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大学教員の女性比率が依然低いのは

2012.06.04

 科学技術政策研究所が、報告書「日本の大学教員の女性比率に関する分析」を公表した。 報告によると、2007年度の全大学教員に女性教員が占める割合は、18.2%である。第4期科学技術基本計画には、2011-15年度に女性研究者の比率を理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%とするという目標がうたわれている。 18.2%ならそれほどひどい数字でもないと感じる人もいるかもしれないが、分野による差が大きいのが目に付く。医学・歯学・薬学・看護学を合わせた保健分野こそ23.8%とまずまずの数字を示しているものの、理学、工学、農学系となると7.6%、3.8%、7.2%といずれも10%を切っている。工学の総教員数は26,000人を超え、保健の約54,000人に次いで多いので、3.8%という数字の小ささが特に目立つ。

 報告書は男女の離職率の差にも目を注いでいる。2007年度の女性大学教員は30,646 人であり、2006 年度に離職した女性教員は2,448 人である。このうち定年退職者は15.6%で、転職は33.2%。一番多い理由が「その他」である。結局、定年退職者を除いた離職率は、男性の4.4%に対し6.6%と明らかな違いがある。

 「その他」の理由が何かについては調査自体からは分からない。しかし、報告書も引用しているように、男女共同参画学協会連絡会が2007年に学協会会員を対象に行った「科学技術系専門職における男女共同参画実態の大規模調査」から、女性教員が、退職や転職以外で職を離れざるを得なかったわけが推察可能だ。この調査によると男性研究者にはほとんどなく、女性研究者だけが多く挙げた「離職・転職の理由」は、育児、結婚、家族の転勤だった。20代後半から30代の女性の自由記述で「出産のためには退職せざるを得ない」「任期付職でも出産と育児が可能な社会保障制度の整備を望む」といった声が多い。(2008年9月17日オピニオン・大坪 久子・東京大学分子細胞生物学研究所 講師「女性研究者の活力を生かすhttp://scienceportal.jst.go.jp/columns/opinion/20080917_01.html」参照)

 「家族の転勤」という理由の背景にあるのが、男性研究者の場合、半数近くないし半数以上が専業主婦の配偶者を持つのに対し、女性研究者の半数以上ないし6割以上は配偶者も研究・技術職という現実だ。前述の調査のほか、2001-02年度の科学技術振興調整費「科学技術分野における女性研究者の能力発揮」報告書からも明らかになっている。配偶者が転勤したので、離職あるいは転職せざるを得ない女性研究者が少なくないということだ。(2008年7月16日オピニオン・小川 眞里子・三重大学 人文学部 教授「Dual-Career Academic Couples ? 研究者同士カップル問題」、大坪久子・東京大学 分子細胞生物学研究所 講師「女性研究者の活力を生かす」参照)

 科学技術政策研究所の報告は、女性教員の離職を減らす具体策については触れていない。しかし、女性教員、女性研究者の比率を上げる方策ははっきりしているのではないか。女性であるが故の負担が何かははっきりしており、具体的な要望も出ているのだから。

 学内に病児保育室を新設したり、子供の送り迎えを近隣の人などに頼みたい人と、それに応える人の会員組織を作るなど複数の対策で効果を挙げている東京女子医科大学の例など、モデルとなる実績が既にいくつか報告もされている(2012年4月20日インタビュー・斎藤 加代子・東京女子医科大学 遺伝子医療センター所長(「女性医療従事者に社会還元ができる環境を」参照)

 2002年に日本物理学会で初代の男女共同参画推進委員会委員長を務めた坂東 昌子・愛知大学 名誉教授、NPO法人「知的人材ネットワークあいんしゅたいん」理事長のような先駆者もいる。坂東氏は40年以上前、京都大学大学院 理学研究科 博士課程在籍中に研究と子育てを両立させるため、大学近くにあった自宅を開放し、女子大学院生仲間らと共同保育を始め、1年後、京都大学に保育所を作らせた。

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