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高レベル放射性廃棄物の処分を巡る議論

2012.11.14

 原発推進、脱原発いずれの道を選ぶにしても避けて通れない高レベル放射性廃棄物処分の問題が、11日、臨海副都心で開かれた科学コミュニケーションイベント「サイエンスアゴラ」(科学技術振興機構主催)で話し合われた。

 日本学術会議は、高レベル放射性廃棄物を地下に最終処分する前に「暫定保管」という新たな方策が必要だ、とする報告書を9月にまとめた(2012年9月12日レビュー「高レベル放射性廃棄物処分で日本学術会議が回答」参照)。日本の原子力政策は、原子力発電所の使用済み燃料を再処理し、抽出したプルトニウムとウランを繰り返し利用し続けるとする「核燃料サイクル」を柱にしている。再処理後に出てくる高レベル放射性廃棄物だけは、最終的に人間環境から隔離した状態で地下深く埋め込む(最終処分=地層処分)、という考え方だ。これに対し、日本学術会議が提言した「暫定保管」は、「最終処分する前に数十年から数百年程度の期間、回収可能な状態で安全に保管する」という全く新しい選択肢である。

 「サイエンスアゴラ」の会場で行われた日本学術会議主催の「討議:高レベル放射性廃棄物の処分はどうあるべきか」では、当然、「暫定保管」の妥当性が論議の的となった。興味深かったのは、武田精悦・原子力発電環境整備機構(NUMO)理事の発言である。NUMOは、経済産業省の傘下にある認可法人で、高レベル放射性廃棄物の地層処分を事業目的に2000年に設立された。しかし、地層処分地選定の作業はほとんど進んでなく、適地選びの初期段階となる応募地域の文献調査すら1例も実施できていないのが、現状だ。

 NUMOが国の計画の下で進めようとしている地層処分は、300メートルより深い地下に高レベル放射性廃棄物を埋め、埋めた後は閉鎖(ふたを)して、それ以後は人間の手をかけないでも数万年にわたって安全は保たれる、とされている。

 武田氏は、NUMOの理事になる前に日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター所長を務めるなど、地層処分研究との関わりが長い。日本学術会議主催の「討議:高レベル放射性廃棄物の処分はどうあるべきか」で興味深かったのは、「「『暫定保管』の考え方は、現在の地層処分の進め方にもある程度含まれている」という発言だ。氏は、「地層には物質を閉じ込めておく性格があり、日本にも地下資源が長期間保依存されてきている地層がある。地層中の高レベル放射性廃棄物も地下資源と同様に考えてよい」と、地層処分が「最も確実な方法」であることを強調した。

 その上で、「施設を建設し、高レベル廃棄物を運び込み、最終的に閉鎖するまでには約100年かかる。サイト選定、施設建設、操業、閉鎖という節目節目でそれぞれ意思決定が成されるので、(意思決定次第で)いつでも後戻りすることができる」と語った。地層処分地が決まった後、節目節目、場合によってはふたをして人間の手を離れる最後の段階でも、計画変更ができないわけではない、ということだ。

 日本学術会議の提言した「暫定保管」は、最終処分する前に数十年から数百年程度の期間、回収可能な状態で安全に保管し、この期間を利用して、容器の耐久性の向上や放射性廃棄物に含まれる長寿命核種の半減期を短縮できる技術などの研究開発をすべきだ、という考えに立っている。「最終処分してしまった後の数万年という間に火山活動や地震によって大地震や火山活動によって地層処分した高レベル放射性廃棄物が爆発、飛散したら、お手上げではないか」(今田高俊・日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」委員長・東京工業大学大学院 社会理工学研究科 教授)というわけだ(2012年10月16日「原子力委の依頼を超えた回答内容 参照」)。

 今田氏は、提言のもう一つの狙いとして「原発反対派と容認派が議論するテーブルに着いてもらうための案をつくった」ことを挙げている。今回の日本学術会議主催の「討議」と、討議で出された武田NUMO理事の発言は、こうした狙いがわずかでも前進したとみることができるのだろうか。それとも従来からの建前を繰り返しただけ、ということだろうか。

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