レビュー

迫られる研究費配分の審査法見直し

2007.01.11

 教授、助手の懲戒解雇に至った東京大学大学院の論文ねつ造疑惑を、10日夜のNHK報道番組「クローズアップ現代」が、取り上げていた。

 当事者である教授、助手のインタビュー映像をはじめ、研究費配分のありかたにまで踏み込んで、疑惑の起きた原因に迫っていた。

 「部分的にあったと言わざるを得ない」

 「研究費を交付する審査にも問題があったのでは」というキャスターの質問に、研究を配分する側を代表する形で出演していた科学技術振興機構の北澤宏一理事(日本学術会議会員)が答えていたのが、目を引いた。

 「最近、論文を引用されやすい論文誌に論文を出す、それもなるべくたくさん出す。それが研究成果の高い人だという風潮が、研究者に出てきた。(論文の)数を稼ぐという風潮を、研究費の配分においても偏重しすぎたきらいがある」という反省に立った発言だ。

 番組は、今回のねつ造疑惑で、教授が実験を助手に任せきりにしていたこと。その結果、疑惑解明のための大学側の調査に対して、ねつ造がなかったことを教授として証明できなかった事実も、当事者たちのインタビュー映像で、明らかにしていた。

 北澤理事は、東京大学の厳しい処分の意味するところについて、「これまで個人の責任だったのが、組織として責任を取らされる。そういう時代になった。教授の資質も、これまでと違った資質が問われる時代になった」と語っていた。

 研究の細かい部分を若い研究者に任せることは認められるものの、「科学にとって事実こそが最も尊い事実だ、という雰囲気を研究室に広める」責任が、教授には求められるという考え方だ。

 こうした指摘に異を唱える人は少ないだろう。ただ、今後、研究費が真に受けるに値する研究者に配分されるだろうか? このような疑惑、あるいは明白な不正は起こりにくくなるだろうか、となると、いろいろ意見はあると思われる。

 7日の日経新聞朝刊「視点」面で、塩谷喜雄・論説委員は、次のような厳しい見方を示している。

 「競争的資金などといわれながら、『有望』とされる分野や人に資金は集中する。審査や評価といっても、誰も責任など負いたくないから、後から批判されにくい有名人に資金を配分しがちになる。…評価する側も研究する側も、成果が確実でない分野への投資や挑戦を避け、リスクを回避してそこそこの研究テーマを推進する。結果は当然そこそこの成果しか得られない…」

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