レポート - 英国大学事情 -

2007年10月号「寄付行為の国際比較と英国の現状」

掲載日:2007年10月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

近年、日本の国立大学法人においても大学基金への募金活動に力を入れ始めている。募金活動には寄付の文化や優遇税制が大きく影響し、各国によって状況は異なると思われる。今号では、募金活動の国際比較と英国の現状を紹介する。

 

【1. 国際比較 】

以下は、英国のCharities Aid Foundation*1が発行した調査資料、「International comparison of charitable giving, November 2006」を基にした寄付活動の国際比較の概略である。

(注)

  • 遺産および宗教税は含まない。遺産等を含む英国の寄付率はGDP比0.9%。
  • すべての調査データが、同一年に集計されたとは限らない。
  • ドイツの寄付率はGDP比0.22%であるが、旧東ドイツでは0.12%に対して、旧西ドイツでは教会税を除き0.26%である。
  • 個人による寄付金額はGDP比0.14%のフランスから、1位の米国の1.7%、2位の英国の0.73%まで、国際間で大きなばらつきがある。
  • 個人所得税や、特に社会保険料が高い水準にある国では、GDPに対する寄付率が低い傾向にある。高齢化に伴い、社会保険料の国民負担が将来的に増える国では、寄付率が下がる可能性もある。
  • 英国やオランダなどの国では、個人による寄付率の目標をより高く設定することが可能であろう。

 

【2. 国際間における寄付率の差の要因 】
・税金の高さ
・寄付金への優遇税制
・信仰心
・家庭および社会の寛大さ
・国の豊かさ

【寄付率と所得・所得税・社会保険料との関連性】

(2005年度)
国別 所得税・社会
保険料合計
所得税 社会保険料
(従業員負担)
社会保険料
(雇用主負担)
寄付率
(GDP比)
米国 29.1% 14.6% 7.3% 7.3% 1.67%
英国 33.5% 15.7% 8.2% 9.6% 0.73%
カナダ 31.6% 14.8% 6.2% 10.5% 0.72%
オーストラリア 28.3% 22.7% 0% 5.7% 0.69%
アイルランド 25.7% 11.4% 4.7% 9.7% 0.47%
オランダ 38.6% 9.5% 19.7% 9.5% 0.45%
ニュージーランド 20.5% 20.5% 0% 0% 0.29%
トルコ 42.7% 12.7% 12.3% 17.7% 0.23%
ドイツ 51.8% 17.3% 17.3% 17.3% 0.22%
フランス 50.1% 10.8% 9.6% 29.7% 0.14%

(注:所得税は、子供のいない独身勤労者の平均的所得水準を基準にしている。)

2-1) 寄付金への優遇税制

  • オランダでは、総所得の1%-10%の寄付金は所得控除(tax deduction)になる。

  • アイルランドでは、最低250ユーロ以上の寄付金は所得控除になる。(上限なし)

  • ドイツでは、課税対象所得の5%までが所得控除になり、寄付の対象が科学、慈善、および文化の場合は10%まで控除される。

  • フランスでは、寄付金の60%を課税所得額より控除できる。(最高控除額は課税所得総額の20%)

  • 英国では、「Gift Aid*2」制度や企業等における給与天引き寄付制度を利用した場合、寄付を受けた機関は寄付金以外に寄付者の所得控除額を税務署から受け取ることができる。(高額所得税納税者には、更なる所得控除がある)

  • オーストラリアでは、2オーストラリア・ドル以上の寄付金全額が所得控除される。

  • カナダでは、寄付金額に応じて異なる税額控除(tax credit)制度がある。200カナダ・ドル以下の寄付金には17%の税額控除、それ以上の場合には29%の税額控除が適用される。ただし、年間課税所得の75%までの寄付金額に適用。

  • 米国では、すべての寄付金は所得控除される。

2-2) 信仰心

  • 信仰心の強さが寄付率の差にどれくらい影響しているかを結論付けることは困難である。例えば、米国とアイルランドでは信仰心の強さが寄付率の高さに関連しているが、カナダやオーストラリアでは、信仰心の強さが中程度であるにも関わらず、高い寄付率を保っている。又、オランダやニュージーランドのように、信仰心の強さが中程度の国の寄付率が低いという現実がある。
  • 宗教に関連した寄付だけでは、英国と米国の寄付率の違いを説明することは困難である。米国において、宗教に関連した寄付は約3分の1を占めるのに対し、英国では13%である。

2-3) 家庭および社会の寛容さ

  • 国によっては、かなりの額の寄付金がチャリティー機関経由ではなく、例えば、街頭の物乞いに直接渡される場合があり、これらは公的統計には含まれていない。南アでは、45%の回答者が街頭の物乞い等に直接寄付をするとしている。

2-4) 国の豊かさ

  • 上記のグラフが示すように、平均所得の高さと寄付率の高さに間には、直接的因果関係は見当たらない。
  • 米国、英国およびカナダは、高い平均所得に比例する高い寄付率を示しているが、オランダやフランスの平均所得は平均以上であるにも関わらず、その寄付率はそれほど高くない。南アやオーストラリアでは、その反対である。富の分布および貧富の差が重要なポイントと思われる。米国における貧富の大きな差が、同国の高い寄付水準の一因でもあろう。
  • オランダ、フランスおよびスウェーデンでは、チャリティー団体ではなく政府が社会的ニーズに対する提供を行うべきとの考え方がある一方、米国や英国では、チャリティー団体が社会的に疎外されている人々のニーズに応える重要な役割を持つとの考え方が多い。

 

【3. 英国における寄付の現状 】

英国のCharities Aid FoundationおよびNational Council for Voluntary Organisationsが共同で発表した「UK Giving 2005/06」調査資料から、英国における個人による寄付の現状を探ってみた。

3-1) 2005・06年度調査の概要

  • 英国の成人一人当たりの平均寄付金額は、183ポンド(約46,000円*3)であった。
  • 全寄付金額は89億ポンド(2兆2,250億円)と推定される。
  • 英国の成人の約58%にあたる約2,800万人が、最低月1回の寄付をしている。(女性は61%、男性は53%)
  • 寄付の目的に関しては、医学研究が昨年に続き最も高い比率を占めており、昨年の34%から40%に躍進した。また、全寄付金額に対する医学研究向け寄付金額の比率も昨年の13%から19%に増加している。
  • 宗教関連団体が二番目に高い寄付金額を受けており、昨年比3%増の16%である。
  • 高額寄付者は他の寄付者に比べて、宗教関係には3倍近く、又海外向けには2倍近い寄付を行っている。
  • 約3分の1の寄付者が「Gift Aid」制度を利用している。高額寄付者の同制度の利用率は57%である。

3-2) 寄付の目的(全寄付者:高額寄付者別)

寄付の目的(全寄付者:高額寄付者別)

3-3) 年齢別寄付金額

年齢別寄付金額

3-4) 社会的・経済的ステータス別の寄付

社会的・経済的ステータス 寄付金額 % 寄付者の割合 %
マネージャー・プロフェッショナル 57 38
中間層 19 21
日常業務・現場労働者 19 24
その他 5 7

 

【4. 米国の事例 】

USA TODAY紙は、インディアナ大学慈善活動センター「Giving USA Foundation」の調査資料の抜粋を掲載しているので、その一部を紹介する。

  • 米国における2006年の募金総額は、インフレ調整後前年比1%増の2,950億ドル(35兆4,000億円*4 )に達した。
  • その内、個人による寄付は75.6%であり、遺産による寄付はその83.4%を占める。
  • 宗教団体が一番大きな比率を占める寄付先であり、32.8%が寄付されている。二番目に大きな寄付先は、教育機関の13.9%である。
  • 年収10万ドル(1,200万円)以下の家庭の65%が、何らかの寄付行為を行っている。

 

【5. 筆者コメント 】

英国では、教育への寄付率は米国に比べて低い位置にある。これは、英国の大学が、1校を除き全大学が日本の国立大学法人に近い組織となっており、大学は政府が助成するものとの考え方が定着しているためかもしれない。また、多くのポリテクニックが大学に昇格した1992年以前は、大学進学率は米国や日本に比べ低く、高等教育はエリートのものとの考え方があったことも一因であろう。しかしながら、現在の大学進学率は40%以上になってきており、この考え方は変化しつつある。

英国における大学基金への寄付活動を活発化させるために、2007年2月、ブレア前首相はイングランド地方の高等教育機関への寄付金に対して、2008年から3年間で2億ポンド(500億円)の政府のマッチング・ファンド構想を発表した。この構想は現金での寄付金4億ポンド(1,000億円)の純増を目指したものである。

なお、政府は例えば過去3年間の平均募金実績をベースライン(基準線)として、それ以上新たに追加できた募金額に対するマッチング・ファンドの導入を考えている。又、マッチング・ファンドも当初言われていた2:1の割合だけではなく、高等教育機関の過去の募金実績に応じて、場合によっては3:1や1:1の割合のカテゴリーの導入も検討している。

2007年6月ラメル高等教育担当閣外大臣は、マッチング・ファンド制度の概要を発表すると共に、2007年11月まで各高等教育機関とのコンサルテーションを行う予定である。近々、このコンサルテーションの結果も踏まえた、政府の最終的マッチング・ファンドの詳細が発表されるであろう。

 

用語説明

  • *1 Charities Aid Foundation: http://www.cafonline.org/
  • *2 Gift Aid: http://www.hmrc.gov.uk/charities/donors/gift-aid.htm
  • *3 ポンド: 当レポートでは、1ポンドをすべて250円にて換算した。
  • *4 ドル: 当レポートでは1ドルをすべて120円にて換算した。
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