レビュー

日本にリベラルアーツは根付くか

2008.05.02

 当サイトが毎月掲載している英国在住のフリーランス・コンサルタント、山田直 氏による「英国大学事情」が、今月号で大学の知識移転活動を取り上げている。英国の大学は研究成果を基にした起業活動にも熱心で、過去3年間に上場したスピンアウト企業25社の株式時価総額は3,000億円以上に上るという。

 これら上場したスピンアウト企業に対する外部からの投資額を比較したグラフが載っている。ケンブリッジ、インペリアルカレッジ、オクスフォードといった英国の名だたる大学が上位を占めているが、これら3大学を上回り、それも飛び抜けてスピンアウト企業の外部資金額が多いトップの大学がある。米国のスタンフォード大学だ。スピンアウト企業の外部資金の額は約2億6,000万ポンド(約550億円)にも上る。

 ところで2日に掲載したばかりのハイライト欄記事、2008年日本国際賞受賞者ヴィントン・サーフ博士「発明は条件がそろわない限り実現しない」中にもスタンフォード大学が出てくる。インターネットの父と呼ばれるサーフ博士が学んだ大学(学部)が、スタンフォードなのだ。スタンフォード大学について博士は次のように褒め、感謝している。「リベラルアーツを重視するため、西洋文明史と当時呼ばれた授業が必須でした。ギリシャ時代、ローマ時代からルネッサンス、いわゆる『理性の時代』まで、私は本当にたくさんの本を読みました。スタンフォードには今も感謝しています。後になって自分からこうした本を読むとは思えないからです」

 博士は、子どものころから数学や化学実験が好きで、高校時代はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のコンピュータの使用許可をもらいプログラム作りにも熱中したという典型的な科学少年だったとも言っている。その博士が、スタンフォード大学の4年間は「数学とコンピュータに強い関心があり、これらの科目で多くのカリキュラムをとりました」という一方で、豊かな教養を高める教育(リベラルアーツ)もきちんと受けていたということだ。

 ちなみに博士は、スタンフォード大学を出た後、いったん実世界を経験したいとIBMに入社、2年後にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の修士課程に入る。博士課程修了までここで過ごし、計算機科学者としての地歩を固めた。

 リベラルアーツを重視する一方で世界一外部資金を集めるスピンアウト企業を抱える。こうしたスタンフォード大学の姿をどのように理解すればよいのだろうか。米国の大学では、学部と大学院のあり方がまったく異なるということではないか。学部の時点で専門にきっちり区分けしてしまうことをせず、広く学問を学ばせ、専門領域を深めるのは大学院に入ってからでよい、という。

 教養教育(リベラルアーツ)への関心は、日本でもようやく高まってきているように見える。読売新聞が連載中の「日本の知力」の中でも、今年度から学科の枠を取り払った一括入試法に変更した国際基督教大学の例が取り上げられていた。同大学は入学後2年間のカリキュラム選択を自由にし、専門を選ぶのは3年に進むときでよいとする日本の大学としては画期的な改革に踏み切った。「研究の中身を知った上で専修を決める。教養教育を重視する米国のリベラルアーツ・カレッジの方式に合わせた」という日比谷潤子 氏・学務副学長の言葉が紹介されている(読売新聞25日朝刊「日本の知力」第3部「大学で考える4」)。

 この記事には、村上陽一郎 氏・国際基督教大学客員教授の話もついており、その中で村上教授は次のように言っている。

 「専門は大学院にまかせ、教養学部は4年間、人間としての成熟、よき市民としての成熟のための教育をする。それがリベラルアーツ・カレッジの本来の意味だ。…今の大学は、人間としての成長、知識人としての成熟を目指す場と考えたほうがよい」

 さて、ここまで踏み切れる大学が、日本にあるだろうか。

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