レポート - 英国大学事情 -

2007年5月号「英国の大学の募金活動」

掲載日:2007年5月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

筆者は「英国大学事情2005年第10号」にて、ユニバーシティー・コレッジ・ロンドン(UCL)における募金活動の事例を紹介したことがあるが、今月号では、英国のチャリティー団体のSutton Trustが2006年12月に公表した調査報告書「University Fundraising-An Update*1」の概要を紹介する。

 

【1. 募金活動と卒業生からの寄付金 】

A) 最近の募金実績

英国の大学による募金活動への投資の増加に伴い、2004-05年度における英国の大学が集めた募金額は約4億5,000万ポンド(1,080億円*2)に上ると推定される。

B) 募金活動専門家の採用

各大学の募金活動の急速な拡大の結果、実績の有る募金活動専門家の不足が生じており、米国やカナダから専門家を採用せざるを得ない大学も出てきている。

大学のシニア・ポジションに募金活動の専門家が就いていないことも問題であろう。例えば、募金活動責任者が副学長(pro-vice-chancellor)クラスについているのは、オックスフォード大学とエディンバラ大学だけである。

C) 米国との比較

2004-05年度に、英国の大学が集めた募金額は4億5,000万ポンド(1,080億円)であるが、そのうち、オックスフォード大学とケンブリッジ大学だけで、合計1億8,500万ポンド(約444億円)を集めている。英国の大学の募金活動は活発化してきているが、その活動は上位校に集中しており、2004-05年度において、500万ポンド(約12億円)以上の募金を集めた大学は13校のみである。

2004-05年度に、米国の大学が集めた募金額は135億ポンド(約3兆2,400億円)であるが、そのうちハーバード大学だけで集めた募金額は3億1,000万ポンド(744億円)に上る。

D) 卒業生による寄付金

オックスフォード大学およびケンブリッジ大学の卒業生の約10%が、母校への寄付を行っている。3%以上と報告した英国の大学は9校のみであり、全大学の平均は約1%である。また、ほとんどの英国の大学は、卒業生に対する年度毎の寄付金の要請をしていないのが実情である。

米国の州立大学では平均15%の卒業生が母校に寄付をしており、30%近い州立大学もある。又、ほとんどの大学が毎年、卒業生へのコンタクトを行っている。最近の調査によると、プリンストン大学の卒業生の母校への寄付率は61%を達成し、イェール、ハーバード、スタンフォードの各大学は、それぞれ45%、44%、39%を達成している。

 

【2. 大学基金額の水準 】

米国の大学と比較すると、英国の大学は大学基金(endowment:基本財産)の金額においても、大きく見劣りがする。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学を合わせた大学基金額は約60億ポンド(1兆4,400億円)であり、それぞれ米国のトップ10大学ランキングの7位と8位の規模である。2005年度の米国のトップ10の大学基金総額は約540億ポンド(約12兆9,600億円)であるのに比べ、英国のそれは約69億ポンド(約1兆6,560億円)である。また、オックスフォード大学とケンブリッジ大学を除いた、英国の大学基金総額は19億ポンド(4,560億円)である。

A) 英米の大学基金額トップ10大学

【英国の大学】
(単位:100万ポンド)
    2005年 2002年
1 Cambridge 3,200 2,000*
2 Oxford 2,800 2,000*
3 Edinburgh 180 140
4 Manchester 120 78
5 Glasgow 120 91
6 Liverpool 110 79
7 KCL 103 83
8 UCL 90 73
9 Reading 81 n/a
10 Birmingham 68 55
- Surrey n/a 62
  合計 6,872 4,661
 
【米国の大学】
(単位:100万ポンド)
    2005年 2002年
1 Harvard 13,400 9,000
2 Yale 8,000 5,500
3 Stanford 6,400 4,000
4 Texas 6,100 4,500
5 Princeton 5,900 4,400
6 MIT 3,500 2,800
7 California 2,700 2,200
8 Columbia 2,700 2,200
9 Texas A&M 2,600 2,000
10 Michigan 2,600 n/a
- Emory n/a 2,400
  合計 53,900 39,000
* 2002年度のケンブリッジとオックスフォードの数字は推定金額

なお、英国の主導的な募金活動専門家は、英米の大学基金を比較する際には、米国における遺産基金(legacy fund)や生涯計画に沿った寄付(planned giving)等の慣習の違いを考慮に入れる必要があるとしている。又、文化的な相違も考慮する必要があろう。英国の大学への寄付者は、大学基金への寄付より、当面のアカデミック・プロジェクトやインフラ・プロジェクトへの貢献に、より大きな興味を示す傾向がある。

B) 英国の大学基金額トップ100校と米国のトップ500校の比較

ここで、ウォリック・マニュファクチャリング・グループ(WMG)の概要を説明しておきたい。

(単位:100万ポンド)
  2005年 2002年
英国トップ100 米国トップ500 英国トップ100 米国トップ500
合計 7,800 154,000 5,700 106,100
1大学の平均 78 309 57 212
トップの2大学を除いた平均 49 206 17 195
トップの2大学の占める比率 76% 14% 70% 13%

1981年には、ハーバード大学が10億ドル(1,200億円*3以上の大学基金を持つ米国唯一の大学であったが、25年後には10億ドル以上の大学基金を持つ大学は、多くの州立大学を含む56大学にまで拡大している。この間のインフレ率を考慮したとしても、高い成長率である。このことは、適切なリソース、支援および文化を持って対応すれば、何が達成できるかを如実に示すものであろう。

英国の大学の手本となるのは、約25年前には寄付金をほとんど集めることができなかった米国の州立大学であろう。現在では米国の州立大学は、大学による募金活動への投資と多くの州政府によるマッチング・ファンド制度の活用により、寄付金収入は全収入の中で大きな割合を占めるまでになっている。

C) 学生一人あたりの大学基金

米国の大学の規模が大きいために、大学基金額が大きいという誤解があるが、例えば、ハーバード大学の学生数はエディンバラ大学の学生数より少ないのが実情である。

【英国の大学】
(単位:1ポンド)
      学生一人当たりの大学基金額
学生数(2005年) 2005年 2002年
1 Cambridge 18,400 172,700 120,000
2 Oxford 18,400 150,000 119,000
3 Edinburgh 20,100 9,100 8,000
4 Glasgow 18,600 6,200 3,600
5 Manchester 32,500 3,800 5,200
 
【米国の大学】
(単位:1ポンド)
      学生一人当たりの大学基金額
学生数(2005年) 2005年 2002年
1 Princeton 7,100 830,700 684,200
2 Yale 11,500 696,800 499,000
3 Harvard 19,800 677,100 463,400
4 Stanford 14,500 443,000 301,300
5 Texas 185,000 33,000 26,700

D) 投資戦略

英国の大学基金額が米国に比べて低い水準にある原因の一つは、リスク回避の傾向の強い投資戦略にある。1994年から現在までの、米国の大学基金額の成長率は、英国の大学のそれの2倍以上である。これは、広範囲の投資対象のポートフォリオを組んでいることも一因となっていると思われる。一方、大部分の英国の大学はロー・リスク、ロー・リターンの保守的な投資手法から脱却できていない状況にある。

しかしながら、この傾向は変化し始めている。2006年の初め、オックスフフォード大学の3つのコレッジ(Balliol、St Catherine's, Christ Church)は、3つのコレッジの大学基金をまとめて運営するために、「Oxford Investment Partners」という投資運営グループを設立すると発表した。この投資運営グループは、投資ポートフォリオの一部をヘッジ・ファンド、未上場会社および商品(commodities)にも投資することを表明している。同年、ケンブリッジ大学も、株式市場に上場している世界最大のヘッジ・ファンド会社から投資の責任者を招聘した。より小さな大学基金を有する大学では、いくつかの大学が集まって、それぞれの大学基金をまとめて運用することも一案であろう。

 

【3. 次のステップ 】

A) マッチング・ファンド制度

英国の大学の募金活動を活発化させるために、英国政府が導入した750万ポンド(18億円)の予算のマッチング・ファンド制度は、歓迎される第一歩ではあった。しかしながら、額が少なすぎるため、大きなインパクトとはなっていない。英国政府は、大学への私的な寄付金に対する同額のマッチング・ファンド制度を導入すべきであろう。

サットン・トラストの委託を受け、Council for Advancement and Support for Educationが行った最近の調査によると、マッチング・ファンド制度は2002年には米国の24州にて採用されており、同様の制度がカナダ、香港、シンガポールにても採用され、大学への寄付金の増加に貢献している。

2000年から2003年の間に、米国のマッチング・ファンド制度による大学への寄付金は3億6,300万ドル(約436億円)に上った。そのうち、2億7,600万ドル(約330億円)が私的寄付金であり、公的支出に対して4倍以上の私的寄付金を集めたことになる。

しかしながら、この制度を英国にて拡大する際には、オックスフォード大学やケンブリッジ大学に多くの予算が飲み込まれないような注意が必要であろう。そのために、政府によるマッチング・ファンドは、一大学あたり100万ポンド(2億4,000万円)から500万ポンド(12億円)に制限することを提案する。

B) 優遇税制

現行の英国の寄付助成(Gift Aid)制度は、所得税の免除は寄付者と寄付を受ける大学間で折半されることになっていて、高額所得者にとっては複雑な制度である。米国では寄付金を総収入から差し引くという単純な制度を採用しており、寄付者は税控除を全額受けることができる。このほかに米国では、寄付者が生存中に定期的な収入と所得税控除を保障されながら、不動産や株をチャリティー団体に寄贈できる「Planned Giving」という制度もある。現在のところ、英国政府は米国型の寄付金への優遇税制の導入に前向きではないが、大学への私的寄付金の増額のためにはこのような措置も必要であろう。

 

【4. 筆者コメント 】

サットン・トラストのレポートは、米国のアイビーリーグを中心とした、いくつかの大学基金はあまりにも巨額すぎ、大学基金の巨額化を目指すより、現在必要とする投資に振り向けるべきである、との英国の大学の何人かの学長のコメントも紹介している。これも一理ある発言と思われるが、日本の特に旧国立大学では法人化したばかりであり、今後の長期にわたる大学の繁栄への将来の投資を考える場合、大学基金の充実は不可欠であろう。

今後、大学への寄付金に対する優遇税制の積極的導入が必要となろう。そのほかに、卒業生の寄付金の増加を図るには、同窓会組織の強化も今後の課題となる。それには学生または卒業生が、母校に学んで良かった、と思われる大学にする必要がある。そのためには、各大学が今まで社会に対して、どのような実績を上げてきたのかを学生や卒業生に示し、自校に対するプライドを養うことも必要となろう。

 

用語説明

  • *1 「The Sutton Trust」 1997年にSir Peter Lamplが設立した、教育関係の非営利団体
  • *2 当レポートにおいては、1ポンドをすべて240円にて換算した。
  • *3 当レポートでは、1ドルを120円にて換算した。
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