ニュース - 速報・レビュー(レビュー) -

有人宇宙活動は何のために

掲載日:2015年6月22日

1961年に旧ソ連のボストーク宇宙船でガガーリン宇宙飛行士が初めて宇宙飛行をして以来、有人宇宙活動は常に多くの人々の関心を集めてきた。自前で有人宇宙活動ができるロシア、米国、中国といった国々は、何のためあるいは何を目指し、膨大な資金をつぎ込んでいるのだろうか。15日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演した辻野照久(つじの てるひさ)宇宙航空研究開発機構調査国際部特任担当役が、興味深い見解を披歴していた。

辻野氏は、長年、中国をはじめとする世界の宇宙開発動向を調査・研究している。氏の見解は、「中国はいろいろな宇宙開発活動をしているが、大目標は何か」という会場からの質問に対する答えの中で示された。

「その答えを一番知りたがっているのは米国。中国の宇宙開発が何を目的としているのか、CIA(米中央情報局)が調べてもつかめていない。私が言えることも、中国が宇宙開発に関して言っていることは10年前とほとんど同じ、ということくらいだ。「有人月探査をやりたい。宇宙ステーションを持ちたい。世界的な宇宙産業を育てたい」と、10年前と変わっていない」

中国は2011年9月に宇宙ステーション実験機「天宮1号」を、同年11月に無人宇宙船「神舟8号」を打ち上げ、中国初の自動ドッキングを成功させた。さらに12年6月には女性飛行士を含む3人が搭乗した有人宇宙船「神舟9号」を打ち上げ、「天宮1号」との手動ドッキングに成功している。13年6月にも3人の宇宙飛行士が搭乗した「神舟10号」と「天宮1号」の手動ドッキングを成功させた。

辻野氏は講演の中で、16年から有人宇宙飛行は再び活発化し、複数のモジュールで独自の宇宙ステーション「天宮」を構築し、有人宇宙船「神舟」と物資輸送船「天舟」が定常運用される、との見通しを示している。

興味深い見解というのは、会場からの質問に対する答えの後段に出てきた言葉だ。

「米国(の宇宙開発の大目標)は、火星に行くこと。将来、地球に人が住めなくなったとき、米国人だけは火星に行けるように、と。それが米国の宇宙開発の基盤動機だ。中国もあるいはそれに近いことを考えているかもしれない」

中国に触れた箇所はさておき、「有人火星飛行が米国の大目標」という見方の信ぴょう性は、どうだろうか。米国、日本、カナダ、欧州11カ国、ロシアが協力する国際宇宙ステーション計画に、日本はスタート時から参加している。この国際協力プロジェクトに日本が参加し続ける意義は何か。レーガン米大統領(当時)が国際協力を呼びかけて始まった計画である。不参加という選択は日本になかっただろうし、参加したことによる外交上の利点、有人宇宙活動経験の蓄積といった形に見えにくいところでの相応の見返りはあったと思われる。

ただし、産業競争力強化、科学技術といったより直接的な効果が、要した費用に対し十分見合うものとなっているかどうかの評価は、難しいのではないだろうか。今年1月9日に宇宙開発戦略本部が決定した「宇宙基本計画」には、次のような記述がある。

「国際宇宙ステーション計画を含む有人宇宙活動については、費用対効果を向上させつつ、わが国が引き続き宇宙分野での国際的な発言力を維持するために、将来の人類の活動領域の拡大へ寄与しつつ、技術蓄積や民間利用拡大の戦略的実施等が効果的・効率的に行われることを前提に、これに取り組む」

「国際有人宇宙探査については、計画が今後、国際的に検討されるものであることから、他国の動向も十分に勘案の上、その方策や参加の在り方について、外交、産業基盤維持、産業競争力強化、科学技術等に与える効果と要する費用に関し、厳しい財政制約を踏まえつつ、厳格に評価を行った上 で、慎重かつ総合的に検討を行う」

要するに費用対効果を度外視して有人宇宙活動に突き進むわけにもいかない、ということだろうか。「将来の人類の活動領域の拡大へ寄与しつつ」とはいうものの…。辻野氏の見込み通り、将来、米国が有人火星飛行計画を明らかにした場合、中国は有人月面探査といった意欲的な計画で対抗するだろうか。そして、日本はどのような道を選択するのだろう。

元宇宙開発委員長の池上徹彦(いけがみ てつひこ)氏と数年前、ある講演会後の懇談会場で交わした会話を思い出す。国際宇宙ステーションに参加している意義についての問いに対し、次のような言葉が返ってきた。

「米国が国際宇宙ステーション計画を続ける意味は、有人火星飛行に備えたデータの取得にある」。米国が有人火星飛行を見据えていると見る日本の専門家は辻野氏だけではない、ということだろうか。

(小岩井忠道)  
ページトップへ