レビュー

シンポジウムのやり方にもイノベーションが

2011.09.30

 NPO法人 ブロードバンド・アソシエーション主催のシンポジウム「スマート時代の映像配信ビジネスの課題を考える が28日、東京・神宮前のニコニコ本社ビルスタジオで開かれた。エレクトロニクスメーカー、インターネットサービスプロバイダー、動画ネット配信会社、NHK、民放キー局関連ネットサービス会社、お笑いプロダクション関連研究所、弁護士、大学、総務省、経済産業省…。さまざまな分野で映像配信に関わっている人々が、モデレーター、パネリストとして相当、本音で意見をぶつけ合ったように見えた。

 交わされた議論の中身も紹介したいところだが、ここではシンポジウムの持ち方に限りたい。毎日のように数多くのシンポジウムが各地で開かれているが、多くの主催者たちに大いに参考になることがあるように思われるからだ。

 まず、50人くらいしか傍聴人が入れないニコニコ本社ビルスタジオが会場だったのはなぜか。シンポジウムの内容がそのまま動画配信サービス「ニコニコ生放送」で同時にネット配信されたためだ。ちなみにニコニコ動画サイトを運用する株式会社ニワンゴは、2008年4月早々と音楽の著作権管理団体である「日本音楽著作権協会(JASRAC)」と包括的契約を結んでいる。ニコニコ動画の投稿サイト「歌ってみた」「踊ってみた」で流される音楽の使用料として、ニコニコ動画で得た収入の1.879%をJASRACに支払う、という契約内容である。放送局などが権利問題などのため本格的ネットサービスになかなか移行できないのを尻目に、動きは速い。

 今回のシンポジウムの話に戻る。動画配信してもらうことで主催者にどのようなメリットがあるか。飯野嘉郎ブロードバンド・アソシエーション理事・事務局長によると、これまでブロードバンド・アソシエーションは4回の特別シンポジウムを開いている。ニコニコ生放送での中継を始めたのは、昨年5月、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた2回目のシンポジウム「超ガラパゴス研究会研究成果発表会」から。この時は11,000人がネットで見た。続く3回目、今年7月に東京大学本郷キャンパスで開いた「『3.11』とICT〜大震災が問う日本の情報通信インフラ〜」をテーマとするシンポジウムでは、ネットで見た人は36,000人と3倍以上に増えている。

 こういう実績を積むと、もはや大きな会場など必要ないということだろう。4回目の今回は、会場のニコニコ本社ビルスタジオで実際にシンポジウムを傍聴した人は50人ほど。これに対しニコニコ生放送で見た人は、3回目よりさらに増えて43,000人に上った、という。

 ネットで動画配信することによってシンポジウム自体の中身にも大きな影響が出ている。パネリスト、会場内外の傍聴者が見ることができるディスプレーにはシンポジウムの映像、音声にかぶせてネット視聴者からのコメントがひっきりなしに字幕で表示される。品がないとしか思えないようなつぶやきも多いが、会場参加者からの質問に「何を言っているのか分からん」「質問じゃなくて意見だ」「長すぎる」など的を射たものもある。

 なるほどと感心したのは、モデレーターが冒頭とまとめにアンケートを実施したことだ。第1部では、携帯電話からスマートフォンのような進化がテレビでも起こり得るか、について2時間近くパネリストたちが意見を戦わした。最後にモデレーターが投げかけた問いは「スマートテレビが発売されたら買うか」。即座に「出たらすぐ買う」が4.1%、「買うとしてももう少し検討してから」35.7%、「どちらとも言えない」10.10%、「期待していない」50.2%という数字が出てくる。

 こうした数字を示されると、主催者やパネリストたちが、会場内の参加者数や顔つきなど数少ない判断材料を基に「今日のシンポジウムは成功だ」「自分の話はよく理解された」などと自分たちに都合よく解釈することはできにくくなる、ということだろう。

 この数年間を見ても科学技術関係のシンポジウムの数は相当、増えてきたように見える。科学コミュニケーションに対する理解度の高まりを反映していると考えればめでたい限りだが、主催者側にのみ都合がよいような思い込み、自己満足のようなものはないだろうか。シンポジウムを開催する前から当日終わるまでに主催者と主催者から依託された業者が費やす準備作業は時間、コストとも相当なものと思われる。

 しかし、肝心のシンポジウムで交わされた議論を多くの人に知らせるための作業にどれほどの時間と費用をかけているだろうか。一握りのケースを除けば、忘れたころに読みにくい報告書が作られるか、ウェブ上に掲載されればまだまし、というのが現実ではないか。シンポジウムをとにかく無事終わらせつかではなく、どんなことが話し合われたかをより多くの人に知ってもらうことの方が大事。そう考えたら、今の大半のやり方は適切と言えるだろうか。

 これからは「ブロードバンド・アソシエーション」が主催する特別シンポジウムの手法が主流になるべきだ、と考える人が多くてもおかしくないようにも思えるがどうだろう。広い会場を探す手間や費用も減るはずだし、当日を含めそんなに人手も掛けないで済み、その分、シンポジウム内容をいかに多くの人に知ってもらうかに人と時間を回すことができるから、と。

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