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トムソン社のノーベル賞有力候補者とは

2007.09.12

 トムソンサイエンティフィック社が、今年のノーベル賞の有力候補者を発表した。物理学部門で飯島澄男氏(名城大学教授、日本電気株式会社特別主席研究員)と戸塚洋二氏(高エネルギー加速器研究機構前機構長、東京大学・特別栄誉教授)の2人が含まれている。

 では、トムソンサイエンティフィック社はどのような根拠で、毎年、ノーベル賞の有力候補者を探し出し、公表しているのだろうか。

 トムソンサイエンティフィック社は、同社のウェブサイトによると、「トムソンコーポレーションの一事業部。研究段階からその開発プロセスにいたるまでの科学・技術情報のインフォメーション・ソリューションプロバイダーとして、世界最大級の特許および学術文献情報データベース・分析システムを提供している」会社だ。

 世界の9,300もの学術誌を収集しており、世界中の論文がこれらの雑誌の中でどれくらい他の研究者によって引用されているかを示すデータを持っている。

 ノーベル賞の有力候補者の選定にあたっては、まず、論文がどのくらい他の研究者によって引用されているかを表す「総被引用数」が多いことに加え、「ハイインパクト論文」の多さが考慮されている。総被引用数が多い研究者とは、「過去20年以上にわたって彼らが出版した学術論文の被引用数に基づいて、各分野の上位0.1パーセントにランクする研究者」を指す。また、ハイインパクト論文とは、「各年、分野(22分野)ごとの最も引用されたトップ200論文。1981年以降の各年に対して選んでいくので、毎年増えていく。古い論文ほど多く引用されるチャンスがあり、また分野によって多く引用されたりするので、そうしたバイアスを避けて高被引用論文を選んだものとして、ハイインパクト論文を位置づけている」と説明されている。

 これだけでは、有力候補者を絞りきれないらしい。実際のノーベル賞の選考は、最初にどの分野に対してその年の賞を与えるかを決めた後で、もっとも功績のある研究者を選び出すと考えられているからだ。このため、物理学、化学、医学・生理学、経済学それぞれのノーベル賞選考委員会が、ことしの授賞対象として目を付けていそうなテーマや発見もトムソンサイエンティフィック社の持つデータから想定して、それぞれ有力候補者が探し出された。

 飯島、戸塚両氏が挙げられた物理学分野では、ノーベル賞選考委員会が狙いを付けていると想定される3つのテーマ・発見が選ばれ、このうち「物理、化学分野の革命を起こすきっかけとなったカーボンナノチューブの先駆的な研究」に対して飯島澄男氏、「ニュートリノ振動および質量の発見における指導的役割」に対して、戸塚洋二氏がカナダのアーサー・マクドナルド氏とともに受賞候補者とされた。

 残り一つのテーマ・発見は「宇宙論、特に近年のガンマ線バーストに関する研究への貢献」で、英国人の天文学者、マーティン・リース氏の名前が挙げられている。

 これら3つのテーマ・発見が、ノーベル選考委員会のことしの選考対象から外れている可能性も十分あり、トムソンサイエンティフィック社は、昨年までに同社が公表した候補者でまだ受賞していない研究者たちもことしの受賞候補者に含まれるとしている。

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