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大震災に対応できる都市を目指す具体的対策は喫緊の課題-日本学術会議が「防災の日」前に提言公表し、シンポを開催

掲載日:2017年9月26日

9月1日の防災の日を前に日本学術会議が「大震災の起きない都市を目指して」と題する提言をまとめた。この提言が公表されたことを受けて8月28日には大震災に対する都市防災や減災のための対策が喫緊の重要課題であることを確かめたシンポジウムが開かれた。

今できる対策を速やかに

東日本大震災から約6年半が、熊本地震からは1年半近くが経過したが、被災地の復興は「道半ば」だ。「天災は忘れた頃にやってくる」。この言葉は故寺田寅彦博士による警句と伝えられている。多くの人は東北で起きた大震災と九州で起きた大地震を決して忘れていない。だが、日々の生活の中で大きな地震が大都市や地方都市で明日、いや今日起きても不思議ではないことは忘れがちだ。8月のシンポジウムでは、防災、減災に関わる多くの研究者が専門分野を超えて危機感を共有した。11項目にわたる提言は多くの貴重な指摘や問題提起、提案を盛り込んでいる。政府、行政、企業、学術の関係者、そして多くの一般市民がそれぞれ「できる対策」を速やかに実施し、「できること」を 行動に移すことが求められている。

提言は日本学術会議・土木工学・建築学委員会の「大地震に対する大都市の防災・減災分科会」(委員長・和田章・東京工業大学名誉教授)がまとめた。同委員会は東日本大震災の約2カ月後に30の学会に呼びかけて「防災に関わる学協会連絡会」を発足させた。そして学会として大震災対応でできることをすぐに行動に移している。この組織が母体となり2016年1月には自然災害全般を対象に防災に関わる55の学会がネットワークを組む「防災学術連携体」が発足した。平時からさまざまな分野の研究者が連携を図り緊急事態時に緊密な連携が取れるよう備えるのが目的で、防災・減災に関係する幅広い活動を続けている。8月のシンポジウムは、同連携体のメンバーも兼ね、提言の各項目をまとめた担当研究者が登壇した。

図1 8月28日に開かれたシンポジウムの案内(提供:日本学術会議・土木工学・建築学委員会の「大地震に対する大都市の防災・減災分科会」)
図1 8月28日に開かれたシンポジウムの案内(提供:日本学術会議・土木工学・建築学委員会の「大地震に対する大都市の防災・減災分科会」)

シンポジウムの開会に当たり防災学術連携体の主要メンバーでもある慶応義塾大学先導研究センターの米田雅子特任教授があいさつした。米田氏は「提言11」の「専門を超える視野を持って行動する努力」に触れながら「南海トラフ巨大地震や首都直下型地震の発生が危惧されるほか、気候変動により、記録的な豪雨や土砂災害の危険性も高まっている。地震との複合災害も心配されている」と指摘。その上で「防災、減災の推進には、地震、津波、火山、地球観測、地盤、土木、建築、医療、都市計画、行政、心理など多くの分野が関係する。一方、学術の世界は専門分化が進み、全体を統合する力は弱くなっている。防災、減災対策は専門分野の枠を越えて、理工系だけでなく人文社会経済や医療の分野も含めて総合的に取り組む必要がある。また研究者、行政や市民との連携も求められている」と強調している。

写真1 シンポジウムで開会のあいさつをする米田雅子氏
写真1 シンポジウムで開会のあいさつをする米田雅子氏

防災・防火対策の遅れに強い危機感

シンポジウムはこの後もそれぞれの提言項目に沿って担当研究者が内容のポイントなどを解説した。

まず提言全体をまとめた分科会委員長の和田氏が登壇し、「提言1」の「最新の科学的知見にもとづき、想像力を広げた熟考」を中心に11項目の提言について包括的に解説しながら説明した。

和田氏はまず「都市も建築も土木構造物も発電所も人間がつくるものについてはすべて、社会の仕組みと自然の持つ強さとの関係をよく考えないといけない。一番衝撃的だったのは福島第1原発の問題だ。事故と言われるが私は人間が起こした“爆発”だと思っている。津波と原発それぞれの研究者がフランクに議論していたか、というとやはり隙間があった。自然はぬかりがないので(防災などに関して)人間がやり残したところがあると災害をもたらす」と指摘した。

また「関東大震災から94年。当時ほとんどの犠牲者は火災で亡くなっている。ロンドンは大火を経験してその後『燃えない町』にした。日本は地震や空襲で何度も(多くの家が)燃えている。日本は木造の家をつくらざるを得ない事情もあったが、(その後の経過をみると)日本は(大震災などに対して)反省のない国だと言わざるを得ない」と述べ、木造家屋が多く、防災・防火対策が十分に進んでいない現状に強い危機感を表明した。

さらに南海トラフ巨大地震では最悪死者32万人と想定されている数字などを紹介しながら「せめて大都市に集まりすぎている人を地方に分散すべきだ。また、集中しているところ(の都市の建物)をより丈夫につくるべきではないか。少なくとも燃えやすい建物を直したり、耐震性を考えたりする必要がある」などと強調している。

写真2 和田章氏
写真2 和田章氏

和田氏は最後に「逃げ出す町でなく逃げ込める施設や建物がある町にすることが大事だ。情報通信技術の強靭(きょうじん)化も重要で、大地震が起きても家族と通話ができる回線があるかどうかで(混乱程度は)だいぶ違う。災害がまったく起きない町や社会はつくれないから普段から準備できることは準備することが重要だ」「世界中を見ていれば、中国、ハイチ、スマトラと毎年大災害が起きている。スマトラでは大津波が2004年にあった。(東日本大震災前に)日本でも大震災が起きるかもしれないともっと議論すればよかった。(特定の国、地域では)大災害はまれにしか起きない。互いの国の災害や対策を見習って世界で議論すること大切だ。専門を超えて努力することが必要だ」と結んだ。

図1 大都市が抱える防災上の問題点(上)と必要な対応策・政策(下)(上下とも和田章氏提供)

図1 大都市が抱える防災上の問題点(上)と必要な対応策・政策(下)(上下とも和田章氏提供)
図1 大都市が抱える防災上の問題点(上)と必要な対応策・政策(下)(上下とも和田章氏提供)

「高耐震性のコストは甚大被害考えれば安い」

「提言2」「居住、活動のための適地の選択」は浅岡顕・名古屋大学名誉教授が説明した。ここでは「自然災害に脆弱(ぜいじゃく)な地域に多くの人々が生活する状況がつくられている」とし、「土地所有者や居住者個人の選択の権利は侵せないとしても、災害の脆弱性を共通認識にして居住域や街単位で広域移転することによる抜本的な耐震化は、掛け声だけでなく、実現を目指す具体的な政策目標になってよい」と提言している。

「提言3」は「都市地震係数の採用」で、田村和夫・千葉工業大学工学部教授が説明した。提言は「首都直下型地震が起きると、揺れと火災により2万人を超える人々が亡くなり、帰宅困難者は800万人、61万棟の建物が倒壊・延焼し、被害総額はわが国の一般会計予算に匹敵する95兆円に上る」と甚大な被害規模を明示した。そして「人的被害・社会活動の停止・停滞を減じるためには、建物の高耐震化が極めて重要」と指摘。建物の設計時に、都市の規模に応じて通常設けられている『地震の強さ』より高いレベルの『都市地震係数』を設定して耐震性を高めることを提案した。田村氏は、「筋かい材使用を2倍にする」例を紹介し、建物高耐震化のための費用は建築費全体からみると割合は小さく(筋かい材2倍では1%)、また震災による損失の大きさを考えても高耐震化への支出をためらうべきではない、と繰り返しアドバイスしている。

写真3 田村和夫氏
写真3 田村和夫氏
図2 都市直下地震による人口・住宅数と被害の大きさ(提供・田村和夫氏)
図2 都市直下地震による人口・住宅数と被害の大きさ(提供・田村和夫氏)
図3 高耐震化のための費用と建築費の割合例(田村和夫氏提供)
図3 高耐震化のための費用と建築費の割合例(田村和夫氏提供)

行政、民間、国民一人一人が危機感持って行動を

「提言4」「土木建造物・建築物の耐震性確保策の推進」を説明したのは小野徹郎・名古屋工業大学名誉教授。提言は、近年着工された建築物の70%近くが、審査が簡略化され、構造計算書を必要としない「四号建築物」で、しかも木造が多いために耐震性が十分でないことを指摘し、現行の品質確保法を活用してより高い耐震性能の住宅建設促進を求めている。

福井秀夫・政策研究大学院大学教授は「提言5」「人口集中、機能集中の緩和」を説明した。ここでは、長期的な政策目標として過度の集中を避けた国土構造実現を目指し、これを推進していく意義を強調している。福井氏は提言とは別に、防災、減災の視点から建物固定資産税の廃止も含めた税制見直しや危険建物への重課税など税制面での防災・減災対策や、自然災害の個別リスクに対応できる新しい自治体の概念を提案している。

「提言6」は「留まれる社会、逃げ込めるまちの構築」。担当の沖村孝・神戸大学名誉教授は、建築物だけでなく、交通、通信、電気、ガス、上下水道などのインフラの強靭化が喫緊の課題であり、大震災、地震の記憶が薄れると忘れがちな生活備品備蓄の重要性も強調した。

「提言7」「情報通信技術の強靭化と有効な利活用」について山本佳世子・電気通信大学大学院准教授は、情報システムに支えられた現在の社会は大災害によりシステムが遮断されると大きな二次被害が発生する可能性を指摘。災害時にも利用可能な情報環境の整備が極めて重要である、とした。この中で基地局の増設やバッテリーの長時間化、移動基地局の緊急時の設置やソーシャルメディアの有効利用など多くの提案をしている。

「提言8」は「大地震後への準備と行動」。担当は南一誠・芝浦工業大学建築学部教授。提言では、一度震災が起きると一定程度の被害は避けられないことを前提に、被災者による自助、地域・住民団体による共助、国や自治体による公助により、避難と復旧を分業することなどを提案している。また、これらが災害時に機能するためには、子どもや高齢者、社会的弱者も対象とした防災教育の充実や平時から警察、消防、行政、民間企業、地域が防災、減災を念頭に連携していることの大切さも指摘している。

「提言9」「耐震構造の進展と適用」〔担当・高橋良和・京都大学大学院教授〕では、災害時のインフラや建築物は単に壊れなければいいという受動的な考え方から、機能を維持するための技術や技術開発に目を向ける能動的な考え方の導入を提案している。「提言10」は「国内外の震災から学ぶ、国際協力、知見や行動の共有」(担当・東畑郁生・東京大学名誉教授)で、国内外の震災被害や対応策を世界全体で共有する活動を推進することを訴えていた。

写真4 メキシコ中部で9月19日に起きた大きな地震で倒壊したメキシコシティの建物付近で活動する現地の救助隊員ら(提供・国連/PAHO/WHO)
写真4 メキシコ中部で9月19日に起きた大きな地震で倒壊したメキシコシティの建物付近で活動する現地の救助隊員ら(提供・国連/PAHO/WHO)

今年9月1日の防災の日も終わり、9月11日には東日本大震災から6年半を迎えた。日本国内では多くの人が大震災の恐ろしさを思い出した。だがその前後の7日と19日にはメキシコで大きな地震が相次いで起きた。現地時間7日夜にはメキシコの南部でマグニチュード(M)8・1の、また同19日には中部でM7・1のそれぞれ大きな地震が発生し、多くの建物が崩壊して多数の犠牲者が出ている。その後も余震とみられる地震が続いている。メキシコでは32年前の1985年9月19日にM8・0の大地震が起きて少なくとも約1万人が犠牲になっている。このためメキシコは大地震に対する危機感を多くの国民が共有しており、今月19日に避難訓練が行なわれていた。地震に強い建物もある程度増えていたという。それでも地震はまたこの国を襲い多くの犠牲者を出した。

日本学術会議の提言や8月に開かれたシンポジウムで繰り返し指摘された防災・減災上の数々の問題点はこの国明日、未来にとって極めて重要な課題-。そのことを今回のメキシコでの大きな被害が伝えている。最も大切なことは今回の提言を、「防災・減災に関係する学術界の問題提起」に終わらせないことだ。そして、政府、地方自治体などの行政機関や民間企業、そして「地震大国」のこの国に住む一人一人がこれを危機感を持って受け止め、それぞれのレベルで「できること」はすぐに行動に移して備えておくことだろう。

(サイエンスポータル編集長・内城喜貴)

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