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米科学誌「サイエンス」が挙げる今年の注目研究

2012.01.04

 米科学誌「サイエンス」は、2012年に成果が注目される研究分野として「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」、「“超光速”ニュートリノ」、「幹細胞の代謝」、「ゲノム疫学」「知的障害治療」、「火星探査車Curiosity」を挙げた。

 LHCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)がスイス・フランス国境に建設した世界最大規模の陽子衝突型円形加速器。この装置を使った実験でCERNは昨年12月、量子物理学の「標準理論」において唯一未発見で、万物の質量の起源と考えられている「ヒッグス粒子」の確率論的な発見に向けて、大きな進展があったことを発表した。果たしてヒッグス粒子が存在するのか否か、今年はより明確になりそうだ。

 “超光速”ニュートリノについて、国際研究実験グループ(OPERA)は、CERNから発射した素粒子ニュートリノが約730キロ遠方にあるイタリアの地下施設に到達した時の観測データを解析し、「平均速度が光速よりも上回った」と昨年9月に発表した。その後、世界中でいくつかの反論や懐疑的な意見が出されている中、米国フェルミ研究所は今年早期にも再現実験の結果を発表することにしている。同研究所は2007年に米国内の約735キロ離れた2地点で実験を行い、今回と同様な“超光速”の結果を公表しているが、その時は「データのエラー」としていた。

 幹細胞については、いつ、どんな種類の細胞に分化するのか、エネルギーや中間代謝物の利用の仕方によって決まることが分かってきた。今年はさらに、幹細胞の人体内での自己調整の仕組み、あるいはそのプロセスの利用などといった、幹細胞の代謝に関する幅広い研究が進むものと期待される。

 ゲノム疫学によって、科学者たちは病原体の動態をかなり詳しく追跡する道具を手に入れた。以前は1つのバクテリアのゲノム解析に数年もかかっていたが、現在は1日以内でやってしまう。全ゲノムの解析によって、新興の疾患がどこからきたのか迅速に決定できるし、原因の病原体が抗生物質に抵抗性をもつかどうかも分かる。さらにヒト集団への広がりや、過去に起きた流行についても今や把握できると期待されている。

 レット症や脆弱(ぜいじゃく)性X症、ダウン症などの各症候群による知的障害や行動上の問題は、長い間、治ることのない不可逆的な疾患と考えられていた。それらの症候群は生まれる前に、遺伝子的な間違いによって脳の発達に支障が起きたものだ。しかし、近年のマウスを使った研究によると、いくつかの知的障害や問題行動の諸症状は可逆的であるらしいことが分かってきた。それらに関連する脳内の成長因子や神経伝達物質受容体をターゲットとした治療がヒトの臨床試験で行われており、今年はその予備的結果が出始める。さらに、新たなターゲットが見つかることも期待される。

 米航空宇宙局(NASA)が約26億ドル(約2000億円)をかけて開発した火星探査車「マース・サイエンス・ラボラトリー(愛称“Curiosity”)」は、昨年11月に打ち上げられた。重さ約900キロ。カメラ17台とさまざまな計測器を搭載した原子力電池動力の火星探査車で、今年8月に火星のゲール・クレーターに軟着陸する。約2年間にわたって、岩石のサンプル分析などを行う予定だ。まずは、ぶっつけ本番的に初めて行う火星上空からの探査車の降下・着陸に、このミッションの成否がかかっている。

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