レビュー

歴史認識、ナショナリズムを科学することは可能か?-大学広報誌拾い読み

2007.08.15

 「感情論に近い歴史認識論、ナショナリズム論を日韓関係の言説空間においてこれ以上一人歩きさせないためには、ポリティカル・サイエンスをサイエンスらしくするための努力は続けなければならない」

 東京大学広報誌「淡青」19号に玄大松(ヒョン・デソン)・東京大学東洋文化研究所助教授(当時・現 准教授)の「『歴史認識』、『ナショナリズム』を科学することは可能か?」という論説が載っている。玄氏は、それぞれ領有権を主張して韓国と日本が対立している「独島/竹島問題」について、「なぜ韓国人は独島を韓国の領土と信じるのか」、「なぜ日本人は竹島を日本の領土だと信じるのか」を解明することで、この問題の本質に迫ろうとしている韓国人研究者だ。

 氏は自らの研究姿勢について、次のように書いている。「『独島/竹島問題』におけるマス・メディアの影響に注目し、日韓のマス・メディアが作りあげる『疑似現実』、世論の『生産』と『消費』との双方向的なメカニズム及びそれを可能とする社会・文化的な条件が何かを解明しようとした」

 その結果、明らかになった韓国側の現実として、次のように述べている。

 「韓国で構築された『独島論の言説空間』が偏った空間であることと、独島の領有権主張に歴史認識問題などを結びつけ、歴史の記憶を絶えず想起させていることなどが明らかになり、また韓国人はマス・メディアが作り上げた『疑似現実』に強く影響され、幼児期に既に、『独島は韓国の領土』という認識と、否定的日本イメージとを抱くようになり、教育の役割は既に形成された認識を公認する役割をすることが明らかになった。また独島認識と日本イメージとが関連性が高く、かつ独島認識と日本イメージとが対日態度に影響を及ぼすことなどをも確認した」

 また、このような確認について「12年間の新聞記事2,734件の内容分析、韓国の中・高・大学生2,112人のアンケート調査の分析によって下した、一応『科学的な』結論である」としている。その上で、冒頭に紹介した「ポリティカル・サイエンスをサイエンスらしくするための努力は続けなければならない」という困難な使命をあらためて自身に課している。

 (引用は東京大学広報誌「淡青」19号「『歴史認識』、『ナショナリズム』を科学することは可能か?」から)

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