レビュー

最先端研究開発支援プログラムに経団連提言丸のみの批判

2009.07.29

 岩波書店発行の月刊誌「科学」8月号、オピニオン欄で吉岡斉 氏・九州大学大学院比較社会文化研究院教授が「最先端研究開発支援プログラム」に対する疑問を呈している。

 吉岡 氏の主張は「文部科学省や総合科学技術会議が熟慮して企画・立案したものではなく、日本経済団体連合会の提言をほとんど丸のみにした」という記述に集約されていると思われる。

 日本経団連の産業技術委員会は、4月6日に「世界最先端研究支援強化プログラム(仮称)の創設について」と、同17日に「世界最先端研究支援強化プログラム(仮称)の執行に係る枠組みのあり方について」という提言を相次いで発表している。

 吉岡 氏は、これら2つの提言の中に「100億円規模×30課題の集中投資を行う」(実際の記述は「数百億円規模×30課題程度の集中投資を行う」)ことと、「本プログラムは経済危機対策の一環である以上、『研究のための研究』であってはならない。わが国の産業競争力強化や安全保障、ライフラインの強化等につながる『国家として担うべき研究課題』を選定し、明確な目標設定のもと研究開発が効果的に行なわれるとともに、その成果が市場化につながることが極めて重要である。こうした研究開発を実現するためには、欧米における研究開発コンソーシアムやテクノロジー・プラットフォーム等の成功事例も参考にして、コンソーシアムの成果が3〜5年後には見えるように運営し、研究成果の産業移転、ビジネス化を視野に入れた戦略と体制を構築する。同時に、特区の活用等を通じ、研究開発の推進および事業化において障害となる制度的制約の解消を図る(研究開発システム改革、社会システム改革)」ということがうたわれていることを挙げている。

 これら経団連の提言が直ちに補正予算に取り入れられ、内閣府総合科学技術会議は大急ぎで運営方針策定に乗り出し、6月19日の同会議による「最先端研究開発支援プログラム運用基本方針」の発表となった、というのが吉岡 氏の主張だ。

 こうした経緯を記した上で、 氏は「2,700億円という金額は、日本学術振興会の科学研究費補助金の1年半分に当たる大きな金額である。2,700億円あれば、他にもっと賢明な使い方がいろいろありそうなものである。しかし文部科学省や総合科学技術会議に、そのようなことを熟慮する時間はなかった。差し迫った補正予算要求の締め切りに追われ、日本経団連提言に渡りに船とばかりに飛びついたのである。その借金のツケは国民の税金により支払われることになる」と記事を結んでいる。

 ただし、「日本経団連提言の丸のみ」と断じる一方で吉岡 氏は、総合科学技術会議の「最先端研究開発支援プログラム運用基本方針」(6月19日)に「新たな知を創造する基礎研究から出口を見据えた研究開発まで、さまざまな分野およびステージを対象とした先端的研究課題…」という記述が入っていることに触れて、「基礎研究プロジェクトも排除されない形となっている」ことを日本経団連提言との「若干の差異」だと認めている。

 約30とされる最先端研究開発課題と中心研究者の選定作業は既にスタートしている。日本経団連が望む「成果が市場化につながる国家として担うべき研究課題」と、「新たな知を創造する基礎研究」に総額2,700億円がどのように配分されるのか。産業界、学界の大きな関心事になりそうだ。

 激しい陣取り合戦を適度な位置で収める難しい役を担わされているのは相澤益男 氏・総合科学技術会議議員(最先端研究開発支援ワーキングチーム座長)だろう。相澤 氏は、「最先端研究開発支援プログラム運用基本方針」を決めた6月19日の総合科学技術会議本会議で次のように発言している。

 「これまで科学技術の支援というのは、研究者というより、その周辺までを含めたところへの投資ということであった。しかし、今回最も画期的なのは、研究者個人に対して、その優れた頭脳を思い切って発揮させるという仕組みをつくる。そのために今までにないようなサポートの仕組みを作っていいんだということ。これは科学技術政策の根本的な革新につながる。その意味からも、ぜひこのプログラムを成功させたい」

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