レポート - 英国大学事情 -

2007年2月号「高等教育機関における調達制度 - 変革のとき(Procurement in higher education - a time for change)」

掲載日:2007年2月1日

英国在住30年以上のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。(毎月初めに更新)

 

2006年8月、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は、標記の報告書を公表した。この報告書は大学やコレッジの代表者とも協議の上、高等教育分野の調達関連団体である「Proc-HE*1」によって作成されたものである。

筆者は過去2回、「英国大学事情」のなかで、英国の大学が地域ごとに調達コンソーシアムを自発的に結成し、物品のみならず、サービス関連についても共同調達を行い、コスト削減および効率化に努力している実態を紹介したことがある。今回の報告書は、助成機関であるHEFCEからの更なる効率化の要請であり、調達の効率化によって節約できた資金を、大学の本来の使命である教育および研究に振り向けることの奨励である。このHEFCE報告書には、大学における調達の効率化に関する興味深い事例も多く含まれており、その一部も紹介する。

 

【1. はじめに 】

高等教育における調達およびより広範囲の公的分野における調達制度はターニング・ポイントに来ている。中央政府は、公的資金のより一層の効率化を期待しており、その効率化の大きな部分を調達制度の進展に依存している。

イングランド地方の高等教育機関における、賃金以外の経常支出額は年間50億ポンド(1兆1,750億円*2)以上であり、設備投資のためには更に20億ポンド(4,000億円)が支出されている。高等教育機関は、この投資額の水準に見合う最大限の価値を追求することが要求されている。

過去約10年間において、調達に関する大きな進展があった。すなわち、調達担当スタッフのプロ意識と技能の向上、電子調達(e-procurement)のための情報システムの利用、契約形態の多様化等である。高等教育分野の調達機能の成熟度は、公的分野におけるリーダーとしての地位を維持している。

高等教育助成会議は調達制度の効率化を目指して、これまで「合同調達政策・戦略グループ:Joint Policy and Strategic Group」および「Proc-HE」への助成を行ってきた。これらのイニシアティブの目的は完全には達成されていないが、グッド・プラクティスの多くの事例も多く見られ、高等教育機関はこれらを更に発展させるべきである。

特に、以下の基本的原則に対する共通の支援が必要である。

  • 尊重(esteem)
    調達は、大学の目的達成のために貢献する価値を生み出しているという認識
  • リーダーシップ
    70億ポンド(1兆6,450億円)の調達力を利用できる、高等教育分野全体にわたる効果的な調達のリーダーシップの確立
  • リソース
    可能な利益を確保するために、調達に対して十分なリソースを提供し、また調達に関わる人材がこれらの利益を確保できる能力を持つこと

 

【2.調達に関するリーダーシップと戦略的役割 】

効率的調達が、高等教育機関の戦略計画の実行に貢献するように、理事会およびシニア・マネージメント・チームのリーダーシップが要求される。このことは、調達が高等教育機関のすべての事業プロセスに統合されるべき、重要なプロセスと認識することを意味する。

<ダーラム大学>

ダーラム大学では、調達のグッド・プラクティスが費用効果を高めるために重要であることを認識し、それを大学の戦略的改善プログラムの中に組み入れた。調達活動はプロセスの標準化に基づいて再編成され、同大学の建物運営部門では、取引業者からの請求書枚数の38%削減、取引業者数の18%削減を達成することができた。

 

【3. 意思決定プロセスにおける調達 】

調達に関する意思決定は、多くのプロジェクトにとって重要である。しかしながら、プロジェクト・マネージメントの原則は適用されても、調達サイドからのインプットが必要であると見られていない場合が多い。調達責任者は決定された事を白紙撤回せざるをえない場合もある。これは、法律の遵守、無視されていた既存の契約等が原因である。これらを防ぐための一つの方法は、高等教育機関が最初から標準的慣行として、プロジェクト・チームのなかに調達機能を入れておくことである。

 

【4. 人材と技能の開発 】

調達部門の組織、役割および責任は、高等教育機関の間で大きく異なる。条件の良い取引に関する全国的な調達情報を交換するために、高等教育機関、部門および異なる調達関連ワーキング・グループの間のコミュニケーションと協調の改善が必要である。また高等教育機関が、拡大する要求に対処できる訓練されたスタッフを確保するためには、調達技能訓練への投資も必要である。

<北西地域・大学共同購入コンソーシアム>

北西地域・大学共同購入コンソーシアムでは、高等教育分野のスタッフに対して、国家職業資格(National Vocational Qualification:NVQ)訓練、訓練用CDおよび調達関連訓練コースの提供をしており、2003年から、すでに300名以上が訓練を受けている。受講生の多くは大学の調達部門からであるが、その他の部門からも参加している。

 

【5. 調達システムのスリム化 】

過去10年間の情報システムおよび技術の進歩は、ペーパーレスによる発注および請求プロセスを可能にした。それに加え、入札や契約も完全自動で行うことも可能になった。選別された複数の供給業者との間の管理された契約内において、スタッフが競合する物品を選択できる、商品発注のための電子的市場の構築も可能であろう。

最近の調査によると、購入から支払いまでのサイクルにおいて、請求書1枚あたりの処理費用は約50ポンド(11,750円)かかっている。これらの費用を50%削減することにより、大学の中核となる活動、すなわち教育および研究等への資金配分に大きな影響を与えることになるであろう。英国政府調達庁(Office of Government Commerce)の報告によれば、28ポンド(約6,580円)が、「調達カード」の利用による効率化を測定する際の目安としている。このように、調達情報システムを通じた効率化の向上の概念は、現在では広く受け入れられている。

<ロンドン大学キングス・コレッジ>

キングス・コレッジでは、賃金を除く年間経常支出が1億2,000万ポンド(282億円)であり、年間13万件の取引を処理している。2001年、同コレッジは「科学倉庫:Science Warehouse」という電子的調達市場システムを構築し、現在では各学科にも展開されている。500名以上のスタッフが当システムに登録しており、年間15,000件の発注がなされている。

このシステムは、同コレッジの会計に関するメイン・コンピューター・システムおよび学科のコンピューター・システムとインターフェースしているため、発注、物品の受領および請求書への支払いに関する、すべての書類を省略することができる。

<エディンバラ大学>

エディンバラ大学では、賃金以外の1億5,000万ポンド(353億円)以上に上る、年間経常支出の管理を改善するために、調達プロセスの変更を行った。その一例は、「Quest」という、広範囲の供給業者から研究用消耗品を購入するためのウェブ・ベースの発注システムであり、現在800名以上の利用者が登録している。2005-06年度において、当システムを通じて8,000件、100万ポンド(2億3,500万円)以上の発注があった。

 

【6. 供給業者との関係および契約の管理 】

供給業者との良好な関係を保つことは重要であるが、しばしば調達機能の重要な側面と見なされていないため、リソースの投入がほとんどなされていない。より戦略的なアプローチをすることによって、その利点を最大限に引き出すことができるであろう。同様に、契約が効率的に運営され、供給業者サイドまたは高等教育機関サイドから生じるいかなる問題も迅速に解決されるように、契約の管理も重要である。

<エネルギー・コンソーシアム>

The Energy Consortium(TEC)は、高等教育機関向けのエネルギーを調達するために、調達専門家および技術スタッフを雇用している非営利組織である。TECは活発な価格のベンチマーキングと消費量のデータ収集によって、高等教育分野のために、最も競争力のある価格を交渉することが可能である。

TECは高等教育機関のために、年間総額2億5,000万ポンド(588億円)のガス、電気、水道の契約を交渉しており、これらの契約による節約金額は、2005-06年度において総額950万ポンド(約22億円)と推定される。

 

【7. パフォーマンスの測定 】

高等教育分野全体の調達額に関する管理情報は、一貫性に欠けており、分析が困難である。そのため、「Pro-HE」では効率性測定モデル(Efficiency Measurement Model:EMM)を開発した。このモデルは、新しい契約の効率性のパフォーマンスを記録するために調達担当者によって利用され始めているが、調達担当者によって影響されない多くの支出もあるため、シニア・マネージメントからの強い推進力がなくしては、広範囲には利用されない可能性もある。

<効率性測定モデル>

効率性測定モデル(EMM)は、調達のグッド・プラクティスにより達成される費用の効率性を記録・報告するために設計された。記録される効率性は、費用の削減、付加価値、ビジネス・プロセスの再構築、リスクの軽減、持続性の5分野に分かれている。

<リーズ大学>

2002年、リーズ大学は「購入カード」の導入を開始した。現在では、この「購入カード」は出張、会議、インターネットでの買い物等に広く利用されている。カードの所持者は、個人の取引限度枠および特定の不適切な購入の阻止等によって管理されている。

現在では180名が「購入カード」を利用しており、年間約12,000件、総額180万ポンド(約4億円)の取引額がある。「政府調達カード:The Government Procurement Card」制度は、調達カードを利用することにより、一取引あたり28ポンド(6,580円)の節約ができるとしている。この政府の計算式を当てはめると、リーズ大学は購入カードを導入したことにより、2004-05年度には26万6,000ポンド(約6,300万円)を節約したことになる。

 

【8. 共同活動 】

高等教育分野には、長年にわたり成功を収めた、いくつかの共同調達組織が存在する。これらの中で主要な組織は、ほとんどの高等教育機関が参加している、6つの地域の「大学共同購入コンソーシアム」である。これらのコンソーシアムの利点は、重複する努力を削減するための人材と技能の活用、購買力と交渉力の向上、経験と知識の定期的な交換、グッド・プラクティスの普及等があげられる。

<研究機器アフィニティー・グループ>

「研究機器アフィニティー・グループ:The Research Equipment Affinity Group」のメンバーは、高度に技術的な、または特別注文による高価な研究機器の調達改善に関心を持つ、研究所や研究会議等の調達担当者である。当グループによる最大のインパクトは、設備投資助成プログラムに対する共同調達の際に、大いに発揮されている。

<オックスフォード大学>

オックスフォード大学は12の高等教育機関を代表して、DNAシーケンサーの調達活動を行った。同大学のプロジェクト・チームは、2社を最終候補に選んだ。A社の価格は1台当たり127,500ポンド(約3,000万円)であり、B社の価格は199,500ポンド(約4,700万円)であった。その結果、12の高等教育機関の内、11機関はA社に交渉優先権を与えた。

しかしながら、オックスフォード大学の調達チームの評価によると、A社のDNAシーケンサーの通常5年間の製品寿命の総費用は2,342,184ポンド(1回のテストあたり164ポンド)であるのに対し、B社のそれは1,643,488ポンド(1回のテストあたり115ポンド)であった。このオックスフォード大学調達チームの評価により、12機関の内5機関がB社に交渉優先権を変更することになった。

<大学共同購入コンソーシアムの活動事例>

高等教育機関の年間購入報告書の分析により、テンポラリー・エージェンシーからの派遣スタッフの費用が高いことが判明し、地域の大学共同購入コンソーシアムを通じた、包括契約による効率性の改善が検討された「南部地域大学共同購入コンソーシアム」が「ロンドン地域大学共同購入コンソーシアム」と共に、派遣スタッフの包括契約を行うことになった。なお、両コンソーシアムをあわせた年間購入額は総額6,000万ポンド(141億円)に上る。

2005年に3社のテンポラリー・エージェンシーとの間で包括契約が結ばれ、エージェンシーのマージンおよび仲介料の引き下げと共にサービスの向上を達成できた。これにより、高等教育機関は関連費用を平均20-30%節約することができた。この包括契約締結により、他地域の大学共同購入コンソーシアムでも当方式の採用が急速に進み、全体では、この包括契約による節約額は年間1,500万ポンド(約35億円)に上ると推定される。

 

【9. 結論 】

調達専門職は、戦略的レベルにおいて、高等教育機関の運営に大きな貢献ができるところまで進化している。これを実行に移すためには、戦略的なリーダーシップが必要となる。

これまで、高等教育助成会議(HEFCE)は、高等教育分野における調達を支援するための助成を行ってきたが、調達を更に発展させるためには、従来とは異なるアプローチが必要であることは明白である。当報告書は、個々の高等教育機関が積極的に戦略的アプローチを採り、高等教育機関が調達への支援および管理に対する活発な役割を果たすことによってのみ、改善が可能であることを示している。

 

【10. 筆者コメント 】

英国政府は、公的分野の調達に関して、まだまだ効率化できる余地が大きいと見ており、中央省庁内をはじめとして公的機関における調達の効率化を積極的に推進している。IT技術の発達によるオンライン化、ペーペーレス化が現実のものとなりつつある。

また、英国政府はIT技術を利用した効率化と共に、共同調達や一括調達の促進にも力を入れている。英国政府は2006年10月より、英国の国民保健サービス(NHS)向けの一括共同購入および配送を、ドイツを本拠地とする大手物流会社のD社に全面的に委託した。これは10年間に渡る、総額220億ポンド(5兆1,700億円)の大型契約である。この契約により、英国の国民保健サービス(NHS)傘下の全病院にて使用される消耗品や高価なMRIスキャナーに至るまでのすべての購入物が、このD社により一括購入および配送がなされることになった。英国では、このように公的分野における調達の効率化が急速に進展している。

 

用語説明

  • *1 Proc-HE:高等教育分野における調達戦略を練る組織。http://www.proc-he.ac.uk/
  • *2 Carbon Trust:当レポートにては、1ポンドをすべて235円にて換算した。
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