レビュー

チンパンジーも音楽が分かるか?

2009.07.28

 チンパンジーもヒトと同様、協和音と不協和音の違いを聞き分ける、という研究成果が一部の新聞で報道された。

 新聞は拡大文字の影響で、昔のように長い記事を載せにくくなっている。どのようにしてこのような結論が得られたのか、そもそもチンパンジーに聞かせたという協和音と不協和音の違いとはどのようなものか。新聞記事だけではなかなか分からない。プレスリリースを直接読み、さらに分からないところを直接、この研究の中心となった橋彌和秀・九州大学人間環境学研究院准教授に説明してもらったので、紹介する。

 まず、研究の方法である。生後5カ月というチンパンジーの乳児に与えられた音は、リコーダーのデュエット用練習曲(Giesbert, 1978)から3曲をピアノとマリンバで演奏した曲だ。3曲を音符通り2つの異なった楽器で演奏した6種類。これらを協和音源としている。

 不協和音源はどのように用意したのか。例えば元の曲「Duette Englische e Meister」(Fmajor)の場合は、曲中のGの音をすべて半音下げG♭に、さらにCの音も同様C♭に下げてピアノとマリンバで同様に演奏した。使用した曲ごとに、「曲中に出現する特定の音を機械的に半音下げる」ことによって不協和バージョンを作成したわけだ。

 6種類の曲について、それぞれ本来の協和音と、不協和音バージョンのペアをつくり、それぞれのペアについて1回、計6回の実験を行った。寝かせたチンパンジーの手にひもをくくりつけ、ひもを引くと7秒間音が聴ける状態にし、「音が聞こえはじめてから一定間隔(14秒)以内に反応すれば同じ曲を連続して聴けるが、一定時間(14秒)反応しなければ別の曲に切り替わる」という条件の中で、チンパンジーがどのように振る舞うかを見た。

 結果は「使用した6 種類の刺激ペアすべてについて一貫して協和バージョンの再生時間が長く、統計的な分析からも協和バージョンの再生時間が有意に長いことが示された。すなわちチンパンジーはひも引きのルールを迅速に学習し、協和的な音楽を『好んで再生した』と結論付けることができる」という。

 こうした研究の持つ意味、方向は何か。橋彌和秀 氏は次のように答えている。

 「今回の知見は、言語と並んでヒトという生物に普遍的に見られる音楽という特性の一部(協和的な音への選り好み)が、少なくともチンパンジーと共有されている可能性を示すもの。これによって、ヒトがもつ音楽への好みの基盤について、文化の側面だけでなく生物学的な側面から議論する展望が拓かれたとわれわれは考えている。今後は、例えば調性などがもつ感情価(長調が楽しく、短調が悲しく聞こえる)についても、検討を進めたい」

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