レポート - 英国大学事情 -

2007年4月号「英国の大学と香港・インドとの連携事例」

掲載日:2007年4月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

【1. はじめに 】

筆者は「英国大学事情2006年第2号」において、「英国の大学の海外進出」と題して、以下の大学についてレポートした。

  • ノッティンガム大学
    「中国・寧波キャンパス」「マレーシア・クアラルンプール・キャンパス」
  • ミドルセックス大学
    「アラブ首長国連邦ドバイ・キャンパス」「海外オフィス」
  • クイーン・メアリー・コレッジ(ロンドン大学)
    「北京郵政通信大学とのダブル・ディグリー」「修士課程の遠隔教育プロジェクト」
  • ウォリック大学
    「シンガポール・キャンパス計画の中止」

今月号では追加レポートとして、ウォリック大学の「ウォリック・マニュファクチャリング・グループ」の中国との連携活動および英国・インド両政府の「英印教育・研究イニシアティブ」を紹介する。

 

【2. ウォリック大学と香港企業との連携 】

A) WMGとPVCHK間の協定

2007年1月、ウォリック大学のウォリック・マニュファクチャリング・グループ(WMG)と約6,000の香港企業が参加する香港専門技能認定カウンシル(Professional Validation Council of Hong Kong:PVCHK)は、工学部卒業生の教育訓練(Engineering Graduate Development)に関する協定を結んだ。この協定により、今後5年間にわたり、年間200名、合計1,000名の香港の工学部卒の学生が英国に留学し、WMGのマスター・コースにて教育訓練を受けることになった。

香港の産業界では、エンジニアリングおよび技術管理に従事する人材不足が深刻化している。現在、中国には2,000万人の従業員を雇用している8万社の香港企業が存在すると言われている。これらの産業の更なる成長を支えるには、年間10万人の新たなエンジニアおよび管理者が必要であると考えられる。しかしながら、香港の大学は、年間3,000-4,000名のフル・タイムの工学部の学生を教育訓練する受け入れ能力しかなく、産業界の需要を満たすには程遠い状況である。

企業における初任レベル・ポストへの工学部卒業生の深刻な不足が、WMGとPVCHKが工学部卒業生の教育訓練協定を結ぶに至った主な理由である。既に、10を越す香港企業が、80名の学生にWMGマスター・コース(MSc)参加のためのスカラーシップ(学生一人当たり2,000ポンド)を与えると表明しており、派遣学生数を今後5年間で合計1,000名に増やす計画である。

B)WMG(Warwick Manufacturing group)

ここで、ウォリック・マニュファクチャリング・グループ(WMG)の概要を説明しておきたい。

ウォリック大学は1965年に設立された新しい大学であるが、短期間の間に大躍進し、現在では常に英国の大学総合ランキングのトップ10に入っている。2006年度のThe Sunday Times紙の英国大学ガイドのランキングでは、2005年、2006年とも、ケンブリッジ、オックスフォード、LSE、インペリアル・コレッジ、UCLに次いで総合第6位にランクされている。

ウォリック大学は、産業界との緊密なリンクおよび研究成果の商業的価値を有効に活用して、大学経営にビジネス的アプローチを導入した、最初の英国の大学の一つと見られている。この研究成果の商業化を促進するために、サイエンス・パーク、ウォリック・ベンチャーおよびWMG等を設立している。

WMGは約25年前に設立され、広範囲な産業分野のための研究開発およびその応用に焦点を置き、製品やプロセスにおけるイノベーションの研究を行っている。WMGは企業とのパートナーシップ・アプローチを採用しており、研究、技術移転および訓練に関して、産業界と緊密な関係を持っている。

WMGは、スタートアップ企業を含む、多くのOEM企業や中小企業との共同活動もしている。又、香港、南アフリカ、インド、中国、マレーシアおよびタイに教育・研究センターを設立して、産業界との連携に関する国際的なモデルも構築している。

WMGは、ウォリック大学内に以下の5つのセンターを設置している。

  • インターナショナル・オートモーティブ・リサーチ・センター
  • シミュレーション・センター
  • ソフトウェア・アプリケーション・センター
  • インターナショナル・マニュファクチャリング・センター
  • プロセス・テクノロジーセンター

これらのセンターには、研究テーマの学際的性質を反映して、エンジニア、物理科学者、材料科学者、数学者、デザイナー、ITスペシャリスト、社会科学者、エコノミストおよび知識移転スペシャリスト等のチームがいる。特に強みを持つ技術としては、CAD、 CAM、 CIM、 PDM、 サプライ・チェーンを統合するIT・コミュニケーション技術、ラピッド・プロトタイピングと金型、ポリマー・プロセシング、ロボティック・オートメーションが上げられる。

また、これらの技術はロジスティック、製造戦略、サプライ・チェーン・マネージメント、ビジネス・プロセス・インプルーブメント等の運営面での研究と連結しており、多くの大学院生がそれに対する支援研究活動を行っている。

WMGは、英国の自動車産業の中心地に位置することもあって、特に自動車関連の研究開発に強みがあり、製造に関する国際的なCOEとしてのトラック・レコードを持っている。なお、製造業関連の研究開発助成金は、ウォリック大学における研究収入の約20%を占めている。

そのほか、WMGは企業向け専門技能教育訓練プログラムとして、パートタイムのMaster Degree、Postgraduate Diploma/Certificate/Award、Post Experience Diploma&Certificateのコースも提供している。

 

【3. 英国‐インド教育・研究イニシアティブ(UKIERI) 】

英国‐インド教育・研究イニシアティブ(UK‐India Education and Research Initiative : UKIERI)は、英国とインド間の教育リンクの向上を目指して、英国のブレア首相が2005年秋にインドを訪問した際に構想が発表され、2006年春に発足したイニシアティブである。当イニシアティブのテーマは、高等教育・研究、学校、専門的・技術的技能の3つである。

当イニシアティブのために、英国政府(教育技能省、外務省、貿易産業省およびブリティッシュ・カウンシル)が1,200万ポンド(約28億円*1)、および英国の大手多国籍企業4社が合計400万ポンド(約9億円)の助成を表明した。このほか、英国の科学技術庁(OST)とインド政府も、共同研究に対するマッチング・ファンドの助成をすることになった。

A) 高等教育および研究

英国政府および民間企業からの助成金の一番大きな部分が、「高等教育および研究」テーマに向けられる予定である。当テーマの主要活動は、両国の大学のCOE間の研究パートナーシップの促進およびジョイント・コースやジュアル・コースの開発にある。

【2011年までの目標】
* 両国のCOEをリンクする、5つの大規模プロジェクトを含む、50の新規共同研究を開始する。
* 2,000名のインド人学生の参加を目指し、英国の奨学金による、新たな40の授業プログラムを開始する。
* 300名の研究学生、ポスドク研究者および研究スタッフに、英国での研究活動を経験させる。
* 200名の英国の研究者および200名の英国の学部学生に、インドでの研究活動または勉学を経験させる。
* 2,000名のインドの研究学生に、英国における研究学位を取得させる。

B) 初等・中等・高等学校

当活動テーマの下に、英国とインドにおける学校クラスターに対して、共同カリキュラム・プロジェクトや継続専門教育が提供されることになり、英国による協力活動が、初めてインドの公立学校にまで及ぶことになった。

この活動を通して、英国の生徒が、インドが将来の経済活動において重要な役割を担うことを理解するようになると同時に、インドの多くの生徒が、英国を自然なパートナー(natural partner)とみなすようになることが期待されている。

【2011年までの目標】
* インドおよび英国における各300の学校間のリンクを構築し、また両国の各300名の教師の交換を実施する。
* 両国の学校クラスターによる、50の国際プロジェクトを立ち上げる。
* 合計で25万名の生徒がプロジェクトに参加し、間接的に更に25万名の生徒がメリット受けるようにする。

C) 専門的・技術的技能

当テーマの主な活動は、共同活動、交換交流および職場実習を推進させるために、英国とインドにおける継続教育COE間のパートナーシップを促進することにある。特に、以下の2分野が重要分野とされた。

  • 金融分野
    銀行、保険、証券、保険数理
  • クリエーティブ産業分野
    ファッション、繊維、映画・テレビ、アニメーション
【2011年までの目標】
* 金融サービスおよびクリエーティブ産業分野において、6つの新規パートナーシップを構築する。各パートナーシップに英国、インドそれぞれ最大3機関のパートナーを参加させる。
* 100名の学部のスタッフ・メンバーが、スタッフの交換交流、セミナーおよび研究活動に参加できるようにする。
* 500名の学生が新規コース、学生交換および職場実習を受けることができるようにする。

 

 

【4. 筆者コメント 】

A) ウォリック大学の概要

ウォリック大学は1965年に設立された新しい大学であるが、2006年度のThe Sunday Times紙の英国大学ランキングでは、2005年度および2006年度とも英国の大学ランキング総合第6位に入っている。筆者は過去2回、同大学を訪問したことがあるが、活気に満ちたユニークな大学との印象を受けた。以下に、同大学に関する追加情報を紹介したい。

学生数 16,175名 (2006年12月現在)
学部学生 11,370名  
大学院生 4,805名  
留学生 4,198名 (学部学生、大学院生を含む)


スタッフ数 4,871名 (2006年12月現在)
アカデミックス 1,128名  
リサーチャー 707名  
アドミスタッフ 3,036名  


総収入 2億8,359万ポンド(約650億円) (2004-05年度)
高等教育助成会議グラント(教育) 15%
同上        (研究)

9%

研究グラントおよび契約 14%
授業料

27%

その他の助成 2%
その他の運営収入 33%

 

(「その他の運営収入」の中には、短期コース、企業との研究契約、マネージメント・トレーニング・センター、大学が休暇中のコンファレンス、販売、ケータリング等の活動からの収入を含む)

  • アーツ・センター
    1500席のコンサートホール、500席と200席の2つの劇場、220席の映画館、コンファレンス・ルーム、レストラン等を完備し、一般市民が頻繁に利用している。当センターにて開催される年間1,600以上のイベントには、年間約225,000名の訪問者がある。
  • ホスピタリティー・サービス
    約5,100室の学生宿舎、5つのレストラン、7つのカフェ、4つのバーを完備した、英国の大学の中では最大の規模。年間収入2,300万ポンド(約53億円)
  • コンファレンス
    専用の施設にて、年間約3,100のイベントを開催し、約7万名の参加者がある。
  • サイエンス・パーク
    1984年に地域の自治体とのジョイント・ベンチャーとしてオープンした。現在では130のハイテク企業が入居しており、従業員数は1,860名になる。
  • ウォリック・ベンチャーズ
    ウォリック大学TLOである、ウォリック・ベンチャーズは大学発のスピンオフ企業を育成しており、現在19のスピンオフ企業が稼働中である。筆者が2年前にウォリック・ベンチャーズを訪問した際、同大学の担当者は、「ウォリック・ベンチャーズではスピンオフ企業の設立数を追うのではなく、設立後に長期にわたり存続できる可能性のあるスピンオフ企業の設立を目指しているために、設立したスピンオフ会社数は少ない。」とコメントした。なお、ウォリック・ベンチャーズは独立した株式会社ではなく、大学の一組織である。

筆者が、ウォリック大学に注目しているのは、上記に述べたような商業的活動を含む広範囲の活動のほかに、研究面でも素晴らしい評価を受けているということである。2001年に行われた最も新しい公的評価(RAE)では、同大学はケンブリッジ、LSE、オックスフォード、インペリアル・コレッジに次いで第5位にランクされている。

【リサーチTV】

ウォリック大学のイニシアティブにより、いくつかの英国の大学、研究会議および地域開発エージェンシーのコンソーシアムが、大学の研究成果を短いビデオニュースの形にて、世界の視聴者に発信するために2003年に設立した「リサーチTV 」は、ユニークな試みである。

リサーチTVでは、主に大学の研究成果を短いビデオニュースに制作したものを多くの放送局に送り、放送局の番組内で自由に使用してもらうことによって、研究成果を世界に発信することを目的としている。今までに、世界の約220の放送局がリサーチTV*2のビデオニュースを使用している。この活動によって、英国の大学を初めとする30の研究機関が、世界の約1億3,500万人の人々に研究成果を発信することができるようになった。

現在では、リサーチTVによるサービスは、ニュー・メディアへの対応にも力を入れており、リサーチTVのウェブサイトにても、これらの研究成果のビデオニュースに無料でアクセスできるようになっている。また、YouTubeなどのオンライン・ビデオサイトにもアップロードされている。なお、発信されている大学の研究成果は、自然科学系に限らず、もちろん人文・社会科学の研究成果も発信されている。

当サービスを利用するコンソーシアムは、現在ではウォリック大学を中心として、ブリストル、ダーラム、バーミンガム、キングス・コレッジ・ロンドン、ノッティンガム大学等の約20の大学や研究会議等の機関を合わせて、合計約30機関に拡大している。このように、英国の大学は研究成果の発信を英国内のみならず、海外に向けて、TVやニュー・メディアを利用して発信しているのは注目に値しよう。

B) 英国‐インド教育・研究イニシアティブ

当イニシアティブに教育技能省、貿易産業省のほかに、外務省およびブリティッシュ・カウンシルが助成を表明した背景には、英国‐インド間の教育に関する連携活動を通じて、将来の経済大国になることが予想されているインドとの経済的・外交的関係強化を目指したものであろう。

主要活動は、両国の大学のCOE間の研究パートナーシップの促進およびジョイント・コースやジュアル・コースの開発にあるが、英国の主に初等・中等学校の生徒に、インドが将来の経済活動に重要な役割を担うことを理解させ、またインドの生徒が、英国を自然なパートナーとみなすようになることも期待されている。両国の低学年の生徒に相互の重要性を理解させるという、長期的観点に立った戦略の一環と思われる。

 

用語説明

  • *1 当レポートにおいては、1ポンドをすべて230円にて換算した。
  • *2 http://www.research-tv.com/
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