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日本学術会議が新国立競技場計画見直し提言

2015.04.28

小岩井忠道

  東京オリンピックに向けて建設計画が進行中の新国立競技場に、日本学術会議から見直しを求める声が上がっている。

  同会議環境学委員会 都市と自然と環境分科会は24日、「神宮外苑の環境と新国立競技場の調和と向上に関する提言」を公表した。提言は、まず新国立競技場の特徴である人工地盤に大きな疑問を呈し、「神宮の森の生態系の特質を踏まえ、大地に根ざした水循環を可能とする『本物の森』を創り出す」よう求めている。

  環境学委員会 都市と自然と環境分科会が、新国立競技場整備工事に伴う樹木の伐採を許可した新宿区の資料などから算出した結果によると、工事によって競技場周辺で失われる樹木は1,545本に上る。219本は移植されるが、移植先が人工地盤上になる樹木が75本とされている。そもそも一帯は風致地区に指定されている神宮外苑で、100年の歳月をかけて緑が守られ、育てられた区域。「人工地盤上は、大地との水循環が遮断されており、建築構造物の寿命からみても 100 年を越えて永続していく森に成長していくことは不可能」と提言は言う。

  また人工地盤上の広場は、樹木の数が限られることから日陰も少なくなり、真夏に開かれるオリンピックの期間中、過酷な熱環境となることが推定される、とも指摘している。

  では、望ましい新国立競技場像はいかなるものか。提言は、人工地盤が計画されている区域を、地下に人工構造物があるかないかなど7つの区域に分類し、それぞれ計画の見直しを求めている。このうち人工地盤そのものは認めるとした3,500平方メートルの区域について、人工地盤の下の地面に渋谷川を復活させるという提言が目を引く。

  渋谷川というのは、新宿区の玉川上水内藤新宿分水から渋谷方向に流れている川で、1964年の東京オリンピック開催に合わせ、JR山手線渋谷駅付近までの間が地下水路にされた。新国立競技場の人工地盤下の地面に渋谷川の清流を復活させ、熱環境・景観の改善を図り、健全な水循環を回復し、生態系の回廊を形成していくことを提言は求めている。

  新国立競技場は、旧国立競技場と都立明治公園の敷地にまたがって建設される。日本学術会議 環境学委員会 都市と自然と環境分科会は、神宮内苑・外苑の森についての調査・研究を早くから続けており、2013年12月にシンポジウム「神宮の森・これまでとこれからの 100年-鎮座百年記念・第二次明治神宮境内総合調査から‐」を開催している。さらに今年2月20日も「神宮の森と東京オリンピック2020を考える」というシンポジウムを開催し、新国立競技場建設計画の見直しを議論している。この中で東京オリンピックが開催される予定の7〜8月に、現行の計画のままだと明治神宮外苑周辺の5キロ四方がどのような熱環境にさらされるかを予測したシミュレーション結果が報告された。

  国立研究開発法人 海洋研究開発機構のスーパーコンピューター「地球シミュレーター」を用いた計算の結果、分科会が提言する「森とせせらぎ再生案」により、競技場の周囲の気温が現行案より平均 0.5℃、最大 2.1℃程度低くなり得ることが明らかになった、としている。

 提言をまとめた分科会の委員長を務める石川幹子(いしかわ みきこ)中央大学理工学部教授は、中国政府の要請に応じ2008年に起きた四川大地震の復興計画作成に関わったほか、2011年の東日本大震災でも、大きな被害を受けた宮城県岩沼市の復興会議議長として、復興に大きな役割を果たしている。新国立競技場計画に対してはさまざまな批判や議論があるが、今回の提言は、政府、東京都などもきちんと受け止めざるを得ないのではないだろうか。

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