レビュー

ネット発信をめぐる論議

2008.08.18

 朝日新聞が17日朝刊第2社会面の連載企画「二つの戦後」4回目「格差泥沼『いっそ戦争』」の中で、「希望は、戦争?」というブログを取り上げていた。10日早朝のTBS系ラジオ番組「日曜放談」でも自民党の加藤紘一 氏が、ちょっとだけ言及していた。

 17日、日経新聞の朝刊特集欄は「ネット対策各国で進化」と題する特集記事を載せており、フランス、韓国、米国、中国の各政府が、「インターネットに書き込まれる大量かつ先鋭的な政府批判」に対し、「反論したり国民と対話をしたりするなど、『攻め』の構えを見せ始めた」動きを紹介している。

 各国政府がこのような動きを始めた理由について記事は「ネットを媒介として特定の意見が極端に増幅される現象が政治や外交の前に立ちはだかる事例が増えているため」としており、この現象は「集団分極化」と呼ばれ、世界中で問題になり始めたことを伝えている。

 日経の記事では、日米2人の識者のコメントが紹介されている。「ハンドルネームを第三者機関への登録制にし『ネットでの発言責任を明確にすべきだ』」。西垣通・東京大学教授の主張である。もう一人は、リー・米ウィスコンシン大学教授で「利用者は、政府の情報からテロ組織のプロパガンダにいたるまで、ネット上の情報を見極められる目を持つべきだ」という意見である。

 西垣 氏は、ハンドルネームを第三者機関への登録制にする必要があるとする理由として「政府の人間が反政府組織を装ってネットで扇動し、同調者を摘発する国も出る恐れがある」ことを挙げている。「匿名」による“メリット”を享受できるのは、権限をもたない個人に限った話ではない、ということだろう。

 情報発信に関しては、紙媒体、電波媒体、ネットのいずれにも現場経験を持つ鳥越俊太郎 氏が、18日の毎日新聞朝刊メディア欄に署名記事を書いている。「口汚い罵りの言葉を連ねた文章が今日もインターネットにあふれています。匿名だからできる。これは所詮徒花にすぎません」。鳥越 氏は、責任が個人より会社や団体に帰属していることが多く、さらに“ムラ社会”である日本では「『匿名で意見を発表してもいいんだ』という暗黙の了解文化がはびこってしまった」という背景も挙げている。

 ネットでの情報発信をめぐる論議は、簡単に収まるようにはみえない。

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