レビュー

一層の努力求められた国立大学法人等の施設整備

2009.08.06

 国立大学法人などの施設整備計画の進み具合と今後のあり方を検討している文部科学省の調査研究協力者会議が、国際的にも魅力があり、地球環境保全のモデルにもなるような知の拠点として施設整備に一層の公財政措置が必要とする中間まとめを公表した。

 国立大学法人等(国立大学、大学共同利用機関、国立高専)の施設は、人材育成や学術研究の礎として「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(2006-10年度)の下で整備、充実が進められている。

 「今後の国立大学法人等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議」(主査・木村孟 氏・元東京工業大学学長)が公表した中間まとめは、5カ年計画の整備目標である540万平方メートルのうち、約3割にあたる141万平方メートルが未整備で、さらに安全上・機能上問題を抱える老朽施設が、今年度末でなお全体の施設の4分の1に当たる約650万平方メートルある、としている。

 その上で、高度化・多様化する教育ニーズに対応するとともに、国内外の優秀な研究者や先端的な研究設備などが集積できる環境を確保し、さらに産業界とも連携し、地域社会の核となる、など今後の国立大学などの施設整備のあり方を示した。

 このために国に対しては、必要な施設整備についての財源の確保に努めることを、国立大学法人等に対しては、入札、契約手続きで施設整備事業の競争性、透明性を確保するとともに、施設整備による教育研究などへの効果・成果について、国民に対する積極的な情報提供、理解促進を図る努力を求めている。

 施設整備・充実がいかに急がれているかについては、このほか多くの記述が費やされている。

 「国際的な魅力を高めるための基盤の強化が不可欠」「学び舎として思いに残るものとなっていくよう、きらりと光る夢のあるキャンパスづくりが求められる」「人間性、文化性に配慮したゆとりと潤いのあるキャンパス環境の形成は欠かせない」「大学等の顔、地域のシンボルとしてふさわしい風格ある施設づくりが求められる」…。

 こうした前向きな表現が目を引く一方、現実との落差を如実に示す具体的な指摘も気になる。

 「大規模な地震などにより倒壊等の危険性のある施設が依然として残っている状況であり、安全・安心な教育研究環境が確保されていない」

 「基幹設備(ライフライン)についても、法定耐用年数を超えるものの割合が高く、特に、受変電設備やガス等の屋外配管などの機能劣化により、人命に影響を与える重大な事故などが発生するおそれがある」

 「実験研究上求められる室内環境(防音、防振、防磁、空調など)の不備や配管の腐食による水質の問題から、実験の精度に影響を及ぼす事例もある」

 「薬品等を使用する実験室の中に研究者のデスクを並べざるを得ないといった劣悪な環境下において教育研究を強いられるなど、教育研究上著しい支障が生ずるとともに、実験の安全確保が懸念されるケースも見受けられる」

 「外部資金の獲得によるプロジェクト研究などを実施している一部の大学において、ポストドクター等の定員外の研究者などの増加により、狭隘化が進展している事例も見受けられる。新たに採用したポストドクター等の若手研究者に対する独立した研究スペースの支援状況をみると、国立大学の約63%が『なし』と答えており、これら若手研究者が研究に専念できる自立的な環境が整っていない状況も発生している」

 「大学附属病院は、建物自体の老朽化のみならず、最先端医療に適さない旧来の病院施設を多く抱えており、順次再開発整備を行っているが、42大学附属病院中、再開発整備中が26病院、再開発未着手が7病院あり、適切な教育研究活動や医療活動等を行えない状況が多く残っている」…。

 国立大学等の使命・役割について中間まとめはどのように書いているか。

 「独創的・先端的な学術研究を推進するなど、わが国の高等教育と学術研究の中核を担ってきた。また、全国的に均衡のとれた配置により、地域の教育、文化、産業の基盤を支え、学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するとともに、生涯学習社会の実現や地域社会の活性化に貢献するなど、重要な役割を果たしてきた」

 それにしては、公的資金の投入がだいぶ後回しにされてきたのでは。そう感じる人も多いのではないだろうか。

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