レビュー

中国の特許情報への関心

2012.11.09

 サムスン、アップルという韓国、米国を代表するIT企業同士の激しい特許侵害訴訟合戦が、国際的な関心を集めている。11月7-9日、東京・北の丸公園の科学技術館で「特許・情報フェア&コンファレンス2012」が開かれた。中国の特許情報が、国際的な関心事になりつつある現実が伺える。

 財団法人日本特許情報機構のブースでは、中国語特許文を精度よく自動翻訳できるソフトウエアのデモンストレーションを公開していた。同機構と独立行政法人・情報通信研究機構が共同で開発した最新の機械翻訳ソフトだ(2012年11月9日ニュース「中国の特許情報を高精度で自動翻訳」参照)。

 デモ中の画面を見ると、ある特許の「名称」「要約」が英文で示された後に、中国語の原文に続いて、機械翻訳による日本語訳が表示されている。「クレーム」という項目で、現在、同社の世界特許情報検索サービスでは、この項目の日本語訳文表示はない。自動翻訳が比較的容易な英語の翻訳文として、特許の「名称」と「要約」が載っているだけだ。

 理由は、中国語から日本語へ精度よく自動翻訳できるソフトの開発が遅れているため。特許の文章は1つの文が非常に長いというという特徴があることに加え、中国語と日本語の文法が全く異なることが障壁になっている。

 「クレーム」というのは、ここに記述されていない技術範囲に関しては特許権を主張することができないから、特許出願書類の中でも最も重要な記述箇所と言える。情報通信研究機構と日本特許情報機構によると、1,000万という特許に関わる大量の訳文を集めて「確率付き対訳辞書」を作成し、語順の変更に関する知識を自動的に獲得する新たな方法を情報通信研究機構が開発した。これに、特許の専門企業である日本特許情報機構が「通じる翻訳」になるよう改良を加えることで、翻訳の精度を大幅に上げることができたという。

 株式会社知財翻訳研究所のブースでも、中国の特許件数が急増していることへの対応に力を入れていることを知ることができる。こちらも翻訳・自動翻訳会社「クロスランゲージ」と提携して中国特許専用翻訳エンジンを開発中。前述の日本特許情報機構は、来春には新しいソフトを組み込んだ中国特許情報検索サービスを開始する予定だが、知財翻訳研究所とクロスランゲージのチームも来春までには、中国特許専用翻訳エンジンの精度向上を目指している。

 知財翻訳研究所はまた、中国特許情報の機械翻訳と並行して人材育成を重視していることが目を引く。中国語と技術の双方に通じた知財翻訳者を育てるため日本国内にアカデミックセンターを設けているが、知財関連の日本企業3社と共同出資した「雅訳」という合弁会社を新たに中国・大連に設立した。こちらは中国人の知財翻訳者育成が狙いという。

 日本企業に関わらず先進各国が中国の特許情報への関心を高めている背景には、中国政府が特許の申請に対して助成金を出すなど、知財重視政策に切り替えていることがある。「OEM(相手先ブランドによる生産)など、世界の工場と言われる現状を打破して、これからは知財で勝負する国になろうとしている」(知財翻訳研究所ブースの中国人説明員)というわけだ。

 中国のニュースサイト「人民網日本版」は昨年11月、中国のIT企業「愛国者電子」が東芝相手に起こしたメモリインタフェースに関する技術特許の権利侵害訴訟で、東芝に賠償金を命じる一審判決が出た、というニュースを伝えている。特許申請の奨励など中国の知財重視の政策により、こうした事例は今後増える可能性が高い、と見たほうがよいということだろう。

 新製品を売り出したものの、中国で認可済みの特許を侵害しているといった訴訟を起こされる危険を未然に防ぐためにも、中国特許情報の自動翻訳ニーズは今後ますます高まる。そんな思いを抱いた「特許・情報フェア&コンファレンス2012」の見学者も、少なくないのではないだろうか。

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