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代表的医薬品の遺伝子発現への影響データベースを構築、提供 バイオベンチャー企業

2017.12.15

佐藤匠徳 氏
佐藤匠徳 氏

 「ドラッグ・リポジショニング」は、疾患治療に有効なある薬が別の疾患にも効くことを見つけ出す作業で、新薬研究開発のための期間やコストを大幅に減らせるために最近の創薬の分野で注目されている。その一方で、別の疾患にも適用する場合は副作用がないことを確認する必要がある。代表的な医薬品がマウスのほぼ全器官に及ぼす影響を遺伝子発現に着目して網羅的に調べたデータベース(D-iOrgans Atlas)を国内バイオベンチャー企業が構築し、ウェブサイトを通じて製薬企業や研究機関、一般に提供するサービスをこのほど開始した。同社は創薬研究に伴う副作用チェックや創薬の「オープンイノベーション」に貢献できる、としている。

 この企業は「キャリュードゥ・セラピューティクス(Karydo・TherapeutiX、東京都千代田区)」で、国際電気通信基礎技術研究所の佐藤匠徳所長が代表取締役を務めている。遺伝子発現とは、遺伝子情報によってタンパク質が合成されて生体内で機能することで、器官への影響を調べる信頼できる指標になっている。佐藤氏ら同社の開発チームは、高脂血症治療薬、2種の統合失調症治療薬、プラチナ製剤がん治療薬、2型糖尿病治療薬、成分が異なる3種の骨粗しょう症治療薬という、いずれも世界的に広く使われている8つの大型新薬(ブロックバスター医薬品)を対象に、マウスの24器官に及ぼす影響を遺伝子発現のパターン変化に着目して解析、データベース化した。

 24器官は脳、心臓、肺、胃、肝臓など代表的器官のほか、下垂体、回腸、胸腺、精巣などほぼ全器官。生命体は体内のすべての器官が連関し合う「多器官連関ネットワーク」を形成しており、医薬品の人体への影響を調べる際はなるべく多くの器官への影響を網羅的に調べることが重要とされる。今回マウスのほぼ全器官の遺伝子発現のパターン変化を解析する作業には人工知能(AI)を駆使、解析対象にした遺伝子は約2万に及んだという。医薬品の人体器官への影響を直接細胞レベルで調べることは困難だが、佐藤氏によると、マウスの遺伝子発現変化を網羅的に調べることにより人体器官への影響をみることができる、とこれまでの信頼できる研究結果から言えるという。

 データベースを検索して利用する場合の料金は対象医薬品や利用量などにより異なる。プラチナ製剤がん治療薬は無料で、有料の場合は利用するデータの量などにより複数のプランが用意されている。佐藤氏らは、今回構築したデータベースを活用してもらうことにより、創薬研究の経費や時間が軽減でき、これまでの創薬のスクリーニング法では見つけられなかった副作用リスク発見などの効果が期待できる、としている。

 「キャリュードゥ・セラピューティクス」は科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)によるプロジェクトで得られた成果を実用化するために2015年10月に設立された。

図 Karydo TherapeutiX社 提供
図 D-iOrgans Atlasウェブサイト (Karydo TherapeutiX社 提供)

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