レビュー

バイオテクノロジーの特異性

2008.03.03

 2月25日から当サイトで連載を始めた井村裕夫 氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター首席フェロー、元京都大学総長)のインタビュー記事「急を要する臨床研究開発体制の改革」を読んで、薬の開発が恐ろしく手間も金もかかることにあらためて驚く人は多いのではないだろうか。

 3月2日の毎日新聞朝刊「今週の本棚」欄に載った中村桂子 氏・JT生命誌研究館館長の書評もまた衝撃的だ。中村 氏が批評している本は「サイエンス・ビジネスの挑戦−バイオ産業の失敗の本質を検証する」(ゲイリー・p・ピサノ著、日経BP社)で、著者はハーバード・ビジネススクール教授という。

 以下、本の内容を中村 氏の評を引用して紹介すると「バイオテクノロジーというサイエンスのビジネスは、ろくろく利益を上げられていない上に、新薬開発を通じた科学への貢献という意味でも際だった生産性を示していない」。具体的に言えば「アメリカでのバイオテクノロジー上場企業の売上高は90年頃から上昇し、今や350億ドルになっているものの、利益が見られるのは3社のみで全体としては利益ゼロが続き、マイナスの会社も少なくない。これだけ長期間利益を上げない産業は他に例がないそうだ」。

 なぜ、製薬研究開発が簡単に利益に結びつかないのか? 「一つは、深刻な不確実性がありリスクが著しく高いこと、もう一つは、そのプロセスが『すりあわせ(インテグラル)型』である」の2つの特異性によるという。それぞれ部品を独立して設計しても困らない普通の工業製品と異なり、「医薬品が入り込む人体は、部品間の相互依存性が高く、全体としてのすりあわせが不可欠」という大きな違いがあるということだ。

 では、バイオテクノロジーの産業化に効果的な戦略はないのか。ピサノ教授の提言は「基礎科学への投資」それも「寡占にせず多くの人に研究させること、横断的研究を助成すること」。次いで「トランスレーショナル・リサーチの必要」という。

 ピサノ教授の提言を「気が抜けるほど真っ当な提案」と評した上で、中村 氏は、日本の現状に懸念を表している。

 「米国でさえこれだとすると、戦略も分析もなしに集中と選択とイノベーションを謳っていてどうなるのだろうと心配になる」

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