レビュー

総合科学技術会議の悩み?

2007.11.12

 来年度の科学技術予算編成に向けて政府内部の作業が進んでいる。戦略的な研究開発という大方針に沿い、優先度評価をきちんと反映した編成の前提となる各府省の予算要求は、果たして適切なのだろうか。

福田首相が初めて議長として出席した10月29日の総合科学技術会議は、各府省の概算要求について優先度を付ける審議を行った。今回の評価では、各府省の科学技術施策について総括的な見解を示したのが特徴という。内容は、なかなか厳しい。

まず、文部科学省に対しての見解は次のようだ。
「基礎研究を担う省として、将来の研究のあり方を示すグランドビジョンを示した上で、個別の科学技術政策を推進すべき。特に国際競争力強化という視点での基礎研究推進の在り方、地方大学など地方の知の拠点の研究能力の向上策、基礎研究とプロジェクト研究のバランスをどのように考えるか、等についての考え方の整理が必要」「ブレークスルーとなるような挑戦的な新規施策が乏しく、今後の基礎、基礎研究の推進が危うい。一層のハイリスク・フロンティア研究の掘り起こしが必要」…以下略…

次に経済産業省に対しては。
「経済のグローバル化、環境・エネルギー制約の下で、我が国が目指すべき産業構造の姿を見通し、そのためにどのような産業政策を展開する必要があるかを明確にした上で、個々の技術開発施策の産業政策上の位置付けの明確化を行うことが必要」「省全体としての科学技術施策のプライオリティを明確化すべき。施策の一層の選択と集中を進め、他省との連携施策では、産業経済省が主か従かを鮮明にしつつ、積極的に推進すべき」…以下略…

 厚生労働省には。
「厚生労働行政における科学技術政策の位置付けを明確にし、それに基づき、省全体として各研究事業の重み付けを行うことが必要。特に臨床関連研究では、医療機関・研究機関等における臨床研究の位置付けの強化、治験の効率化による迅速化が必要であり、制度改革を引き続き遂行する等、一層の省のイニシアティブが必要」「競争的資金の公募を行う際には、厚生労働省として戦略的に設定した目標が達せられるよう、公募テーマとして研究の目的や出口をできるだけ詳しく個別具体的に示し、応募者に目指す意図を明確に伝えるべき」…以下略…

 農林水産省には。
「省が担っている政策ミッションにおける科学技術政策の役割等の位置付けの明確化が必要。例えば食料関係にかかわる研究開発と農業政策の関係は明確だが、その他のものは政策との関係が不明確」「バイオ燃料等バイオマスおよびGMO(遺伝子組み換え作物)の利用については、農業政策としてだけでなく、利活用や社会制度改革などに密接に関係している。関係省庁との連携や役割分担など全体像を踏まえた展開が必要」…以下略…

 総務省には。
「世界規模で展開の早いICT(情報通信)科学技術がいかに国民生活を向上させていくか、国民が夢を描けるように姿を示すべき。特に、地域に対する取り組みについても一層推進すべき」
「研究開発の成果を社会で活用するためには国際標準化が必要であるが、総務省が担当するICT分野において特に重要であることから、各研究開発施策の中に明確に位置付けることが必要」…以下略…

 防衛省、国土交通省、環境省、内閣府、警察庁、外務省についての見解は省略する。

 総合科学技術会議は、日本全体の科学技術をにらみ、総合的かつ基本的な政策の企画立案と総合調整を行う役割を担っている。議長は首相で、議員には学界、産業界で指導的立場にある有識者に加え、内閣官房、科学技術政策担当、総務、財務、文部科学、経済産業の各閣僚がメンバーとして顔をそろえている。

 ここに紹介した見解をざっと読んだだけでも、省がそれぞれ科学技術予算を要求する時点で戦略的な考え方が不十分、と総合科学技術会議が見ていることが分かる。要求の必要性と理由についてきちんとした整理、主張が行われていないということでは、国としてどの分野、テーマにどれだけの研究資産を投入するか、的確な判断は難しいのではないか。

 さらにもう1点見解から懸念されるのは、それぞれの省における科学技術関連予算の占める位置が、低いのではないかということだ。各府省が、研究開発の予算枠は例年この程度だからその範囲内で考えろ、という姿勢だとすると、イノベーションどころか、臨床関連研究のように重要性も方法論も相当程度分かっている分野ですら、世界をリードする成果を挙げるのは難しいのではないだろうか。

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