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幹細胞研究における日米の違いは?

掲載日:2007年12月26日

25日、京都で開かれた特別シンポジウム「多能性幹細胞研究のインパクト-iPS細胞研究の今後」(科学技術振興機構主催)は、予想通り大勢の傍聴者が詰めかけ、関心の高さを裏付けた。

山中伸弥・京都大学再生医学研究所教授が切り開いた多能性幹細胞(iPS細胞)研究は、研究者だけでなくブッシュ米大統領やローマ法王庁が即座に歓迎の意を表するなど国際的にも大きな反響を呼んでいる。シンポジウムでは研究者に混じって再生医療の実現を切望する患者が会場から山中教授に要望や質問をする姿も見られたように、臨床応用への期待の大きさがうかがえた。

一方、幹細胞にからむ基礎研究に加えて、臨床研究、治験のシステムにかかわる分野で、欧米との間に大きな差があるという現実も浮き彫りになったように見える。「山中チームだけで駅伝を走っているようなもの。このままではたくさんチームがある米国にはかなわない」と山中教授が訴えていたが、臨床応用になるとさらに大きな問題があることを、座長を務めた井村裕夫氏(元京都大学総長)が指摘していた。

井村氏は「新しい薬が世界で一番使えないのが日本。薬の治験の仕組みが確立していないからだ。再生医療の面でも10年くらいかかってやっと皮膚の再生医療が認められただけ。後は全部ストップしている。iPS細胞の研究成果を本当に治療につなげるにはかなりの臨床研究が必要。どのようにして臨床につなげていくかについてもみんなで考えていかなければならない」ことを強調していた。

iPS細胞が生み出された発端は、2003年秋、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)にさかのぼる。奈良先端科学技術大学院大学に助教授のポストを得たばかりの山中氏の提案が、研究課題の一つとして採択された。岸本忠三・元大阪大学総長を研究総括とするこのチーム型研究は「免疫難病・感染症等の先進医療技術」を創造するという狙いでスタートした。岸本氏の専門である免疫にも、感染症にも関係ない山中氏の研究テーマが採択された経緯が岸本氏から明らかにされた。

「最終的に分化した細胞に遺伝子を入れてもう一度元の細胞に戻す。そんなことが起こるはずはないとも思ったが、この若い研究者の迫力に押され、百に三つもあたれば、というくらいの気持ちで採択した。それが千に三つのような結果を生んだ」

さらに岸本氏が強調したのが、いろいろなところに研究費を出して、今回のような思いもかけぬ成果が出てくるようにするのが大事だ、ということだった。

「マスコミも政府も日本初のオリジナルな研究成果だから世界に負けてならないと騒いでいるが、原理原則の一番大事なところは既に2年前にマウスで発見している。いろいろなところでいろいろな人が(iPS細胞を)利用して、人の役に立つようにすればそれはすべて山中先生の業績につながる」

iPS細胞研究プロジェクトは、既に走り出し、今後相当な国費が投入されるのは間違いない。同時に、一般的な研究助成の在り方については、岸本氏の言うように「百に三つ」、あるいは「千に三つ」という成果を狙う“無駄”を覚悟する姿勢も、研究費を支給する側には求められるということだろう。「5年後、10年後に次の“山中教授”が出てくるために」

米科学誌「サイエンティフィックアメリカン」は、山中教授の研究成果を2007年新技術ベスト50に選んだ(26日ニュース「米科学誌の新技術ベスト50に山中伸弥教授ら」参照)。山中教授は、ヒトの皮膚細胞からiPS細胞を作り出すことにも成功しているが、それ以前のマウスによる成果を選定の対象にしているところが、まさに岸本氏の主張と同じだ。

ちなみに同誌のベスト50には、山中氏を含め「幹細胞の制御」というジャンルで4人・組が選ばれている。iPS細胞については山中氏だけで、残りの3人・組は、すべてiPS細胞研究より先行していた胚性幹細胞(ES細胞)にかかわるものだ。培養ES細胞を皮膚など望みの組織に誘導するための新手法を示したヤン(カリフォルニア大学バークレー校)とコンクリン(グラッドストーン心血管疾患研究所)、p63という遺伝子が幹細胞を未分化状態に保つ役割を果たしていることを見つけたマキーオン(ハーバード大学医学部)、貴重な卵子の代役として異常な胚から正常と見られるES細胞を作り出す方法を発見したエガン(ハーバード幹細胞研究所)である。

これらはすべて米国の成果だ。山中氏の独創性をきちんと評価した米科学誌の公平な姿勢と、米国におけるES細胞研究の厚みを感じさせる選定といえないだろうか。

『幹細胞ホメオスタシス』国際技術力比較調査(幹細胞研究)
【この記事へ読者コメント】  
幹細胞・再生医学戦略作業部会の初会合を傍聴してきました
投稿者:K_Tachibana 2008年1月10日掲載
自己Resですいません。

今日、幹細胞・再生医学戦略作業部会の初会合を傍聴してきました。

作業部会開始早々の自己紹介で、山中伸弥さんは「専門はiPS細胞です」とひと言、会場は爆笑の渦に包まれました。彼は笑いのツボを押さえているようです。

山中さんは、iPS細胞研究の今後に向けたプレゼンテーションの中で、「埋もれた人材の発掘」を何度も繰り返し強調されていたことに、私はこころ動かされました。彼自身、98年に帰国した際に「PAD(=Post Americana Depression)」に悩み、うつ状態となって一時は研究者を辞めようとさえ思ったそうです。その後99年にNAISTにPI(=Principal Investigator)として独立したラボを持つことができたために、研究者として復活できた経験が、「埋もれた」若手研究者を積極的に登用しようという気持ちにさせたのだと思います。

作業部会のメンバーのひとりである、東北大の大隅典子さんが、研究人材、知財人材以外に、iPS細胞研究は「研究と社会とのインターフェースとなりうる人材が必要な分野」ではないかと発言され、山中さんも同意されていたことについても印象に残りました。ここしばらくの山中さんのiPS細胞研究に対するマスコミの報道は、どうも再生医療に特化した内容に研究を矮小化して伝えているのだそうです。彼自身が書き下ろしたこれまでの雑誌記事などを読めばそれはおかしいということに気づくはずではないかと思いますが、現実はなかなかそうはならない。

座長の西川伸一さん(理研CDB)は、東京電力の発行する雑誌Illumeの最新号に掲載されているiPS細胞の記事を「iPS細胞研究のおかれた現状を正しく表現している」と紹介していましたが、iPS細胞に関心をもつ人がどれだけIllumeの記事の存在に気づくでしょうか。

蟷螂の斧でもよいから,ブログやネットなどを通じて、必要なことを伝える努力を続けていくとともに、これからできる予定の「iPS細胞研究コンソーシアム」でも必要な人材に対する予算を、あらかじめ確保しておくことが必要不可欠なのだと思います。

是非知りたいです
投稿者:かがくん 2008年1月10日掲載
幹細胞・再生医学戦略作業部会なるトコでは、何が話されているのか是非とも伺ってみたいです。どなたかレポートしてくれませんかね。

明日は幹細胞・再生医学戦略作業部会の初会合ですね
投稿者:K_Tachibana 2008年1月9日掲載
今日のサイエンスポータル編集ニュースにも出ていた、幹細胞・再生医学戦略作業部会を傍聴して、どのようなことが話題に上るのか、実際に聞いて確かめてみたいと思います。

Science Portalの読者のなかから、科学技術政策に興味をもった方が現れて実際に会議の傍聴に出向き、その内容がScience Portalの記事に反映されるようになれば面白いですよね。
 
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