レポート

英国大学事情—2007年9月号「大学のウェブサイト」

2007.09.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 近年、英国の大学においても、大学の顔でもあるウェブサイトの充実に力を入れている。そのなかから、バース大学の新たなウェブサイト戦略およびエセックス大学のウェブサイト支援部門の事例を紹介する。

【1. バース大学のウェブ戦略 】

 バース大学は2006年10月、同大学の新ウェブ戦略を発表したので、その一部を紹介する。

1-1) ウェブサイトの現状

 現在のバース大学のウェブサイトは1992年に立ち上げられた後、2002年にデザインが更新された。現在では7万ページ以上のコンテンツを持ち、毎月約50万件のアクセスがある。コミュニケーション部門の責任者の下に、3名のスタッフがウェブ・チーム専任として従事している。(2006年10月現在)

1-2) 現在のウェブサイトの弱点

 旧貿易産業省から科学・イノベーション庁(OSI)が切り離され、従来は内閣府の所管であった規制改革業務を加えた新たな省が誕生した。

  • ビジュアル的表現方法が部局ごとに異なって場合があり、統一性にかける。
  • 多くのウェブページが最新版に更新されていない。これは各部局が十分なリソースをウェブサイトに振り向けていないためであろう。
  • 検索機能が貧弱である。
  • 長すぎる文章や、ぎこちない文章も見受けられる。
  • ブラウザーの種類によっては、ウェブページを完全には見ることができない。
  • コンテンツに重複があったり、ギャップがあったりする場合もある。
  • ウェブ上の情報はユーザーのニーズを優先するのではなく、大学の機構を反映するために系統立てられている。そのため、同じ項目が色々なところに散らばる結果をもたらしている。
  • 全般的ウェブ戦略とウェブ構築の手順に関するステートメントが欠如している。
  • 部局のなかには、大学のウェブサイトが貧弱なために、部局独自で専属の外部ウェブ・デザイナーを雇用する事例も見られる。これは、大学におけるウェブサイトの合計費用が膨らむことを意味すると共に、既存のシステムとの互換性の問題を生む恐れがある。
  • 有効性、リンク切れ、法的基準の維持等に対する自動的チェック機能が存在しない。

 以上の弱点のいくつかは、他の大学のウェブサイトでも起こっていることかも知れないが、バース大学の場合は、それが多く見受けられることが問題である。それに伴うリスクは、当大学のウェブサイトを閲覧する、毎年何百万人の人々がウェブサイトを見て、当大学を不当に判断する可能性があるということである。

1-3) 新たなウェブ戦略

 コンテンツは、正確に一貫性のある文法およびスペルにて書かれるべきである。ウェブサイト用の書き方は、印刷物用のそれとは異なることを認識すべきである。また、同種類の基本情報は、各部局のウェブページ上の同じ場所に掲載されるべきである。

  • ウェブサイトの改訂
    ユーザーとのコンサルテーションの後、2007年6月までにユーザーのための情報提供に焦点を置いた、新たなウェブサイトを構築する。
  • コンテンツ・マネージメント・システム(CMS)の導入
    このシステムは、当大学のマーケティング・コミュニケーション部門を含むいくつかの部署によって既に導入されており、また外の大学のウェブサイトでも広く利用されている。このシステムに対する訓練をすべてのウェブサイト担当者に行い、12ヶ月から18ヶ月以内にウェブのメインページにこのシステムを導入する。
  • 公開の戦略
    公開に関する戦略を作成し、ウェブサイトについて誰が何の責任を持つかを明確にする。マーケティング・コミュニケーション部門は、ウェブのすべてのトップレベル・ページにのみ責任を持ち、各部局がそれぞれのページの責任を持つことになる。
  • コンテンツ
    基本的には、大学のメンバーは正当なアクセス権を持つ領域のコンテンツを制作し、更新することができるが、ウェブページのデザインの変更は訓練を受けた限られたスタッフによってのみ行われるべきである。
  • ウェブ制作ガイドの作成
    マーケティング・コミュニケーション部門は、大学のスタイルを定めたウェブページの制作ガイドを作成する。
  • 一貫したデザインとプレゼンテーション
    部局長会議で合意されたように、大学のすべてのウェブページに一貫性のあるデザインを採用する。しかしながら、一貫性を保ちながらも厳格なガイドラインのもとに各部局が独自性を発揮できるものとする。
  • その他
    大学内部向けのコンテンツについては、厳格に運用される必要はない。
    部局のウェブ・メンテナンスのスタッフがウェブの経験があまりない場合、部局のウェブサイトの更新のためにプロのウェブ・メンテナンス専門家を雇うことも考えられる。
  • プログラミング
    基本原則として、当大学のウェブサイトは「Apache-based UNIX system」を採用する。使用されるサーバー・サイドの言語はJava, PHPおよびPerlとなる。 コンテンツ・マネージメント・システム(CMS)は、「Apache Lenya」などのオープン・ソース・ソルーションをベースにするものになろう。したがって、各部局により使用されるアプリケーションは、これらのシステムや言語に適応できるのでなければならない。

【プログラミングの課題】

  • サーチ能力の向上
    より正確でシステマティックなサーチ・エンジンを導入し、すべてのコンテンツがサーチできるようにすべきである。
  • ビデオ・オーディオの利用
    研究成果、公開講義およびイベント等の案内に、ビデオおよびオーディオを広く利用すべきである。
  • オンライン登録 ・タイムテーブル ・試験の結果 ・オンライン購入
  • eラーニング
    ウェブ戦略は、現在および将来のeラーニング・システムが十分に発展できるような柔軟性を持つべきである。
  • Web 2.0技術
    最近のウェブ閲覧者は、より豊富な体験を期待していると共に、より共有できるウェブ、より参加できるウェブに興味を示しつつある。このため、情報のトラック、情報のフローのカスタム化またはダイナミックなコンテンツの再掲載等をより容易にできる「RSS技術」を利用すべきである。また、「Web2.0技術」はマーケティング手段として、メリットをもたらす可能性がある。これらのニーズに対応するために「Wikiソフトウェア」の導入を計画する。
  • 閲覧者の利便性
    すべてのトップ・レベルのウェブページおよび部局のウェブページは、すべてのブラウザーおよび携帯端末器機にて完全に閲覧できるようにすると共に、視聴覚障害者のためには合成音声や文字を大きく、はっきり表示できるような機能を備えなければならない。そのため2007年初めまでに、テーブル式ではなく「CSSスタイル」を使用したシステムに移行する。
  • 法的基準
    当大学のウェブサイトは、名誉毀損、不当表示、法廷侮辱罪、テロ対策法、秘守義務、健康と安全等の法律の遵守を含むすべての法的基準を満たさなければならない。
  • アーカイブ現在、当大学には不用になったウェブページの保存に関する指針がないため、早急に作成する必要がある。それには、削除されたウェブページにアクセスした閲覧者を新たなページに導くための指針も含むこととする。

1-4) コンサルテーション

 ユーザーとのコンサルテーションは、この新しいウェブ戦略の重要な一部である。マーケティング・コミュニケーション部門は、ウェブに直接的に関係する部門からの助言を得るだけでなく、多くの部局や学生ユニオンからも助言を受けるべきである。また、ウェブサイトはサーチ・エンジンに正確に登録され、将来の戦略見直しのために定期的に統計報告書を作成する必要がある。

【2. エセックス大学のウェブ・サポート・ユニット 】

2-1) 任務

  • トップ・レベルにあるエセックス大学ウェブサイトの維持と更なる発展
  • e-ラーニング技術の開発、支援および促進
  • 学内のウェブサイト制作者に対する訓練と支援
  • 学内のウェブ・プロジェクトに対する助言とコンサルタンシー
  • 学内のウェブ・デザイン開発
  • サーバー、ブラウザーおよびプロキシー管理

2-2) スタッフ

2-3) サポート内容

  • ウェブ製作者のためのコース
    FrontPageソフトウェアへのイントロダクション
    ウェブのためのグラフィックス
    アクセス可能なウェブ・デザイン
    ウェブの使いやすさ
  • 個人指導及びトラブルシューティング
    ウェブ・サポート・ユニットのメンバーは、同大学内のウェブページ制作者たちへの個人指導を含む支援を行う。
  • ウェブ製作者グループ
    ウェブ制作者グループは、エセックス大学内のウェブページ制作担当者間のコミュニケーションと連携を向上させるために発足した。お互いに、利用できるウェブサイトに関する情報を流し合い、また1年に2回の訓練コースに集まって情報交換をする。
  • ウェブ・プロジェクトおよびウェブ制作者への助言
    ウェブ・サポート・ユニットは学内のウェブ・プロジェクトに関する助言およびコンサルタンシーを提供する。また、ウェブ制作者へのオンライン・サポートも行う。

【3. 筆者コメント 】

 大学のウェブサイトは学部や学科の自治の問題もあるため、企業に比べて統一性を持たすことには困難も伴うと思われる。しかしながら、ウェブサイトの読者の立場に立ち、読みやすさやアクセスの改良のために部局間の様式の統一は必要であろう。そのためには、各部局のウェブ制作担当者間の意思疎通が重要となる。また、今後はウェブサイトを大学運営の中で重要な戦略の一つに置くための「ウェブ戦略」の構築が必要であろう。

 筆者は、毎日ロンドンからいくつかの日本の国立大学のウェブサイトを訪問しているが、まだまだ改良の余地が大きいと感じている。英国でも近年、英国の大学においてもウェブサイトのデザインの見直しが行われている。

 バース大学では、その新たなウェブサイト戦略を進めるにあたって、現状の欠陥をウェブにて率直に公表している。現在の欠点を学内のスタッフや学生、および社会に公表し、それに対して改善していくことを表明したものであり、その前向きでオープンな姿勢には感心させられる。また、同大学のウェブの欠陥の一つとして、「ウェブ上の情報はユーザーのニーズを優先するのではなく、大学の機構を反映するために系統立てられている。」としており、日本の大学の中にも当てはまるところがあると思われる。

 英国の大学のウェブサイトのなかで、シェフィールド大学のウェブサイトは評価が高い。たしかにデザインがすっきりして見やすく、現役の学生やスタッフの笑顔の写真が多く掲載されており、親しみを覚えるウェブサイトである。又、各学科の説明内容も様式が統一されていて、非常に見やすいデザインである。 また、改良途中であるバース大学のウェブサイトや、エセックス大学のウェブサイトも見やすいものとなっている。

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