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会議で消極的な人に発言をうながす効果的な合図とは?

掲載日:2019年5月27日

会社員にとって、会議というのは困ったものだ。そこで討議のうえ決定に至る会議ならともかく、たんなる「情報共有」や、とくに差し迫った議題もなく定例的な顔合わせが目的の会議もある。自分の仕事は前に進まず、時間の浪費ばかりが気になる。今年4月21日付の朝日新聞朝刊は、業績が好調な企業では「意思決定する会議」が多く、下降している企業では「情報共有の会議」が多いと指摘していた。

東京都市大学の市野順子(いちの じゅんこ)教授らのグループは、会議を効率よく実りあるものにするための支援にコンピューターを使う方法を研究している。市野さんらがこのほど発表した論文で取り上げたのは、会議に出ているみんなから意見を引き出すには、どういう合図を参加者に送ればよいかというテーマだ。

せっかくの会議なのだから、参加者の知恵をたくさん集められたほうがよい。座って聞いているだけという参加者が多い会議は、もったいない。だからといって、「合図」を送ったために討議が中断されてしまうのも困る。みんなが前向きに参加することをうながす合図は、だれに向かってどのように送るべきなのか。

市野さんらは、協力してくれた企業の本物の会議を使って、こんな実験をしてみた。その会議は、責任者がみんなの前でなにかを決定するというタイプのものではなく、広く参加者から意見を募るブレーンストーミングの会議。参加者は4~5人で、もちろん会社の同僚だからお互いを知っている。かれらに、「社員が健康で生産的に働けるように支援する方法」をテーマに、1回につき40分の話し合いをしてもらった。これを計16回にわたって繰り返した。

参加者の椅子の座面には振動装置が組み込んである。これを震わせて、参加者に合図を送る。今回の実験では、「どういう場合に信号を送るか」「どういう方法で信号を送るか」という二つの側面のうち、後者にスポットをあてた。前者についても、人工知能の利用などで自動化できる可能性はあるが、今回の実験では、信号を送るタイミングの判断はプロの司会者に任せた。「会議を円滑に効率よく進めるには、そろそろ別の人が発言したほうがよい」「なにか言いたそうな参加者がいるな」と司会者が判断したとき、座面を震わす。ただし、司会者は別室で会議を観察していて、会議の参加者には司会者の存在は知らせていない。

問題は、だれに合図を伝えるかという点だ。市野さんらが試みたのは、「発言に消極的な人」にだけ通知、そのとき場を仕切っている「発言中の人」にだけ通知、そして「全員」に通知の3パターン。いずれも、どのパターンで通知しているかは参加者に伝えている。つまり、参加者は、お尻の下が振動したとき、その振動の意味を知っているということだ。

この振動が会議に与えた影響を、合図の後で話し手が交代したかどうかを指標に調べてみた。その結果、合図から10秒後に話し手が代わった割合は、「全員」に通知した場合が64%、「発言中の人」にだけ通知した場合が44%、「発言に消極的な人」にだけ通知した場合が13%だった。この数字の統計学上の意味合いは、「全員」と「発言中の人」には差がなく、それらに比べて「発言に消極的な人」が低いことになるという。

「発言に消極的な人」にだけ合図を送る方法は、「そろそろ発言してください」という警告をストレートに伝えたことになるので、もっとも効果がありそうにも思えるが、そうではなかったわけだ。この方法だと、合図が送られた本人は、その合図が他の参加者には送られていないことも知っている。その後のアンケートでわかったのは、「自分に警告が出ていることをみんなに知られなくてよかった」「自分に合図が来たことは他の人にはバレていないから無視しよう」という態度だという。

一方、「発言中の人」にだけ送るパターンは、不快な方法として不評だった。市野さんは、「発言中の人に、『他のだれかに話をさせなければいけない』という負担感を与えてしまうのかもしれない。『あなたはそろそろ話をやめろ』という嫌なメッセージと受け取られている可能性もある」とみている。

結局、この実験では、不快でもなく、参加者みんなが発言するようにうながす効果がある方法は、「全員」に合図を送るパターンだったわけだ。「そろそろ別の人が話したほうがよいですよ」というメッセージを全員が受け取り、それに対して参加者が協力しあう態度が生まれるのかもしれないという。

このほか、天井のライトを点滅させる方法も試したが、全員に振動の合図を送るほうが効果的だったという。事後アンケートによると、おなじように全員が合図を知ることになるにしても、座面の振動のほうが「個別感」が強く、自分も協力しようというマインドが高まるということのようだ。

会議を生き生きと円滑に進めるには、参加者どうしが自分の意見を出し合い、しかも言い争いにならず、話したそうにしている人に気を配って不快にならないよう柔らかくうながす――といった、きわめて人間的で高度な作業が必要だ。会議がよろしくない状態になったら、参加者全員のお尻をブルブルさせることで改善をうながせることが、市野さんらの実験でわかった。残っているのは、「よろしくない状態」をコンピューターが判断できるかという難問だ。

写真 市野さんらの実験に協力した企業の会議(市野さんら研究グループ提供)
写真 市野さんらの実験に協力した企業の会議(市野さんら研究グループ提供)
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