レビュー

発達障害の子どもが増えたのは大人のせい?

2010.01.26

 「京都からの提言 これからの社会のために-子どもたちに伝えたいこと」というフォーラムが23日、都心で開かれた。「分数ができない大学生」(共著、1999年)で、大学生の基礎学力低下にいち早く警鐘を鳴らしたことでも知られる西村和雄・京都大学経済研究所長が中心になって開いた市民向け催しだ。

 西村教授が近年、大きな関心を持っているのが非行の低年齢化である。原因が道徳心(モラル)の荒廃にあると考えた同教授は、2008年に「子どものモラルに関する研究委員会」をつくり、「子どものモラル育成を推進する4Mネットワーク」運動を始めた。子どもたちが守るべきマナーとして掲げた4M(4つの指針)が、「人に親切にしよう」「うそをついてはいけない」「法律を守ろう」「勉強をしよう」。東京で開かれたフォーラムもこの指針を普及する活動の一つである。

 大学教授が始めたユニークな運動にふさわしく、フォーラムも京都大学卒新進落語家の落語あり、運動のためにつくられた数々の歌の合唱ありと型破りだ。京都大学出身あるいは現役の教授たちによるパネルディスカッションもまた、「自主の東大に対し、自由の京大」(パネリストの1人、鎌田浩毅・京都大学大学院人間・環境学研究科教授)というだけのことはある。西村教授たちが掲げる4つの指針に対し、最初から「ご無理ごもっとも」などといった発言はなかなか出てこない。教科書的でない発言もふんだんに飛び交う刺激的な内容だった。

 西村教授には近々、インタビューし、思うところを存分に語っていただくとして、今回はパネルディスカッションで出た発言を一つだけ紹介する。今の子どもたちが置かれた状況の一端と、この運動が生やさしいものではなさそうということだけは伝わるかもしれない。

 発言の主は、日本赤ちゃん学会理事長で同志社大学赤ちゃん学研究センター教授の小西行郎氏だ。発達障害の子どもが15%、ひどいところでは30%もいるとされる異常さにまず疑問を呈し、こうしたあり得ないような数字が出てくるのも大人がそうしてしまっているからだと切り捨てた。

 「子どもが発達障害と診断されると先生が喜ぶ。自分の教え方が悪いからではない、と考えてのことだ。さらに母親までも、自分の育て方が悪いためではない、と喜ぶ」。氏の発言を再現するとおおよそそういうことだ。ただし、市民を対象にしたフォーラムということで、あえて分かりやすく話した可能性がある。氏の発言の真意は「子どもが発達障害と診断されるとホッとする先生や母親が増えている。自分の教え方が悪い、あるいは育て方が悪いせいではなかった、という責任逃れの気持ちからだ。こういう大人たちのせいで、子どもたちもおかしくなっている」ということかもしれない。

 しかし、そのように解釈したとしてもやはり不気味な指摘だ、と感じる人は多いのではないだろうか。

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