レビュー

リベラルアーツ(教養)との融合求められる科学

2006.12.20

 「科学を健全に発展させ、優れた科学者を育成し、科学に人間性を取り戻すには、科学とリベラルアーツ(教養)を融合させなければなりません」

 5年前に脳梗塞で倒れて以来、厳しい日常生活を強いられている免疫学者の多田富雄氏が、読売新聞19日夕刊の「文化こころのページ」で、このように語っている。

 多田さんの体の状態は「自力では食べることも、水を飲むこともできなくなりました。口の中は乾いているのに、よだれがとめどなく流れる」という。しかし、アインシュタインを扱ったという新作能「一石仙人」を書き上げるなど、生きる姿勢はあくまで前向きだ。

 2日に東京・渋谷で行われた「セルリンタワー能楽堂」の5周年記念公演「語り・舞・能舞〜馬場あき子による『橋姫』の世界」(2006年12月2日編集だより 参照)でも、夫人の押す車いすに座り、舞台に見入る姿が見られた。

 多田さんは「医療保険の診療報酬を改定し、リハビリテーション医療の日数に制限を設け」た国の対応を「障害者の『再チャレンジ』を認めない非情なもの」と批判し、「制限撤廃を求める署名を呼びかけ、全国44万人分の署名を厚生労働省に提出」したことを紹介している。

 同時に自分の専門領域である科学の現状にも厳しい目を向け、「いま、科学はますます細分化され、ほかの領域には関心を持たない」と危機感をあらわにしている。

 具体的な行動として、今月には「科学とリベラルアーツを統合する会(仮称)」を発足するという。「障害者の上、お金も力もありませんが、いい友達だけはいる。やろうと思ったらやるんですよ」

 多田さんに賛同する「いい友達」は、おそらくたくさんいることだろう。(読売新聞の引用は東京版から)

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