ニュース

動物の運動速度制御する神経回路発見

2014.10.22

 歩く、走る、泳ぐ、はう、飛ぶなど、適切に動くことは動物が生きていくのに欠かせない。その動く速さを制御する神経細胞群(PMSIs)を、東京大学大学院新領域創成科学研究科の高坂洋史(こうさか ひろし)助教と能瀬聡直(のせ あきなお)教授らがショウジョウバエ幼虫(体長数ミリ)で見つけた。ヒトを含む動物の運動速度を制御する神経回路の仕組みの解明につながる発見といえる。10月16日付の米科学誌Current Biologyオンライン版に発表した。

 この神経細胞群は、個々の運動神経細胞の活動を適切なタイミングで抑制し、筋肉が縮む時間をコントロールして、 幼虫の体全体が動く速さを制御していた。ショウジョウバエ幼虫は、体の後ろから前にかけて順に筋収縮する運動パターンを示すが、類似のパターンは、魚類から哺乳類まで共通している。今回見つかったショウジョウバエ幼虫の神経細胞と非常に特徴の似ている神経細胞が、魚類、両生類、哺乳類の運動回路にも見いだされており、動物種を超えて共有されている運動速度制御の神経回路の存在がうかがえた。

 動物が適切の速さで動くことは、餌や縄張りの確保、配偶活動で重要なため、運動の速さを制御する神経回路は動物の進化の初期に確立して洗練され、保存されてきたと考えられている。しかし、神経細胞は数マイクロメートル(マイクロは千分の1)と小さいのに対し、動物はミリ〜メートルというサイズで、スケールが違いすぎる両者の関係を調べるのが難しく、運動速度を制御する神経回路はこれまでほとんどわかっていなかった。

 研究グループは、ぜん動運動するショウジョウバエ幼虫で研究した。この運動は、筋肉細胞の収縮を指令する腹部神経節(脊椎動物では脊髄に相当する)の神経細胞が、尾端から頭端の体節へと順々に活動させて生み出される。特定の細胞のみで遺伝子発現を誘導する手法で探索して、運動速度を制御するPMSIsという介在神経細胞を突き止めた。このPMSIs は運動神経細胞にシナプス接合を形成していた。

PMSIsが活動すると、運動出力がどのような影響を受けるのかを調べた。光で特定の神経細胞の活動を操作する光遺伝学の手法を用いて、運動中のショウジョウバエ幼虫のPMSIsの神経活動を活性化したところ、幼虫の動きがピタッと止まった。この実験で、PMSIsが運動神経細胞の活動を強力に抑制できることを示した。

 次に、PMSIsの活動を強制的に不活性化した場合、幼虫の運動速度が遅くなることが観察された。幼虫が適切な速度で動くためには、PMSIsの適度な活動が必要であることがわかった。さらに、動物のスピードの変化として現れたこれらの効果が、回路内部のどのような変化によるかを細胞レベルで調べた。PMSIsが活動できないと、個々の体節の運動神経と筋肉細胞の活動している時間が長くなり、結果として運動速度が遅くなった。これらの結果から、PMSIsが適切な運動速度を生み出す仕組みが明らかになった。

 能瀬聡直教授は「特定の神経細胞に運動の速度を制御する機能があることを個体レベルで実証したのは初めてだ。ヒトの歩行なども、脊髄にある同じような神経回路が制御して、左右の切り替えも含め、筋肉が適切な速さで順番に収縮するのを調節しているのだろう。研究を発展させて、幅広い動物に共通する運動制御の原理を解明したい」と話している。

PMSIの活動と運動速度との関係。生きた個体の中で、PMSI神経細胞の活動を強制的にOFFにすると、運動速度が遅くなる。
図1. PMSIの活動と運動速度との関係。生きた個体の中で、PMSI神経細胞の活動を強制的にOFFにすると、運動速度が遅くなる。
運動速度制御の神経回路モデル
図2. 運動速度制御の神経回路モデル。(左)PMSIsは運動神経細胞の活動時間を短く抑えることで、運動に必要な所要時間を短くし、適切な速さを実現する。(右)PMSIsの活動を強制的にOFFにすると運動神経細胞の活動時間が長くなり、運動が遅くなる。
(いずれも提供:東京大学)

ページトップへ