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海をプラスチックごみで汚したつけが、私たちに返ってきた

掲載日:2018年7月26日

海のプラスチックごみに対する関心が、急速に高まっている。私たちの生活を支えている便利なプラスチックがごみとなって海を汚し、生態系に脅威を与えているのだ。とくに近年、大きさが5ミリメートル以下に砕けた小さな「マイクロプラスチック」の研究が進み、いったん海に出て貝などにとりこまれたこの小さなプラスチックごみを、私たちが海産物とともに食べてしまっている可能性もきわめて高くなっている。世界はいま、プラスチックの使用を減らす努力を進めていく流れにある。

写真 沖縄県石垣島の海岸。色のついた小さなプラスチックごみが見える。(磯辺さん提供)
写真 沖縄県石垣島の海岸。色のついた小さなプラスチックごみが見える。(磯辺さん提供)

プラスチックごみは、すでに食物連鎖に入り込んでしまった

今年の6月、英ハル大学などの研究者グループが、スーパーマーケットで食用に売られているムール貝に小さなプラスチックごみが含まれているという論文を発表した。英国内の八つのスーパーで販売されているムール貝を集めて調べたところ、生のムール貝には1個あたり4~6個くらい、半加工品のムール貝には1個あたり3~4個くらいのマイクロプラスチックが含まれていた。そのほとんどは大きさが1ミリメートル以下の小さなもので、半分以上が繊維状のプラスチックだった。これが食卓に並ぶ。

私たちがプラスチックごみを食べているかもしれないことは、じつは目新しい発見ではない。東京農工大学の高田秀重(たかだ ひでしげ)教授らのグループが、東京湾で2015年8月にとった64匹のカタクチイワシを調べたところ、約8割にあたる49匹の消化管からマイクロプラスチックがみつかった。沿岸域に多く生息するカタクチイワシは、めざしやしらす干し、煮干しとして食卓でもおなじみだ。含まれていたマイクロプラスチックは1匹あたり最大で15個、平均すると2.3個だった。合計150個のマイクロプラスチックで多かったのは、その86%にあたる129個の砕けた小片だったが、7%の11個は「マイクロビーズ」だった。高田さんらが市販の洗顔料を調べたところ、このマイクロビーズによく似た微小プラスチックが含まれていたという。

陸で生産、使用されたプラスチックがごみとなって海を汚し、それがマイクロプラスチックとして食材に混じって私たちの体内にも戻ってくる。すでにプラスチックごみは地球の生物の食物連鎖に入り込み、その中で果てしない循環を始めている可能性が高い。

増え続けるプラスチック

プラスチックは、おもに石油を原料として作られる人工的な樹脂状の物質を指して広く使われる言葉だ。冷蔵庫で使う食品の保存容器やスーパーのレジにある「レジ袋」、自動車の内装や電気製品の本体や部品、衣服の合成繊維、飲料を入れるペットボトル、医療用の薬剤容器などとして、大量に使われている。用途に応じてさまざまな種類があり、成型もしやすい。そして耐久性も高い。この耐久性の高さが、いったんごみとして自然界に出てしまうと、いつまでも環境を汚し続ける原因になる。

プラスチックの大量生産は、1950年代に始まった。国ごとに統計の取り方が違うことや、生産から廃棄までの寿命がはっきりしないことなどが原因でプラスチックの総量についての確定的な数値はないが、米国のカリフォルニア大学、ジョージア大学などのグループが発表した2017年の論文によると、1950年から2015年までに生産されたプラスチックは83億トン。49億トンがごみとして埋め立てられたり、海などの自然界に出ていったりしたという。

使い終わったプラスチックは、焼却されたり埋められたり、リサイクルされたりしているが、きちんと処理されなかったプラスチックごみは、川などを経由して海に出る。米国のジョージア大学、カリフォルニア大学などの研究グループの見積もりによると、2010年に海に面した世界の192か国で生産されたプラスチックは2億7500万トンで、480万~1270万トンが海にごみとして流れ込んだ。海のプラスチックごみを多く出した上位5か国は、多い順に中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ。アジア地域が主要な汚染源になっていることをうかがわせる結果だった。

マイクロプラスチックは世界の海のいたるところに

最近になって注目を集めているのは、大きさが5ミリメートル以下になった「マイクロプラスチック」だ。プラスチックは紫外線をあびると、もろくなって崩れやすくなる。とくに海岸に流れ着いたプラスチックごみは、太陽からの紫外線や熱に波の力、砂との摩擦も加わって、細かくなりやすい。このほか、洗顔料などに含まれていた小さなプラスチック「マイクロビーズ」も、下水処理の目をくぐりぬけて海に達しているとみられている。

マイクロプラスチックは、小魚などのえさになる動物プランクトンと似たサイズだ。マイクロプラスチックを食べた小魚を大きな魚が食べ、それをアザラシなどの大きな動物が食べ……。マイクロプラスチックは、容易に食物連鎖に入り込む。

プラスチックごみはほとんどが陸で生まれて海に入るのだが、マイクロプラスチックはすでに、陸に近い沿岸域だけでなく、世界の海に広がっている。九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦(いそべ あつひこ)教授らの研究グループは、2016年に南極海でマイクロプラスチックの調査を行った。その結果、南極海でも1平方キロメートルあたり10万個のマイクロプラスチックが海中をただよっていると推定された。磯辺さんらが日本近海で行った調査によると、1平方キロメートルあたり172万個だったので、それに比べればはるかに少ないが、北半球に比べて陸地も人口も少ない南半球の、しかも南極海でこれだけの量が見つかったということは、すでに世界中の海にマイクロプラスチックが広がっている可能性を示している。

図 マイクロプラスチックが海で運ばれる様子のシミュレーション。計算開始からほぼ3年たった状態。赤い部分がとくに高密度で集まった海域。(磯辺さん提供)
図 マイクロプラスチックが海で運ばれる様子のシミュレーション。計算開始からほぼ3年たった状態。赤い部分がとくに高密度で集まった海域。(磯辺さん提供)

世界の海にマイクロプラスチックはどのように分布しているのか。海流に乗って「吹き溜まり」のように集まってしまう海域があるのか。それを知るために広い海の全域で詳細な調査を行うことは、実際には不可能だ。このような場合に有効なのが、コンピューターによるシミュレーションだ。磯辺さんらは、実際に観測された海流や風の起こす波によってマイクロプラスチックが運ばれる様子を計算した。2000年の初めに太平洋にマイクロプラスチックが広く一様に分布していたと仮定して計算したところ、3年ほどで北太平洋、南太平洋の中緯度に集まってきた。東西にベルト状に広がるマイクロプラスチックの「ごみベルト」だ。北太平洋の中央に位置するハワイの北東側には、海流の関係で漂流ごみが集まりやすい海域があると、従来から指摘されていた。海流に風の波を加えた磯辺さんの新たな計算でも、それが裏付けられた形だ。

海のプラスチックごみ問題は地球温暖化に似ている

プラスチックごみに対する関心の高まりを受け、世界的なコーヒーチェーンのスターバックスは今月、2020年までにプラスチック製ストローの提供をやめると発表した。それに先立つ6月にカナダで開かれた先進7か国の首脳会議では、各国が「海洋プラスチック憲章」に署名した。プラスチックごみの削減に向けて共に努力するための数値目標を掲げたものだ。日本は海洋基本法にもとづく海洋基本計画でプラスチックごみ対策を示してはいるが、この憲章に署名しなかった。こうした政府の消極的な動きに対して、「国内外のNGOから失望の声があがっている」「今さら調整のための時間が必要だなどといっても説得力を欠く」(6月20日付朝日新聞社説)、「政府の動きは鈍く、危機感が感じられない」(7月17日付毎日新聞「論プラス」)といった批判の声が聞こえる。

磯辺さんは、「プラスチックごみの問題は、地球温暖化問題とよく似ている」と指摘する。温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らそうとしても、その原因となる石油や石炭の使用をいきなり大幅に減らすことは、現実には難しい。同様に、現代の生活に深く入り込んでしまったプラスチックも、世界が協調して削減への努力を少しずつしていくことが必要だ。海がプラスチックごみで汚れていることは、まぎれもない事実だ。世界は、その対策を次々と打ち出している。海洋基本法で「海洋立国を実現する」とうたう日本が、その流れに乗り遅れるわけにはいかない。

(サイエンスポータル編集部 保坂直紀)

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