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温暖化対策による家計負担試算仕切り直し

掲載日:2009年11月25日

25日朝刊各紙によると、温室効果ガス削減が経済に与える影響についての試算作業はメンバーを入れ替えてやり直すことになったという。

前政権は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを2020年に25%削減すると、一般の家庭に与える負担が年36万円になる、という試算を発表した。新政権の地球温暖化問題に関する閣僚委員会は副大臣級検討チーム・タスクフォースを設け、あらためて試算をやり直す作業を進めている。既に19日の会合で具体的な家計負担の新しい試算を含めた「中間まとめ」案が議論された、と報道されていた。結局この「中間まとめ」は日の目を見なかったということのようだが、何が問題になっているのだろうか。

当欄は、前政権の試算についてジャーナリストからも批判の声が上がっていたことを前に紹介している(2009年10月1日レビュー「25%削減で一般家庭の年間負担36万円とは」参照)。塩谷善雄 氏・日経新聞論説委員が9月28日朝刊の視点欄で「役所依存が生む“ご都合”試算」と手厳しく批判しているという内容だ。

新政権の作業が手間取っている理由は何か。首相官邸ホームページ「地球温暖化問題に関する閣僚委員会タスクフォース会合」サイトに掲載されている文書から推察してみる。前政権の試算公表がまずかったとする理由を説明している個所は分かりやすい。

旧政権の中期目標検討委員会が4月にまとめた報告書には国民経済への影響について3研究機関に委託した試算結果が盛り込まれている。2020年に温室効果ガス排出量を1990年に比べ25%削減した場合に家計に及ぼす負担額として、3機関それぞれが示した試算値だ。1世帯あたりの光熱費負担増は14万円、11万円、13万円とそれほど違わないのに対し、実質可処分所得の減少は22万円、44万円、77万円と相当差があるのが目を引く。何に対してかということが重要だが、2020年に温室効果ガスの年間排出量が1990年に比べ4%増えた場合に比べて、ということだ。4%増というのは、2005年を起点として毎年1.3%ほどGDP(国民総生産)が伸びるという想定によるもので、排出削減策を全く何も講じなかった場合にそうなるという。

旧政権が4-5月に行った国民対話で使用した資料では、このうち1機関の試算値だけが用いられた。世界銀行などの国際機関を中心に開発政策の形成・分析に用いられているCGEモデルによる試算である。実質可処分所得の減少が22万円で、光熱費の負担増が14万円という数字だった。

この数字が6月、旧政権が中期目標を発表する際に単に2つを足し合わせた額36万円として登場する。GDPが年1.3%ずつ伸びるという前提だから、2020年の1世帯あたりの平均可処分所得も今より大きくなっている。25%削減で22万円可処分所得が減ったということだけ強調されているものの、絶対額でみればいまより70万円以上増えるということではないか、というのが塩谷論説委員の指摘だ。

首相官邸「タスクフォース会合」サイトに掲載されている10月30日の会合に提出された中間報告(座長とりまとめ)も、36万円という数字が国民に誤解を与えた理由を次のように書いている。「本来は3つの試算結果を前提条件を付けて併記すべきだった。可処分所得の減少額と光熱費負担増の数字を加算するのも不適切。間違って『加算』された数字が誤って流布され、地球温暖化の進展によって現状から直ちに家計が悪化する、あるいは所得水準にかかわらず一律の負担が必要となるとの誤解が生じた」

このような評価に基づき、適正な国民負担の示し方として同報告は「国際的に標準となっているBAU(基準ケース=温室効果ガス排出削減の対策をとらなかった場合)からの増減で示し、世帯あたりの平均実質所得とセットで増減額を併記する。参考として光熱費の上昇分を示すこともあり得るが、(これら2つの数値は)加算できないことは必ず明記する」としている。さらに、「現時点と2020年時点の実質可処分所得の絶対額を示すのも一案。その際には前提となった経済成長率を注記することが必要。より一般的には、モデルの前提となった想定を付記するのも必要」とも。塩谷 氏の指摘、批判をほとんど追認したような内容だ。

新聞報道によると、再試算作業はメンバーを入れ替え、民主党が掲げる政策や技術革新の進展などを反映させたものにするという。検討作業はだいぶ回り道をしたということだろう。今度はどのような社会にするかという目標をもっと明確に設定して試算を行うべきではないだろうか。

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