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5年後アジア諸国に追いつかれる科学・技術分野増加

2010.04.09

 金澤一郎日本学術会議会長が率先して取り組んでいた「日本の展望-学術からの提言2010 がまとまり、8日金澤会長から川端達夫 氏・科学技術政策担当相にも手渡された。

 日本の将来についてアカデミズムも真剣に議論し、政策決定者に積極的に提言していく、という金澤会長の意志の具体化といえるだろう。この提言の根底となった日本社会の現状とはどのようなものか。日本学術会議に先立って公表された科学技術政策研究所の調査結果と共通するところも多いと思われるので、そちらの調査結果も紹介したい。ポイントの一つは、日本将来を左右する若い人材の育成が適切か、さらに若い人材に十分な活躍の場を与えているのか、ということのように見える。

 日本の科学技術システムはこの4年間で着実に改善しつつあるものの、5年後を予測すると国際的な優位性は低下するという結果が、科学技術政策研究所の調査で明らかになった。

 この調査は、同研究所が2006年から続けている「科学技術の状況にかかわる総合的意識調査」で、大学などの機関長、審議会委員など科学技術政策立案に携わった研究者・有識者と学協会などから推薦された研究者約1,400人が回答している。毎年、同じ回答者に同じアンケートを行うことから、統計では把握しにくい日本の科学技術状況について回答者の意識を定点観測できる特徴を持つ。

 日本の科学技術水準や国際競争力は、現状では多くの分野で米国や欧州と同等かそれ以上と考えている回答者が多い。しかし、5年後には日本の優位性は低下し、現状で既に劣っている分野はさらに差が広がるという見通しが示された。

 対アジアで見た場合、情報通信分野の産業競争力を除けば、日本の科学・技術の水準や産業の国際競争力はアジアより高いと見ている回答者が多い。しかし、こちらもアジア諸国の急迫で、5年後までに日本とアジアの科学・技術水準や産業競争力が同等となる分野が増えるとの見通しが示された。

 現状でも問題だと指摘されていることとしては、「大学で基礎研究を行うための研究資金・研究スペースが不十分」「2001年以降、研究事務が増加しているにもかかわらず大学教員あたりの研究支援者(研究補助者、技能者)数はほぼ横ばい」「日本の大学における研究開発費の伸びは、米国や英国と比べ著しく低い」など、大学における研究環境を懸念する回答が多かった。

 また、研究開発人材についても危機意識が見られる。女性研究者についてはまだまだ不十分ながら「06年度調査に比べると状況はよくなっている」との回答が多い。しかし、海外の優秀な研究者を獲得する活動は、06-08年度に改善は見られたが、09年度は頭打ちになっているとされた。

 次世代を担う人材の育成や確保についても「研究や開発にかかわる職業が高校生や大学生にとって魅力的でないとの認識が増えつつある。望ましい能力を持つ人材が、博士課程後期を目指していないという認識がさらに高まっている。定量データをみても、博士課程入学者が2003 年をピークに徐々に減少していることが分かる」と危機感が示された。

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