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北極海の海氷は、春先のわずかな緩みが夏の激減を引き起こす

掲載日:2017年9月14日

北極海の氷が減り続けている。夏の海氷面積は、この40年ほどで半分近くになった。地球温暖化の影響らしい。北極に関係する研究者の国際組織である「北極圏監視評価プログラム(AMAP)」は、2030年代後半には、夏の北極海からすっかり氷が消えてしまう可能性があると警告している。それにしても、北極海に浮かぶ氷は、なぜこんなに急減しているのか。

雪が積もったスキー場では、サングラスやゴーグルを着けていないと、目を開けていられないほどまぶしい。雪は太陽から来る光の大半を反射するからだ。

地球の表面などが太陽光を反射する割合を、科学の言葉で「アルベド」という。新雪や雪をかぶった海氷のアルベドは80%くらいにもなり、太陽からの光のほとんどを反射してしまう。言い換えると、雪や氷は太陽熱で温まりにくい。一方、海水面のアルベドは10%くらいだ。したがって、海は氷に覆われていると温まりにくく、解けて海面が顔を出すとどんどん温まる。どんどん温まるので、さらに氷は解ける。

このように、ある原因から生じた結果がふたたび原因となり、事態がさらに進展することを、「正のフィードバック」という。アルベドの低下と海氷の減少は、正のフィードバックで結ばれているのだ。このフィードバックも海氷減少の原因に違いない。

ここまでは想像がつく。解明すべきは、フィードバックの具体的な仕組みだ。太陽から吸収する熱が、海氷の減少にどれくらい大きく影響しているのか。どの季節に何が起きれば、夏の氷が激減するのか。「フィードバックも海氷減少の一因」という一般論ではなく、その仕組みを具体的かつ量的に解明できたとき、科学は前に進む。

国立極地研究所の柏瀬陽彦(かしわせ はるひこ)特任研究員と北海道大学などの研究グループは、北極海の氷が解け始める春先に、氷が緩んで動きやすくなればなるほど、夏の氷が大幅に減ることを明らかにした。この傾向は、2000年ころを境に強まっているという。

分析は、ロシア東部からアラスカ、カナダにかけての北極海を対象にした。海氷面積の変動が激しい海域だ。この海域で夏に海氷が解けるときに必要な熱量を1979~2014年の観測から求めたところ、太陽光がよくあたる5~9月に海水面で吸収されている太陽光の熱量とほぼ一致していた。つまり、氷を解かす主要因は、別の海域からの温かい水の流れ込みなどではなく、たしかに日射の吸収だったことになる。

次に柏瀬さんらは、夏季の氷の減り具合と関係の深い現象を探した。見つかったのは、氷が解け始める5月中旬から6月初旬までの「氷の動きやすさ」だ。この時期に氷が緩んで動きやすくなっていると、2~3か月後の夏に氷の融解が加速度的に進むことが分かった。最初の緩みの違いが例えわずかでも、それが「正のフィードバック」で増幅されて、夏の氷の大幅な減少につながるという。

また、2000年以降は、この氷の動きやすさがそれ以前に比べて2倍になっており、同じ程度の「動きやすさ」に対しても、氷の融解量が多くなる傾向があった。つまり、「正のフィードバック」が、より強烈に効くようになったのだ。

近年の北極海では、夏を越して厚くなっていく「多年氷」が減っている。ペラペラの氷が海面に浮いているだけなら、フィードバックの効果は目に見えて大きくなる可能性がある。AMAPの報告書も、北極海では地球温暖化の影響がはっきり出ており、その変化はすでに後戻りできない新たな段階に入ったと指摘している。柏瀬さんらが指摘したこのフィードバックも、それと深い関係があるのかもしれない。

図1 北極海でもっとも氷が少なくなる9月の海氷分布。左は1980年代、右は2010年以降の平均値。右側の数値は、海に占める氷の割合を表す「海氷密接度」。この30年ほどで、北極海の氷は激減している。今回の研究は、緑の線で囲んだ領域を対象にした。National Snow and Ice Data Center(NSIDC)によるデータを使用。(図はいずれも柏瀬さんら研究グループ提供)
図1 北極海でもっとも氷が少なくなる9月の海氷分布。左は1980年代、右は2010年以降の平均値。右側の数値は、海に占める氷の割合を表す「海氷密接度」。この30年ほどで、北極海の氷は激減している。今回の研究は、緑の線で囲んだ領域を対象にした。National Snow and Ice Data Center(NSIDC)によるデータを使用。(図はいずれも柏瀬さんら研究グループ提供)
図2 海氷と海面のアルベドの違いによる「正のフィードバック」の概念図。
図2 海氷と海面のアルベドの違いによる「正のフィードバック」の概念図。
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