レビュー

聴覚障害者への支援は十分か

2010.02.05

 行政刷新会議の事業仕分けの影響で、これからこうした市民活動が活気づき、市民も参加するシンポジウムなどがさらに増えるかも。4日、東京工業大学で開かれたフォーラム「スマートソサエティの創造〜超高齢時代におけるソリューション研究〜」(同大学統合研究院、大学院社会理工学研究科主催)を傍聴して感じた。

 フォーラム名から推測されるように、生活しやすい社会をつくるために科学技術をどのように活用すべきか。そうした発想で社会変革を試みよう、という研究プロジェクトを進める研究者とその賛同者による催しだ。

 休憩中にロビーの展示をのぞいたら、研究者とは思えない年輩の方々の熱心な説明を受けた。東京工業大学の中村健太郎教授(波動応用デバイス、光波応用センシング)が進める「聴こえの支援プロジェクト」を応援する市民団体「めだかの学校」のメンバーだ。難聴者として「もっと頼りになる補聴器を」という運動を続けるうちに中村教授と巡り会った。

 T-coil(テレホンコイル)というものを内蔵している補聴器が市販されているということを初めて知る。スイッチを「T」にすると直の声ではなく、ピックアップコイルが磁界信号をとらえ再生音を聞くことができることを、「めだかの学校」の方々に教えられた。ただし、補聴器さえあればよい、というわけでないところが問題だ。発信する側に磁気ループという仕掛けが必要になる。

 こうした説明を受けなければ、休憩後のパネルディスカッションで聴いた中村教授の話もちんぷんかんぷんだったと思われる。

 海外では公共施設、映画館など人が集まるところに磁気ループを仕組んだ場所があり、そうした施設、コーナーであることを示す決められたマークができている。こうしたマークのある施設、あるいは屋外の場所に行って、補聴器のスイッチを「T」に切り替えれば、普通の人たちがスピーカーを通して聴くアナウンスなどが、より鮮明な音声として聴き取れる、ということだ。発信側の仕掛け(磁気ループ)は補聴器を必要としない人たちには何の影響も与えないので、健常者と補聴器を付けた難聴者が並んで同じ映画を見ることも、講演を聴いたりするのにも何の問題も生じない。家庭のテレビにこのシステムを連動させれば、同じように補聴器をつけた難聴者も聴力に不自由のない家族と一緒に番組を楽しめることも可能という。

 日本学術会議の臨床医学委員会感覚器分科会が、「見るよろこび、聞くよろこび -AVD の克服に向けて->」という市民公開講座を2007年8月に開いたことがある。開催目的は、「現代社会では、各種情報の重要性が日々に増大しており、視聴覚を中心とする情報交換にかかわる能力の低下は個人やその周囲に甚大な不利益をもたらしている。にもかかわらず、視聴覚を中心とする感覚器障害(Audio Visual Disorder, AVD)の予防や治療さらには感覚器障害者との共生の重要性に関する認識はわが国では極めて低いのが現状である。このような状況を鑑みて、『感覚器障害の克服と支援』の重要性を広く啓発する」というものだった。

 市民公開講座の主催者である田野保雄 氏・日本学術会議臨床医学委員会感覚器分科会長・大阪大学教授(当時、故人)は、「研究費の投入一つをとっても視覚障害や聴覚障害は非常に軽視されている。命にかかわることではないということなのだが、多くの人が苦しんでいる実態を考えたら実におかしい」と指摘していた。

 中村教授によると、耳の遠い人の発生率は人口の5%以上と推測されるという。「高齢化社会、情報社会を考えると『聴こえの支援プロジェクト』ももっと急ぐ必要がある」と教授は言っているのだが…。

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