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高レベル放射性廃棄物の扱い 原子力委が意見募集

2012.12.03

 原子力委員会が11月29日、「今後の高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る取組について」と題する見解案をホームページに掲載し、12月10日まで一般からの意見を求めている。

 これは、原子力委員会の審議依頼に対する日本学術会議の回答「高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組みについて」を受けての対応だ(2012年9月12日レビュー「高レベル放射性廃棄物処分で日本学術会議が回答」、インタビュー・今田 高俊・日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」委員長・東京工業大学大学院 社会理工学研究科 教授「高レベル放射性廃棄物『暫定保管』提言の衝撃」第1回(2012年10月16日)「原子力委の依頼を超えた回答内容」参照)。

 この見解案については、原子力委員会がホームページで公表する前に複数の新聞が伝えているが、記事の書き方がだいぶ違う。「高レベル放射性廃棄物 暫定保管へ転換提言 原子力委」(毎日新聞11月27日夕刊)、「原発ごみ地中処分を 原子力委案、現行通り」(朝日新聞28日朝刊)、「最終処分場選定『政府が前面に』 原子力委が見解案」(読売新聞28日朝刊)という具合だ。

 一般の意見を募集している見解案そのものの新聞報道にこうした違いが出たのは、見解案が分かりにくいということではないか。

 日本学術会議の回答について原子力委の見解は、「関係者が本来最も意識して取り組むべきことをこれまで優先順位を高く意識しないで来たことを認識させた」「『回答』から汲み取った教訓を十分に活かして企画・推進すべきであると考える」など繰り返し評価している。しかし、14年前に原子力委員会高レベル放射性廃棄物処分懇談会がまとめた報告書など過去の経緯を詳しく説明して、これまでの考え方自体には大きな誤りはなかったことも同時に強調しているのが目立つ。

 2日、都内で日本学術会議が主催する学術フォーラム「高レベル放射性廃棄物の処分を巡って」が開かれた。日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会委員長として、原子力委員会に対する回答をまとめる中心となった今田高俊・東京工業大学大学院 社会理工学研究科教授のほか、鈴木達治郎・原子力委員会委員長代理など原子力や地質・地震の専門家たちによる基調報告・講演、その後の討論が行われた。

 毎日新聞の見出しにも入っている「暫定保管」は、日本学術会議回答の柱の一つだから、当然、学術フォーラムの中心テーマとなっている。今田委員長は、原子力委員会の見解案を「おおむね学術会議の意見を取り込んでくれている」と評価しつつ、「地層処分という方針は変えない、という考え方がにじみ出ている」ことに疑念を表した。「いつでも取り出してほかの保管場所に移すことができる」という「暫定保管」の重要なポイントについてはきちんと理解されていない、という批判である。

 これに対する鈴木・原子力委員長代理の答えは「地層処分をしながら回収可能性を担保するというのが、今までのわれわれの考え方。暫定保管が新しい提案であることは理解している。ただし、モラトリアム(一時停止)と言ってしまうと、現世代の責務としてやらなければならない仕事が止まってしまう恐れがある。地層処分と並べて暫定保管もあり得る、という考え方ではどうか、というのが原子力委の見解」というものだった。

 結局、総括・閉会のあいさつをした山路憲治・日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」副委員長(公益財団法人地球環境産業技術研究機構理事・研究所長)に、「原子力委の見解は、『暫定保管』を『回収可能性を持った最終(地層)処分』にすり替えているようだ」と指摘される結果となっている。

 学術フォーラムでは、暫定保管の是非以外でも、大きな意見の違いがみられた。例えば「地震・火山活動が活発な日本で地層処分して10万年も後まで安全と科学的に言える場所などない」と、「探せばある」で、主張は地球科学者の間ですら割れている。

 高レベル放射性廃棄物を巡る論議は、詰まるところ、後の世代にどれだけ負担を押し付けるかどうか、という問題だろう。原子力委員会からの意見募集に応え「現世代の責務」を少しでも果たそうと考える人は、さまざまな声に耳を傾け、かつ最後は自分で判断するほかない、ということだろうか。

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