レビュー

社会現象に70年周期はあるか?

2009.01.30

 「今のままだと若い人をつぶしかねない」。30日に掲載した金澤一郎 氏・日本学術会議会長のインタビュー記事「社会の期待にこたえるアカデミーに」第5回「真の人材育成を」で、金澤 氏が日本の研究現場の現状に対する危機意識を率直に語っているのが興味深い。 氏はまた「日本は今、明治維新、太平洋戦争の敗戦に続く第3の意識改革の時期にあるような気がする。学術の面でも本気で意識改革をしないといけないのではないか」とも言っている。

 19日に掲載した黒川清 氏・政策研究大学院大学 教授(前内閣特別顧問)のハイライト記事「2030年までに食糧・エネルギーの純輸出国に」の中で、 氏は「近代日本の歴史は約70年サイクルで2回の激変があった。どこの世界でも同じようなサイクルだ。(今は)日本にとっては『明治維新』、『太平洋戦争』以来の激変のとき」と言っている。環境の激変に対応できないと日本は大変なことになる、という危機意識を黒川 氏も強く持っているということだ。

 金澤 氏は、いまが明治維新、太平洋戦争の敗戦に続く第3の意識改革の時期といっているだけで「周期性」については触れていない。たまたま黒川 氏の認識、主張と共通するところがあっただけかもしれない。しかし、現、前日本学術会議会長が結果としてそろって同じことを言っているのは、ただごとではない。では社会現象に「70年周期」などというものが本当にあり得るのだろうか。

 70年サイクルと聞いて「南関東大地震69年周期説」を思い起こす人はいないだろうか。断層を特定して何年おきに地震が再来するかを論じるならわかる。しかし、南関東というおおまかな地域を対象に、大きな地震が何年おきに起きるなどと言うのはほとんど意味がない。いまでは多くの人がそう言うだろうが、しばらくはだれもまともに批判せず、「69年周期説」は世の中に流布していた。

 黒川 氏に教えられて、中西輝政 氏・京都大学大学院教授(国際文明学)の著書「日本の『敵』」(文春文庫)を読んでみた。最終章に確かに出てくる。

 中西 氏は1995年に「阪神・淡路大震災」「オウム・サリン事件」「兵庫銀行、木津信用金庫の破綻(97年の山一証券、北海道拓殖銀行破綻、98年の金融システム全体の危機につながることにも触れて)」が続けざまに起きた例を挙げ、70年周期を説いている。「バブルの宴」の直後に必ず大地震が起き、その後に日本社会は大きな「断絶的変化」を経験している。それが(ほぼ)70年の周期で起こっている—というのだ。「阪神・淡路大震災」が起きた95年の一つ前には、第1次世界大戦によって引き起こされた「成金バブル」の後で関東大震災(1923年)が起きており、27年の「金融恐慌」へと続いたことを挙げている。さらにその前はといえば、老中・田沼意次 氏による商業資本重視の政治を謳歌した安永・天明期のバブル、さらにその70年前は元禄期のバブルがあり、いずれもバブル直後に大地震が起きていることを指摘している。

 中西 氏の主眼は、ほぼ70年ごとに日本社会に「断絶的変化」が起きていることについて詳述することだろうから、こちらの方について何も言及せずに「70年周期説」の是非だけをこれ以上論じるのは不適切だろう。

 自然界でよく知られている現象に、13年と17年おきに大発生する米国のセミの話がある。なぜ13年と17年かの定説はないようだが、吉村仁・静岡大学教授が13と17が素数であることにその理由を求める説を唱えているそうだ。別々の周期で一斉に羽化し、子孫を残して続けてきたセミが、同じ年に同時に羽化し大発生すると、それぞれ多くの子孫を残せなくなる。同じ年に大発生するのを避けるには、13と17という素数同士の周期がよかった、ということらしい。

 社会の断絶的変化が起きるのに70年という周期があるかどうか。その根拠を明確にあげるのは、米国のセミの発生周期よりさらに難しそうに見えるが、数理統計学者などはどうみるのだろうか。

関連記事

ページトップへ