レビュー

トップダウン型基礎研究支援制度の国際評価

2011.02.24

 5年ぶりとなる科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業の国際的総合評価委員会が17-19日に開かれた。

 国内ではこの1年ほど、日本学術会議を先頭に基礎科学の重視を叫ぶ声が目立つ。アカデミズムの世界ではトップダウン型よりボトムアップ型の研究費増を望む声が多数派と言ってよいだろう。CREST、ERATO、さきがけといった戦略的創造研究推進事業はトップダウン型の研究支援制度で、この恩恵を受ける研究者の数はボトムアップ型で支援される研究者よりはるかに少ない。ボトムアップ型かトップダウン型か、を全研究者にアンケートでもしたら、結果は明らかではないか。

 国際的総合評価委員の顔ぶれは、澤岡昭委員長(大同大学学長)を初めとする日本人が7人で、海外から米国2人、英国、スウェーデン、シンガポール、フランスから各一人の計13人で構成されている。

 委員会終了後の19日に開かれた記者会見には、評価された側の責任者、北澤宏一・科学技術振興機構理事長も同席し、澤岡委員長とエリックソン・スウェーデン・ルンド大学副学長、ウィンナッカー・国際フロンティアサイエンスプログラム推進機構事務局長が出席した。

 記者会見で配られた委員会の評価、提言には、女性研究者の支援や国際性という面で改善すべき点があるといった厳しい指摘も含まれている。しかし、「本事業から細野秀雄(東京工業大学)教授の透明半導体、山中伸弥(京都大学)教授のiPS細胞を代表的事例として、数多くの画期的な研究成果が生まれており、研究発表や受賞などから見ても事業全体としての成果は世界のトップ水準である」という記述にみられるように、全体としては高い評価といえそうだ。これは記者会見における外国人委員2人の発言からも、十分に伺える。

 提言の中に「優れた研究成果をイノベーションにつなげ、次の段階への展開を切れ目なく行うために、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業などとの連携も重要」というものがあった。画期的な基礎科学成果をいかに社会で役立つ技術に発展させるかは、北澤理事長なども前から認めている日本の科学技術振興上の大きな課題である。あらためて国際的総合評価委員会に指摘された事実は重く受け止めてしかるべきだろうが、これについてもエリックソン委員が、“柔軟”な意見を述べていた。

 「なるべく物事は単純にすべきだ。しかし、あまり単純にしすぎると間違った状況を招く。科学技術振興機構のようなカルチャーを持った組織をNEDOや学術振興会と一緒にすればよさがなくなる。ある程度の重複がないと競争がなくなり、事業を一つにすると比較もできない」

 ウィンナッカー国際フロンティアサイエンスプログラム推進機構事務局長からも「浮かんでいる船は修理しない方がよい、という。目利きの役割などいろいろな仕組みがうまくいっている。うまくいっているならあまり触らない方がよい」とこれまた現状を評価する発言が続いた。

 日本のトップダウン型基礎研究支援の仕組みは、海外先進国から見ればうまく機能している。両外国人委員の発言から見る限り、そうみなしてよさそうだが、国内の見方にどれだけ影響するだろうか。

関連記事

ページトップへ