レビュー

野口英世アフリカ賞受賞者に教えられたこと

2008.06.02

 日本政府が設立した野口英世アフリカ賞の授与式が5月28日、第4回アフリカ開発会議が開催された横浜市で行われた。引き続き29、30の両日、第1回の受賞者となったブライアン・グリーンウッド博士(ロンドン大学衛生熱帯医学校教授)、ミリアム・ウェレ博士(アフリカ医療研究財団会長、ケニア国家エイズ対策委員会委員長)の受賞記念講演会が東京と福島でそれぞれ開催された。

 グリーンウッド博士は、英ケンブリッジ大学で医学博士号を取得した後、英医学研究評議会の在ガンビア研究所長を15年間務めるなど、30年間にわたりアフリカでマラリアの研究を続けた。マラリアだけでなく髄膜炎や肺炎など、アフリカにおける乳幼児死亡の主要な原因となっているその他の感染症の解明にも貢献している。野口英世アフリカ賞委員会委員長を務める黒川清 氏・内閣特別顧問の紹介によると、若くしてアフリカでの研究生活を選んだ博士に対して「彼はおかしいのではないか」という声が周囲から寄せられたという。

 ウェレ博士は、出身地ケニアのナイロビ大学で学んだ後、米ジョンズ・ホプキンズ大学で修士、博士号を取得するなど医学研究のかたわら、一貫してアフリカにおける医療サービスの提供という実践的活動に力を注いだ業績が受賞の対象となった。公衆トイレを継続的に設置することや、地域の診療所に子供たちを小グループに分けて予防接種に連れて行くことにより、乳幼児接種率を大幅に引き上げたほか、エイズ感染者・患者など弱者の側に立った医療活動を40年にわたって続けて来た。

 ウェレ博士が、講演の中で紹介したサハラ砂漠以南のアフリカの現状は厳しい。

 世界人口の10%がここに住む。しかし、世界中で病気にかかっている人々の25%は、この地域で占められる。妊娠関連の合併症で死亡する女性は16人に1人に達し、世界平均の74人に1人、先進国だけをとれば2,800人に1人という比率に比べると著しく大きな危険にさらされている。母親が亡くなったばあい、子どもはほとんど生存できず、負担は家族全体にのしかかってくる。先進国では平均寿命が80歳台になろうとしているのに、この地域は30歳代に下がってしまった。

 こうした状況の中で、両博士の長年にわたる献身的努力を支えてきたのは何か。コミュニティに対する信頼のように見えた。

 「アフリカでは、自分のやっていることの結果を見ることができる。ワクチンがうまく行かなかったことに不安の声が出ていると聞いて、そのコミュニティに出かけ説明したことがあった。何が起きているか理解してくれた。ロンドンや日本に伝える前に、まずコミュニティで話す。それが鍵になる」と、グリーンウッド博士は、医学研究、医療サービスの向上にはコミュニティのサポートが重要であることを強調していた。

 「アフリカの楽しみは屋外で研究できること。現場で活動できることだ。アフリカの人々は賢くないと思っている人がいるがそうではない。独立して50年しかたってなく、貧困の中にいるためにどうしてよいか分からないのだ。私自身も、宿題をするとき(明かりがないため)火をたいて勉強をしたこともある。アフリカに問題があると思うならば、日本からももっとアフリカに来てほしい。われわれは東の人たちとも交流したい」

 ウェレ博士の訴えに、国際協力の在り方をいろいろ考えさせられた参加者も多いのではないかと思われる。

 両博士とともにパネルディスカッションに加わった黒川清・内閣特別顧問は、次のように指摘していた。

 「日本の政府開発援助(ODA)は、かつて世界1位だったのが、今や1位は米国、3年前、英国が2位になり、さらにフランス、ドイツにも追い越されて現在は5位にまで下がってしまった。来年はオランダにも抜かれ6位になるだろう。こんな国になりたいだろうか」

ページトップへ