レビュー

「湯川中間子理論の正しさスパコンで確認」の意義

2007.06.21

 筑波大学と東京大学がスーパーコンピューターを使い「原子核の中にある“強い力”(核力)の起源を量子力学から解明することに世界で初めて成功した」と、20日、発表した。

 当サイトに掲載の全国3紙のウェブサイトでも、それぞれ各紙のトップ科学ニュースとして報じられている。3紙の見出しは次の通りだ。

 「核力:スパコンで検証、湯川理論裏付ける 筑波大など」(毎日)、「湯川中間子論、スパコンで正しさ確認…筑波大大学院」(読売)、「湯川中間子論、スパコンが証明 筑波大」(朝日)

 湯川理論というのは、湯川秀樹博士が、正電荷を持つ陽子や電荷を持たない中性子が原子核内に束縛されているのは、未知の粒子である中間子による“強い力”(核力)が働いているためである、というもので、湯川博士は1949年にこの業績でノーベル物理学賞を受賞している。その後、陽子、中性子、中間子などがさらに基本的な粒子であるクォークからできていることが分かってきた。湯川博士が説明した核力の起源をクォークから説明することが求められたが、クォークの基礎理論である量子色力学が複雑であるために、これが極めて困難だった。

以上のような背景の下に今回の計算が試みられ、首尾良く、期待される結果が得られたということである。以下は、筑波大学と東京大学のプレスリリースから読み取れる研究成果の要点、意義である。

 「われわれの理論計算は、遠方では湯川博士の提唱した核力の理解が正しいことを示している。これは、提唱後72年を経た湯川中間子論が、初めて量子力学から検証されたことを意味している」

 この部分が、全国紙3紙が見出しにとった部分だ。一方、計算結果にはもう一つ重要なポイントがある。

 「陽子と中性子が10のマイナス13乗センチメートル程度の距離まで近づくと、湯川中間子1個の交換だけでは説明できない引力が働くこと、もっと至近距離まで近づくと、引力の数十倍の強い斥力が働くことも分かる。つまり、核力の斥力芯が、世界で初めてクォークから導出されたわけだ」

 要するに湯川中間子論は、量子色力学からも正しさが再確認されたが、10のマイナス13乗センチメートルより至近距離になると、別の力が働き、とくにさらに至近距離になると逆(反発し合う)の大きな力が働いていることが、計算でも確かめられた、ということのようだ。

「この斥力芯のおかげで、陽子や中性子が近づきすぎず、原子核は比較的低密度に保たれている。また、太陽質量の1〜2倍の重さを持つ中性子星が、自己重力で崩壊してしまわないのも斥力芯のおかげ」ということが今回の計算結果ではっきりし、「斥力芯は普遍的に存在するのか?」、「斥力芯を生み出す本質的なメカニズムは何か?」といった次なるテーマが浮かび上がってくる、ということもプレスリリースから読み取ることができる。

 (毎日、読売、朝日の引用は、MSN毎日インタラクティブ、YOMIURI.ONLINE、asahi.com から)

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