」の調査結果を公表した。当調査は2003-04年度の第4回目調査から、従来の「産学連携活動調査」という名称に、「コミュニティーとの連携活動」を加えた「産学社会連携活動調査」と名称を変えている。これにより、イベントなどの開催を通じた「社会、コミュニティーおよび文化的活動への取り組み」も調査項目に追加され、HEFCEが英国の大学の教育、研究に次ぐ第3の使命として、産学連携を含む広範囲な地域社会への貢献を重視していることがうかがえる。また、HEFCEが大学の産学・社会連携活動を大学による「Exchange of Knowledge」という表現でとらえていることも注目されよう。これは、とりもなおさず、社会との連携を通じて大学も社会の要請を学ぶことも重要であることを意味している。今月号では、この第9回目の英国の産学社会連携活動調査結果を抜粋して紹介する。

 

 

【2. 調査結果の概要】

2-1)産学・社会連携活動の総収入

2007-08年度 2008-09年度
£28億1,200万(3,936億円*1) £29億6,600万(4,152億円)
  • 2008-09年度のGDPは前年比2%下落したことを考慮すると、上記の5.5%の総収入の増加は各大学の健闘振りを示している。
  • リセッションの影響もあり、民間部門からの収入は過去2年間連続の微減であったが、NPOやチャリティー機関などの第3セクターを含む公的分野からの収入は増加し、初めて10億ポンド(1,400億円)強となった。

 

2-2)活動別収入

主要収入源 2007-08年度 2008-09年度
契約研究 £8億3,500万(1,169億円) £9億3,700万(1,312億円)
共同研究 £6億9,700万(976億円) £7億3,200万(1,025億円)
継続専門教育(CPD) £5億3,700万(752億円) £5億5,900万(783億円)
コンサルタンシー £3億3,500万(469億円) £3億3,200万(465億円)
地域再生プログラム £2億3,800万(333億円) £1億7,200万(241億円)
スピンオフ企業売却 £6,600万(92億円) £1億2,400万(174億円)
施設・設備使用 £1億280万(144億円) £1億1,000万(154億円)
知的所有権 £4,500万(63億円) £5,600万(78億円)
  • 2008-09年度の共同研究収入7億3,200万ポンド(1,025億円)のうち、公的分野からの収入(大学からの助成を含む)は6億1,200万ポンド(857億円)に達する。

筆者注:英国でいう第3セクターは、公的機関と民間企業の中間に位置する、非営利のNGOやチャリティー機関を指し、日本で言われる第3セクターとは意味が異なる。当レポートにある「公的分野」には、この第3セクターが含まれる。

 

【契約研究】

  • 契約研究収入の約60%にあたる5億5,600万ポンドは公的分野からの収入であり、その伸び率は前年比19%と大きく貢献している。公的分野からの収入は、2002-03年度の約3億3,000万ポンド(462億円)から2008-09年度の5億5,600万ポンドと、過去6年間で約70%増加した。ちなみに、同期間の大企業からの収入は約2億8,000万ポンド(392億円)から約3億4,000万ポンド(476億円)と21%増加し、中小企業からの収入は年間約4,000万ポンド(56億円)と横ばいである。

 

【コンサルタンシー収入】

  • コンサルタンシー収入に関しても、中小企業からの収入は前年比4%減、大企業からの収入は前年比11%の減少に対して、公的分野からの収入は前年比5%の増加となり、民間部門からの収入の落ち込みを公的分野がカバーしている。コンサルタンシー収入の57%にあたる約1億9,000万ポンド(266億円)が公的分野からの収入である

 

【施設・設備使用料収入】

  • 施設・設備使用料収入の43%にあたる約4,700万ポンド(66億円)が公的分野からの収入である。

 

【継続専門教育(CPD)収入】

  • 主に社会人を対象とした継続専門教育(CPD)からの収入は4%近く伸びたが、公的分野からの増収が貢献している中、中小企業からの収入は前年比9%減、その他の産業界からの収入は14%減となった。個人からの収入は、前年度比15%増の1億7,500万ポンド(245億円)と大きな伸びを示しており、雇用状況が厳しい中、自己の技能を磨くために訓練を受ける個人が増えているためと思われる。
CPD費用負担元 比率
公的分野 44%
個人 31 
大企業 20 
中小企業  5 

 

【地域再生プログラム収入】

  • 地域再生プログラム(regeneration programmes)活動は、都市開発から地域コミュニティー開発まで広範囲の活動をカバーする。2008-09年度の収入が落ち込んだ原因は、EUへのいくつかの新規加盟国があったことから、EUの「European Community Structural Funds」から英国の大学への助成の比率が下がったためとみられる。

 

【知的所有権関連収入】

  • 知的所有権関連収入は前年比24%の伸びを示し、17大学が知的所有権によって100万ポンド(1億4,000万円)以上の収入を得た。また、67%の大学が知的所有権保護のための経費を差し引いた後の知的所有権からの利益を報告している。

 

2-3)知的所有権関連活動

  2007-08年度 2008-09年度
知的所有権の保護費用 £2,100万(29億円) £2,800万(39億円)
スピンオフ企業新規設立数 221社 191社
3年以上経過した、現存のスピンオフ企業数 923社 982社
IPに基づかないスタートアップ企業の新規設立数 41社(大学スタッフ) 53社(大学スタッフ)
1,977社(学生、最近の卒業者) 2,031社(学生、最近の卒業者)

【スピンオフ企業とスタートアップ企業】

  • 上記では、大学の知的所有権を利用して設立された企業を「スピンオフ企業」、大学の知的所有権に基づかずに設立された企業を「スタートアップ企業」として区別している。設立後3年以上経過したスピンオフ企業数は2002-03年度の600社弱に比べ、2008-09年度には約1,000社と大幅に増加している。
  • スピンオフ会社設立数は前年度比で減少となったが、過去10年間における年度毎の設立数は変化が大きい。その理由としては、過去10年から20年間の研究成果が実を結ぶ時期を反映しているためと考えられる。一方、スピンオフ企業の株式上場はシード・ファンドが獲得できるかどうかなど、目先の経済環境によって影響される傾向にある。

【知的財産権】

  • 発明の開示数、特許申請数、新規特許認可数とも前年比に比べ、それぞれ6%、10%、12%増加し、高等教育機関の所有する知的財産権のポートフォリオは前年比2%増加した。(新規特許認可数は、過去数年間、年間約600件近くで推移している)

 

2-4)イベントの開催

  • 2008-09年度においては、75万人以上の一般市民が大学の無料講義を聴講した。(前年度とほぼ同数)
  • 音楽、ダンス、演劇などのパフォーマンス・イベントに関しては、無料イベントへの参加者数44万人に対して、有料イベントへの参加者160万人以上と、有料パフォーマンス・イベントに、より多くの一般市民の参加があった。
  • 無料エキジビションには合計約600万人、有料エキジビションには75万人の一般市民が参加した。

 

2-5)米国の大学との比較

(2008-09年度)
  米国AUTM調査 英国HEFCE:HE-BCI調査
調査対象の高等教育機関数 154 158
知的所有権関連収入(スピンオフ企業売却益を含む) 12億9,400万ポンド(1,812億円) 1億2,400万ポンド(174億円)
全研究投資額に対する知的所有権関連収入の比率 5.3% 2.0%
スピンオフ企業の新規設立数 549社 191社
全研究投資額に対する知的所有権関連収入の比率 5.3% 2.0%
設立されたスピンオフ企業1社当たりの研究投資額 4,450万ポンド(62億円) 3,100万ポンド(43億円)

 

 

【3. 筆者コメント】

共同研究や契約研究収入の多くは公的機関やNPOやチャリティー機関からの収入であり、英国の大学が研究面において公的機関や非営利機関と強く結びついていることがうかがわれる。英国では、前労働党政権下では研究開発の重要性に鑑み、リサーチ・カウンシル等の公的機関への研究予算が増加するとともに、Quangoと呼ばれる多くの準公的機関が設立された。このような状況が、大学の研究収入等の増加につながったのであろう。また、英国には特に医学研究を中心に、大型のチャリティー機関が存在し、研究助成額を増加させてきた。たとえば、ウェルカム財団では、大学の研究者への助成を含めた研究開発費として、年間約6億ポンド(840億円)、キャンサー・リサーチUKは年間3億ポンド(420億円)以上の研究支援を実施している。

しかしながら、今春に政権を取った保守党新政権による超緊縮財政により、各省庁の総予算は4年間で25%の削減が計画されており、公的分やの研究開発予算も削減されるため、大学への研究助成金も少なくとも今後数年間は減少傾向となろう。

 

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