レポート - 英国大学事情 -

2008年4月号「大学のエコ・キャンパス促進活動」

掲載日:2008年4月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

【1. はじめに 】

英国では、230以上の大学およびコレッジが「The Environmental Association for Universities and Colleges(EAUC)」に加盟して、以下のような環境問題およびサステイナビリティーに対処するための各種プロジェクトを促進している。

  • 「Campus Sustainability Programme」
     スコットランド政府およびスコットランド高等教育助成会議の助成により、英国全土の高等教育機関の「サステイナビリティー」対策のための各種プログラムの支援、ワークショップの開催、ベンチマーキングの提供等を行っている。
  • 「FE Online Resource」
     オンラインによる、高等教育機関向けの「サステイナビリティー」対策支援。(Sustainability Online Resource and Toolkit for Education:SORTED)
  • 「Sustainable Procurement」
     「サステイナビリティー」の概念を高等教育機関の調達活動に組み入れるため、環境・食糧・農業省(DEFRA)による助成プロジェクト。期間は2005年から2008年までで、17の大学およびコレッジが参加している。
  • 「Carbon Academy」
     全国学生ユニオン(National Union of Student)が運営するCarbon Trust*1の助成を受けたプロジェクトである。「Carbon Academy」は、ベスト・プラクティスの共有およびエネルギー管理の教育訓練によって、同学生ユニオンに参加する233校の炭素排出量の削減を目的とする。2007年から1年間のパイロット・プロジェクトであり、6大学の学生ユニオンが参加した。
  • 「EcoCampus」
     当プロジェクトは、英国全土の大学をカバーする全国的な環境管理システム「Environmental Management System (EMS)」であると同時に、褒賞制度でもある。この「EcoCampus」プロジェクトについては次章にて解説する。
  • 「Zero-Waste in Student Halls」
     イングランド高等教育助成会議(HEFCE)の助成のもとに、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス(LSE)が運営するプロジェクト。大学の年度末に、学生寮に放置される品々を効率よく再利用することを目指す。LSEの調査では、毎年、学生寮に入居している学生は、年度末に10‐12kgの再利用可能な品々を学生寮に残していくというデータがある。

 

【2.「エコ・キャンパス」プロジェクト 】

2-1) プロジェクト概要

「エコ・キャンパス:EcoCampus」プロジェクトは、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)の助成を受けた、Nottingham Trent University、Loreus Ltd(EMS,ソフトウェア開発・訓練会社)、Environmental Association for Universities and Colleges(EAUC)およびEnvironmental Campaigns(ENCAMS)による共同プロジェクトである。

その目的は、英国全土の大学をカバーする全国的な環境管理システム「Environmental Management System:EMS」の構築と報奨制度の確立にあり、Nottingham Trent Universityにその本部が置かれている。当初は、2005年11月から2008年11月までの3年間のパイロット・プロジェクトであったが、今後も継続することが決定している。

「エコ・キャンパス」プロジェクトは、段階的に、大学が国際的な環境管理システム・スタンダードであるISO14001に足並みをそろえることを目標としている。また、環境改善をベンチマーク化し、大学が一定の基準を達成した場合は、外部の中立的機関の認定を受けた上で、「EcoCampus Award」を授与する計画である。

【プロジェクトの展開計画】

フェーズⅠ:10大学によるパイロット・スキーム
フェーズⅡ:「Ecocampus Award」の設定
フェーズⅢ:全国的展開

【環境対策への高等教育分野の重要性】

英国の約130の高等教育機関は、約30万名のスタッフおよび200万名の学生(パートタイムを含む)を擁し、環境に対して以下のような大きな影響を与えている。

  • 年間52億キロワットの電力消費。電力費は年間2億ポンド(400億円)以上
  • 年間1,600万立方メーターの水の消費
  • 年間30億ポンド(6,000億円)の物品とサービスの調達
  • 一日当たり、100万名にのぼる通勤・通学者
  • 年間、何十万トンという廃棄物の排出

【パイロット・スキーム参加大学】

  • Bath Spa University ・London School of Economics ・University of Kent
  • Nottingham Trent University ・Oxford Brooks University
  • University of Bradford ・University of Bristol ・University of Derby
  • University of Worcester ・University of Hertfordshire

2-2) アウォードの概要

「エコ・キャンパス」プロジェクトの特徴の一つは、以下のような4段階のアウォード制度を導入した点である。

【ブロンズ】(プランニング段階)

・シニア・マネージメントのコミットメント ・環境に関心を抱かせるための訓練  ・組織における環境レビュー ・環境政策の原案作成

【シルバー】(実行段階)

・法的要件 ・環境政策の策定 ・目的、目標、実行プログラム

【ゴールド】(運営段階)

・人材、役割、責任と権限 ・能力、訓練、自覚 ・コミュニケーション  ・書類作成 ・書類の管理
・運営の管理 ・緊急事態へ準備と対応

【プラチナ】(チェック・修正段階)

・モニタリングと測定 ・規則遵守に関する評価 ・記録管理 ・内部監査
・不適合性、修正および予防への対策措置 ・マネージメント・レビュー

2-3) ベスト・プラクティス・ガイド

「EcoCampus」プロジェクトでは、高等教育機関の資源管理に関する以下のようなベスト・プラクティスを紹介している。

  • Waste Watch‐「Resource Management in the Educational Sector」
    「Waste Watch」は持続可能な資源利用を促進する環境チャリティー団体であり、学校、継続教育コレッジおよび大学における資源管理の調査結果を公表している。
  • EAUC‐「Waste Management Guidelines」
    オンラインによる廃棄物管理のガイドライン。
  • HEEPI-「Measuring and Minimising Waste」
    HEEPI(Higher Education Environmental Performance Improvement)による、高等教育機関向け廃棄物管理のガイドライン。
  • EAUC-「Biodiversity on Campus Part 2 : Practical Management」
    キャンパス内の「生物の多様性:biodiversity」の保護と管理等に関するガイドライン。
  • Carbon Trust-「Educated Energy」
    高等教育機関のエネルギー担当者向けのガイドライン。

2-4) 事例

A) ブリストル大学(スタッフによる自家用車通勤の削減)

  • ブリストル大学はスタッフ用駐車場スペースの不足により、1999年に新たな駐車制度を導入した。これにより、駐車料金は無料の障害者用駐車スペースをはじめとして3段階となり、かつ年間駐車料に代わって一日ごとの駐車料金の支払いに変更した。この新駐車料制度による新たな収入は、ウェブ・ベースのカー・シェアリング・スキームの導入やサイクリストや徒歩者のためのシャワー・ルームや更衣室の設置、バスのシャトル・サービス等に利用された。
  • 1999年に新駐車料金制度を導入する前に、ブリストル大学はスタッフの通勤手段に関する調査を実施し、2001年にフォロー・アップのための再調査を行った。その結果、通勤に車を利用するスタッフ数は1998年の44%に比べ、2001年には32%に減少した。これは、大学構内に入る車の数が1日当たり約600台減少したことを意味する。24%のスタッフは、駐車料金の増額が車での通勤をためらわせたと回答した。

B) リーズ・メトロポリタン大学(持続可能な調達)

  • リーズ・メトロポリタン大学は、年間約3,000万ポンド(60億円)の物品及びサービスの調達を行っている。これらの調達活動は、エネルギー消費、廃棄物の排出および輸送に伴う排ガス等によって、環境に広範囲な影響を与えている。
  • これらに対応するため、リーズ・メトロポリタン大学の調達部門と環境対策部門は  環境を考慮した調達政策を導入し、その結果、多くの「グリーン契約」が締結された。その一例が、大学案内のカタログ用紙の10%の軽量化、リサイクリング紙の使用およびウェブ・ベースへの制作プロセスの変更である。10%の軽量化は、コスト削減と共に年間約5トンの紙の使用の削減につながっている。その他、構内にて使用する車両をジーゼル車から電気自動車またはLNG車両に切り替える対策も実施した。

【リーズ・メトロポリタン大学の環境を考慮した調達政策】

  • コストが同様の場合は、リサイクルできる割合が多い物品に優先権を与える。
  • リサイクル又は再利用できる物品を特定する。
  • 環境改善に努力している供給者を優遇する。
  • 器具等を購入する時には、製品寿命を含めた総コストを考慮する。
  • 環境イニシアティブの促進およびベスト・プラクティスの共有のために、地域の公共団体、他の大学および地域コミュニティーと活動を共にする。

2-5) エコ・ツール(EcoTools)

  • 「Environmental Review」ソフトウェア
    当ソフトウェアは、組織のすべての環境に関するパフォーマンスを管理分野ごとに示し、その対策を指南する包括的なプログラムである。(ISO14001取得のための第一歩)
  • 「Significance Calculator」ソフトウェア
    ISO14001取得には、組織の最も重要な環境面の取り組みを強調する必要がある。当ソフトウェアは、組織の最も重要な環境面の取り組みを見出すための手助けをする。
  • 「Trainer」ソフトウェア
    当ソフトは、実施プロセスにおいてのステップ・バイ・ステップのガイダンスを行う。

2-6) 「エコ・キャンパス」パイロット・スキーム

当パイロット・スキームは2006年1月に発足し、10大学が参加している。2006年10月にノッティンガム・トレント大学にて最初のワークショップが開催されて以来、現在まで、8回のワークショップが開かれた。

【成果】

当パイロット・スキームに参加した10大学のうち、6大学が「ブロンズ」アウォードを取得した。

2-7) 「Business In The Community 環境インデックス」

非営利団体のBusiness In The Community(BITC)が運営する「環境インデックス」は、10年の運営実績を持ち、現在では企業の環境に関するベンチマークの一つになっている。BITCのメンバーは、英国の企業750社(そのうち70社はロンドン株式市場インデックスFTSE100に入る大企業)と90の海外パートナー・ネットワークを通じた約2,000社からなる。そのうち150社以上が「環境インデックス」の調査活動に参加した。

2007年、BITCはイングランド高等教育助成会議(HEFCE)の助成を受け、「Universities That Count」という、大学と企業の環境インデックスを比較した調査資料を発表した。この調査には20の大学が参加したが、大学の全般的な環境インデックスのスコアは企業の83%に比較し、55%の達成度であった。企業を含む全体のトップ100には5大学だけが入り、トップ50には1大学が入ったのみであった。特に、大学のスコアが低い項目は、環境管理システム(EMS)、監査、サプライ・チェーンであった。

【調査結果からの抜粋】

インデックス項目 大学平均 企業平均
全体的環境スコア 55% 83%
リーダーシップ 65 88
政策の策定 84 97
目的の設定 68 95
目標の設定 59 91
従業員環境プログラム 66 93
環境管理システム(EMS) 24 78
環境監査(Audit) 35 84
外部関係機関とのコミュニケーション 57 86
環境を重視する供給者からの調達 38 72
気候変動対策(CO2削減、熱消費量等) 61 78
廃棄物および資源の管理 46 69
生物の多様性(biodiversity)管理 69 87
水の消費量の管理 78 78
建物等の設計 33 83

(BITC「Universities That Count」調査資料より)

 

【3. 大学グリーン・ランキング 】

英国最大規模の大学・コレッジ等の学生ネットワークである「People & Planet*2」は、英国の約120の大学の環境対策データを収集し、そのランキング結果を2007年に初めて「People & Planet Green League 2007」として公表した。

このリーグ・テーブルでは、各大学を次の4つのカテゴリーに分類した。

  • 「First」Solid Environmental Performance(グリーンで表示した15大学)
  • 「2:1」Fair but could do better(黄色で示した20大学)
  • 「2:2」Must try harder(34大学)
  • 「Third」Poor environmental performance(19大学)
  • 「Fail」(17大学)
  • 十分な情報を提供しなかったために判定不可能(15大学)

【2007年度大学グリーン・リーグ】

「First」と「2:1」ランクのみ抜粋
順位 大学 環境政策の公表 専従環境スタッフ 包括的環境監査 グリーントラベル フェア・トレード 再生可能エネルギー利用率 廃棄物のリサイクル率 CO2排出量(Kg/1名) 総合得点(50点中)
1. Leeds
Metropolitan
85% 35% 636Kg 48点
2. Plymouth 7 40 501 46
3. Hertfordshire 16 40 553 44
4. Glamorgan   64 32 579 43
5. Gloucestershire 36 3 242 42
5. Oxford Brooks 34 - 376 42
7. Queens, Belfast 17 17 1,091 42
7. Anglia Ruskin 6 14 460 40
7. Cambridge   22 29 2,349 40
7. Edinburgh 25 26 1,868 40
7. Leeds 0 33 1,252 40
7. Portsmouth 0 27 722 40
7. Sheffield Hallam   2 10 476 40
7. St Andrews 30 22 1,896 40
7. West of England - 29 522 40
16. Bath          
16. Bradford 29 11 848 38
16. Northumbria   41 7 304 38
16. Nottingham Trent   - 56 582 38
16. Sheffield 28   493 38
16. Southampton 0 68 2,221 38
22. Derby 0 12 506 36
22. LSE   34 - 690 36
22. Newport   6 17 696 36
22. Newport   6 17 696 36
22. Nottingham 10 20 1,586 36
26. Bournemouth   0 36 508 35
27. Brunel     10 29 1,426 34
27. Coventry     0 14 778 34
27. Kingston - 9 612 34
27. Manchester 0 41 1,898 34
27. Oxford   45 - 758 34
27. Surrey   40 18 1,584 34
27. Swansea Institute   0 0 521 34
27. Warwick 18 11 2,128 34
35. Sussex   37 14 726 33

(上記の表はPeople & Planet「Green League 2007」から一部を抜粋し, スペースの関係上、一部を編集し直した。原文はhttp://www.ecocampus.co.uk/downloads/greenleague2007.pdf、評価方法はhttp://peopleandplanet.org/gogreen/greenleague2007/methodologyを参照乞う。)

 

【4. 筆者コメント 】

英国の学生ネットワーク「People & Planet」による「Green League 2007」は、英国の大学における初めての環境対策ランキングであったため、関係者に大きな反響を与えた。今後、大学の総合ランキングに環境対策も評価項目に入ってくるであろう。

英国における「エコ・キャンパス」活動には、大学のスタッフのみならず、学生も自発的に積極的に参加しているが、民間企業の「エコ対策」に比べて立ち遅れているのが現状である。政府の指導に加え、2007年に始まった大学環境ランキングは今後、毎年公表されると思われるため、英国の大学は今後ますます、環境対策に力を入れてくると思われる。

 

注釈)

  • *1 Carbon Trust : カーボン排出量削減のために、企業や公的機関を支援する政府の助成組織
  • *2 People & Planet : 貧困の撲滅、人権擁護および環境保護を目的とした英国の学生ネットワーク(非営利団体)
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