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寄稿『科学技術に事業仕分けは向いていない』

掲載日:2009年11月17日

行政刷新会議による事業仕分け作業が大きな関心を呼んでいる。新聞、テレビなどの扱いも、仕分け作業をおおむね好意的に見ているように見える。当欄では、こと科学技術関係に関しては仕分け作業に要する時間が十分だろうか、という疑問を呈する以上の論評はしていないが、問題の重要性に鑑み、科学技術行政を追い続けている中村直樹・科学新聞記者からの寄稿を紹介する。

「科学技術に事業仕分けは向いていない」

科学新聞記者 中村 直樹  

科学技術関連予算の事業仕分けが13日行われ、ほとんどの事業について予算を縮減するということになった。地域科学技術振興や産学官連携、理科支援員等配置事業は廃止という結論である。一事業あるいは一群の事業を1時間で説明・議論し結論を出すという強引な方法であったため、仕分け人の多くが基本的な事業の内容や意義について十分な理解さえしていないように見えた。

例えば、競争的資金(先端研究)は、科学技術振興調整費(革新的技術推進費、先端融合領域イノベーション創出拠点の形成)、科学研究費補助金(特別推進研究、特定領域研究、新学術領域研究、基盤研究(S))、戦略的創造研究推進事業、戦略的イノベーション創出推進事業、先端的低炭素化技術開発、戦略的基礎科学研究強化プログラムという6事業を1つの区分として1時間の枠の中で「予算の縮減」との結論を出している。

しかし、仕分け人側は科学研究費補助金を獲得したことのある名誉教授などが中心となり議論を展開したため、ほとんどの議論が科研費に集中。それも数人の仕分け人が、科研費制度全体への不満などを言うだけで、各研究種目の違いなどについてはほとんど議論されていない。その他の競争的資金については、議論の対象にすらならないものもあった。また制度全体の話として間接経費を縮減すべきだという意見もあり、基盤を支える運営費交付金などの経常経費が減っているという前提について理解ができていないようだ。

また、競争的資金(若手研究育成)では、科学技術振興調整費(若手研究者養成システム改革)、科学研究費補助金(若手研究(S)(A)(B)、特別研究員奨励費)、特別研究員事業を一群として取り扱い、「予算の縮減」と結論づけた。驚いたのは、これらの事業をポスドクの雇用対策であるという認識を示したことだ。例えば、特別研究員に選ばれるような若手は、支援終了後5年間で9割以上が常勤職を得られる優秀な人材であり、また若手研究者養成システム改革のテニュアトラックに採択される若手研究者は国際公募で選ばれるため、非常に選別された優秀な人材である。さらに言えば、科研費の若手研究に採択されるのはきちんと職を得ている若手研究者であり、論点そのものがずれている中で結論が出されたようにしか見えない。

地域科学技術振興・産学官連携(知的クラスター創成事業、都市エリア産学官連携促進事業、産学官民連携による地域イノベーションクラスター創成事業、産学官連携戦略展開事業、地域イノベーション創出総合支援事業)の評価は、「廃止」となった。この日の議論の対象で、最もその内容を理解してもらえなかった事業だろう。これらの事業は、地域の大学や自治体あるいは共同研究相手の企業にとって使いやすい制度にするため、徐々に細かいメニューを設定してきたが、そうした地方にとっての「使いやすさ」も仕分け人から見たら「わかりにくさ。使いにくさ」と見えたらしい。そもそもこれらの事業をまとめて一群にしたことからして、最初から「廃止」の結論ありきではなかったか、と考えてしまう。

いずれにしろ、何かを判断する場合、事業の内容や趣旨を理解することと、判断の理由を明確にするということが、当然のことだろう。そうした意味では、科学技術に関する限り、事業仕分けという仕組み自体が適切ではない。そもそも総合科学技術会議の優先度判定などで毎年評価を行っているにもかかわらず、それに加えて事業仕分けをするということ自体が行政の無駄になっているのではないだろうか。

13日の事業仕分けに対する評価とその詳細は次の通りだ。

次世代スパコンプロジェクトは、仕分け人の判断は廃止1人、予算計上見送り6人、予算要求の縮減5人となり、縮減の内容は半額以上であった。結局、計画の凍結、ということで、来年度の予算は、「見送りに限りなく近い縮減」との結論となった。

大型放射光施設(Spring-8)は、結論は「3分の1から2分の1程度予算の縮減」(予算計上見送り1人、予算要求の縮減は半額3人、3分の1縮減3人、1割縮減2人、その他2人)、植物科学研究事業は「3分の1程度予算の縮減」(予算計上見送り1人、予算要求の縮減は半額1人、3分の1縮減2人、1割から2割4人、その他1人、予算要求通り2人)、バイオリソース事業は「3分の1程度予算の縮減」(廃止1人、予算要求の縮減は半額1人、3分の1縮減4人、1割から2割縮減1人、1割縮減2人、予算要求通り2人)。

深海地球ドリリング計画推進については、1人が予算要求通り、1人が廃止、1人が来年度予算計上の見送り、8人が予算要求の縮減、との評決結果となった。予算要求の縮減の中では、3割縮減が1人、2割縮減が2人、1割縮減が4人、となったことから、結局「1割から2割の予算要求の縮減」という結果になった。地球内部ダイナミクス研究については、1人が予算要求通り、2人が廃止、3人が来年度予算計上の見送り、予算要求の縮減のうち、半額の縮減が4人、半額以下の縮減が1人となった。廃止を含め、少なくとも来年度予算の計上をしないとの結果が5人、予算要求の縮減が5人となり「少なくとも来年度の予算の計上は見送り」と「予算要求の半額縮減」の両案併記となった。

競争的資金(先端研究)の予算については、来年度の予算計上の見送りが3人、予算要求の縮減が5人、予算要求通りが5人であった。ただし、予算要求通りとした仕分け人も、「若手研究者への資金配分にも力を入れてほしい」、「コスト削減が必要」とのコメントを付しており、全体としては予算要求の縮減の声が大きいと判断している。このため、「競争的資金については整理して縮減することが求められている」となった。また、制度については、資金の一元化の推進が8人、重複の排除・制度のシンプル化が4人であったため、一元化を含め、制度をシンプル化し、使い勝手の良いものにするよう求めた。

競争的資金(若手研究者育成)は、「予算要求の縮減」(予算計上見送り1人、予算要求の縮減では半額3人、3分の1縮減3人、その他4人、予算要求通り2人)という結果になった。コメントの中に「ポスドクの生活保護のようなシステムはやめるべきだ。本人にとっても不幸」「教員免許をポスドクに付与する政策を検討すべきだ」などの意見があった。

世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムは、「予算要求の縮減」(廃止2人、予算計上見送り1人、予算要求の縮減では半額2人、3分の1縮減4人、その他1人、予算要求通り1人)。学術国際交流事業は、「予算要求の縮減」(廃止3人、予算計上見送り1人、予算要求の縮減では半額1人、3分の1縮減4人、その他1人、予算要求通り1人)。

地域科学技術振興・産学官連携については、そのこと自体の必要性を認めていないわけではないが、予算要求の縮減2人(半額縮減1人、その他1人)、予算計上見送り1人、自治体の判断に任せる3人、廃止5人となっており、国としてはやる必要がないということで「廃止」という結論になった。

理科支援員等配置事業は、「廃止」(廃止6人、自治体2人、予算計上見送り2人、予算要求の縮減・半額1人)。日本科学未来館は「予算要求の縮減」(民間へ移管2人、予算計上見送り1人、予算要求の縮減は3分の1縮減2人、その他6人)という評価だ。

【この記事へ読者コメント】  
科学技術政策の仕分け人
投稿者:goikenban 2009年11月24日掲載
「科学技術に事業仕分けは向いていない」との科学新聞記者の寄稿、具体的な内容、プロセスに踏み込んだご指摘で、共感する。

国家基幹技術となるような大型研究については、関係の研究者だけでなく、技術開発を担当する企業関係者も含めた積み重ねの検証を経て、総合科学技術会議で、達成目標、それに至る戦略、また優先度について議論をされているのであって、予算執行上の問題点を指摘することがあっても、事業そのものを専門外の仕分け人が短時間の議論をすることではない。

競争的研究資金、若手育成事業については、その仕組み、意義を十分に理解している人が、その理解を基に、執行上の問題点を指摘することがあっても、一面をとらえた表層的議論がなされてはならない。

仕分け人とされる中に、科学技術に関係している人が入っているとはいえ、個々の大型研究の議論に関係している人は少なく、また、近い分野であるからといって、一人の研究者が行う専門家としての発言は、多方面からなる幾度の議論の上で行われる総合科学技術会議などの議論と、その重みは比較のしようがない。研究資金、若手育成事業等についても、その仕組みの議論等に携わってきた人は少なく、少数で専門家として仕分け作業にあたられるのには違和感がある。「事業仕分け」的なことを否定するものではないが、特に科学技術においては専門家として仕分けに関わる人の人選も重要であり、そのあたりについて、科学新聞で検証をしていただければと思う。

事業仕分けは的はずれなものもあるが傾聴に値する指摘も多い これを機に真摯に本質を見つめ直せ
投稿者:K_Tachibana 2009年11月19日掲載
私自身は、今回の行政刷新会議による事業仕分けに「全面的に」反対の立場ではありません。

現実問題として、大幅に膨れあがった赤字を減らしていかないことには違いありませんし、こと科学技術に関しては、これまで聖域化されていたために改善すべき部分もかなり含まれていると感じていたからです。科学技術はたしかに重要には違いありませんが、同時に国家がデフォルトに陥ってしまうようなことは避けなければなりません。

仕分けされる方々のご苦労は十分理解できます。ふだんとは違った質問のされ方に説明員がとまどっている様子が、インターネットのライブ中継を通じてひしひしと伝わってきていました。

ただ、仕分け人には的を得た、真摯な示唆を与えていた方がおられた反面、既にコメントされているとおり、的を外した問いを仕掛けてくる方がおられたのが非常に気になりました。まず見直し・削減ありきなのでしょうね。仕分けによる削減目標が設定されているのですから、仕分けする側も必死になるのも当然でしょう。

今回の仕分け作業が、科学技術分野における国費の使われ方のムダ取りのいいきっかけづくりになればと思うのです。ある仕分け人の方が仰っていたことが心に残りました。研究プロジェクトを計画するときに、まず評価をどうするかというところまできちんと設計せよ。計画とのギャップが出たら、必要に応じて見直しをはかれ、と。至極当然のことだと思います。

ただ、逆に行き過ぎた削減を求めることは、科学技術の発展を阻害することにもなりかねません。単に事業仕分け反対、予算削減反対を訴えるのではなく、プロジェクトの計画者自身が真摯にこの計画が考え得るベストのものなのか、考え抜いてほしいと思います。国民目線というのは、そういったことだと思います。まずプロジェクトの計画段階で、専門外の第三者による評価を受け、PDCAサイクルがきちんと回るようなものに、そして行政縦割りの縄張り争いはやめて、もっと府省の枠を超えた形のプロジェクトにぜひ持っていってほしい、と切に願っています。それゆえ、今後の総合科学技術会議のあり方は徹底的に問われていくべきなのだと思います。

最も重要な議論が不足していないか?
投稿者:montana 2009年11月19日掲載
「科学技術分野に対する国費の投入に対して、いかなる成果を生んだか、あるいは、期待しているか?」

今回の事業仕分けにおいて、この質疑がもっとも典型的でありました。そして、この質疑がまともに行われていないことが顕著でした。

なぜそのような空虚な質疑応答になるのでしょうか。おそらく、成果とは技術立国に他ならないわけですが、では、技術立国とはいったいどういう状態を言うのか、という視点が聞く方にも答える方にも欠けているからではないでしょうか。

スパコンで1位になったらなぜ立国なのか? 立国とは科学者や技術者がどうなる状態か? あるいは、日本国民がどのような状態になることを言うのか?

私はこの議論が政治家側に欠けているのが最も気になりますし、また、官僚側にも共通した視点が無いのが残念です。

立国によってGDPを倍増する! そのために日本を含めた世界のトップレベルの科学者を10万人規模で集約する。国費を投じた事業の成果物を知的財産としてすべて民間に移管し、世界市場をけん引して制覇する。その重点分野を宇宙、医学、環境とする。また、科学系大学への外国からの学生を積極的に受け入れ、ビザを優遇する。GDPの増大に呼応し、科学者や技術者の収入をすべて倍増させる。

このような具体的な目標、すなわち、日本の未来に対するシナリオが無いがために、企業の四半期目標のような非常に低レベルな議論に陥っています。

文部科学省の意見募集
投稿者:PD 2009年11月19日掲載
文部科学省で行政刷新会議事業仕分け対象事業について意見を募集しています。

http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm

文科省のホームページでは、意見送付の期限を「予算編成にいたる12月15日までに」としていますが、効果のあるのは、今週末までの意見分布だとのことです。

結果は受け取ろう、そして次を考えよう
投稿者:miyabine 2009年11月18日掲載
結果として、科学技術関連のものは残念でしかたない。
それぞれの研究に従事されている方々の生活や今後の方向性、そして技術立国日本の行く末も心配だ。

結果は結果だが、このまま泣き寝入りするわけにはいかないと思う。
予算が減らされた・廃止になったならば、今回のそのマイナスが一体どの様な結果を生み、我々に影響してくるのか、そして技術国として競争国とどれほどの遅れを取ってしまうかなどの考察を明確に主張しなければならないと思う。
その考察を踏まえ、本当に必要が無いのか判断していただきたい。私は今回の仕分け判断は間違っていると信じている。

その矛先は政府だけでなく、我々を含めた一般市民にも向けて欲しい。
多くの報道が「減らされました、以上」で終わり流されていく。本当の技術国として、まずはその社会を変えていかないと。
衝撃的な出来事で、普段よりも多くの視線が科学技術分野に向けられていると思う。
できるならば全てを一般市民へ伝え、考えさせることで理系離れを変えるパラダイムシフトの波を生む一石になればと願う。

様々な逆境を乗り越えて技術国となった日本、ぜひ今回の逆境も(種類が違う気がしますが)乗り越えて科学技術分野にとって大きなプラスを生み出してもらいたい。

競争的資金(若手研究者育成)
投稿者:都内大学院生 2009年11月18日掲載
競争的資金(若手研究育成)では、評価委員たちは本質を理解せずに議論し採決していたと思います。

これによって、特に若手研究者への支援が突然削減されるのはまったく不適切だと思います。
仮に突然特別研究員制度が縮減され、すでに採用もしくは内定されている人が採用取り消しにあったとしたら、それはまるで昨年いくつかの企業が行い大きな批判を受けた「内定取り消し」や「非正規切り」を国が行うようなものです。
断じて許されるべきではありません。

また、若手研究育成に関する事業仕分けを録音したファイルによると、採決結果は、
・要求通り=2人
・来年度予算への計上見送り=1人
・縮減=10人
 うち
 10-20%削減=4人
 1/3削減=3人
 1/2削減=3人
でした。

これに対してとりまとめ役の蓮舫議員により「1/3と1/2が多いですね」と読みかえられてしまい、正式発表では10-20%削減を『その他』として表記し報告しています。
これは削減を強引に推し進めており、評価委員の採決をさらに過小評価して報告しています。

全体を通して、結論ありきの危険な会議だと思います。
このままでは優秀な若手研究者の道が閉ざされ、優秀な人材が海外に流出し、本当に取り返しのつかないことになると思います。

急激な政策変更は憲法違反の可能性があります
投稿者:iidako 2009年11月18日掲載
あまりにも急激な科学・学術政策の変更は、憲法第23条 「学問の自由は、これを保障する。」に抵触するかもしれません。

特に、特別研究員事業の急激な変更が、“これまで膨らましていた風船を一挙に割る”ようなものであったなら、若手層の研究生活は劇的に変わるわけです。

国の責任が問われるのではないでしょうか。

一切手をつけるなといっているわけではありませんが、この時期は急すぎるし、程度も超えている気がします。

責任者不在
投稿者:tomo 2009年11月18日掲載
この結論の責任は誰が取るのでしょうかね???

結果を多数決だけ公表して各仕分け人の個人名がわからないように評価を出したのはずるいですね。

同意見だが。。。。
投稿者:moriti 2009年11月17日掲載
確かに、科学技術に事業仕分けは向いていない。新政権が、科学技術に対してのビジョンを明確にできていないので、仕分けしようにも現政策のために廃止・縮減としか結論出せないようなものである。

しかしながら、説明者の仕分け人の質問に対する答え方の論点がずれているのが多かった。それに携わっている人達が、事業のあり方を理解していないのも現状の問題ではないでしょうか。

 
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